『源氏物語大成』と『雲隠六帖』の計量分析による比較

古典総合研究所 上田 英代
神戸学院大学  樺島 忠夫
統計数理研究所 村上 征勝
九州大学文学部 今西祐一郎
もとぶ野毛病院 上田 裕一

  1. 研究目的
     筆者等は,『源氏物語大成』校異篇の本文を,索引篇の語認定の基準に従って,語認定と品詞認定したデータベースを作成し,このデータベースを基に,昨年『源氏物語語彙用例総索引』自立語篇を刊行し,現在,付属語篇を作成中である。
     『紫式部日記』『山路の露』『雲隠六帖』『手枕』を『大成』と同じ認定基準でデータベースを作り,さまざまな角度から計量分析している。『山路の露』『雲隠六帖』『手枕』は,「源氏物語」にできるだけ似せようとして書かれた擬古文であるが,これらの作品の文体が,どの点で「源氏物語」と同じく,どの点で異なっているのかを,統計的手法を用いた計量分析を行って明らかにしている。

  2. 研究内容
     「源氏物語」から,およそ100年後に成立したと思われる『山路の露』では,品詞の出現率の差はあまり出なかったが,江戸時代成立の『手枕』では,ある程度の差があらわれた。同様の方法で,『雲隠六帖』について考察する。
     『雲隠六帖』は,雲隠,巣守,桜人,法の師,雲雀子,八橋の六篇からなり,内容は,それぞれ「源氏物語」に描かれていない部分を補っている。永暦元年(1160)前後に成立したであろうとされる「源氏物語」の最初の注釈書である『源氏釈』に,桜人の引用があることから,鎌倉時代以前には,成立したようであるが,現存のものは偽作であろうといわれている。従って奥書も信用されていない。ここでは,主要7品詞,名詞,動詞,形容詞,形容動詞,副詞,助詞,助動詞の総語数に対する出現率を,主成分分析,その他の方法で,比較する。出現する語の上位20 語についても詳しく分析する。さらに『大成』に出現していない語の使用率を調べる。これによって『雲隠六帖』の文体の特徴がある程度明らかになり,他作品との比較ができた。


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