「前田侯爵家蔵 傳津守國冬・慈寛各筆」について


六帖。大型の大和綴。料紙鳥の子。正嘉本と同じ装幀で、胡蝶装とせず大和綴にしてゐる。
箱書に、「古筆筆者不知」と書く。しかし總巻の巻に添へた極札には、「住吉神主津守國冬 あけまき
大本一冊」とあり、また東屋・浮舟・蜻蛉・手習・夢浮橋の各帖には、「西山僧慈寛法師」の極札が
ある。これらの鑑定が果たして正しいかどうかは疑問であるが、鎌倉末期頃の書寫と思はれる。
本文・装幀共に正嘉本と同類である。正嘉本を含めて、何人かが諸家に依嘱、數本を書寫せし
めたのかもしれない。帚木・藤裏葉・柏木・夕霧など同類のものが諸家に傳へられてゐる。そ
の中のあるものは巻子に改装してあるが、もと同様の大和綴であったことが、綴ぢ孔の位置に
よって推定される。



前田侯爵家蔵 傳津守國冬・慈寛各筆本 目次へ戻る

データベースへ戻る