47巻 あけまき
畳語、繰り返し文字は文字になおしてあります。
赤字が傳津守國冬・慈寛各筆本文です。（ ）内の語は本文にないことを示します。
1587-01 あまたとしみみなれたまひにし川かせもこの秋はいとはしたなくものかなしく
1587-02 て御はての事いそかせたまふおほかたのあるへかしきことともは中納言殿あさり
1587-03 なんつかうまつり給ひけるここにはほうふくの事經のかさりこまかなること
1587-04 を人のきこゆるにしたかひていとなみ給もいとものはかなくあはれに
1587-05 かかるよその御うしろみなからましかはとみえたり身つからもまうて給ていま
1587-06 はとぬきすて給はんほとの御とふらひあさからすきこえ給あさりもここにまいれ
1587-07 りみやうかうのいとひきみたりてかくてもへぬるなとうちかたらひ給ふほとなり
1587-08 けりむすひあけたるたたりのすたれのつまより木丁のほころひにすきてみえ
1587-09 けれはその事と心えてわか涙をはたまにぬかなんとうちすし給へる伊勢のこも
1587-10 かうこそはありけめとおかしくきこゆるもうちの人はききしりかほにさしいらへ
1587-11 給はむもつつましくてものとはなしにとかつらゆきかこのよなからのわかれを
1587-12 たに心ほそきすちにひきかけけむもなとけにふることそ人の心をのふるたより
1587-13 なりけるをおもひいて給御くわむもんつくり經仏くやうせらるへき心はへなと
1587-14 かきいて給へるすすりのついてにまらうと
1588-01 あけまきになかき契をむすひこめおなしところによりもあはなむとかきて
1588-02 みせたてまつり給へれはれいのとうるさけれと
1588-03 ぬきもあへすもろき涙のたまのをになかき契をいかかむすはんとあれはあは
1588-04 すはなにをとうらめしけになかめ給身つからの御うへはかくそこはかとなく
1588-05 もてけちてはつかしけなるにすかすかともえの給よらて宮の御ことをそまめやかに
1588-06 きこえ給さしも御心にいるましきことをかやうのかたにすこしすすみ給へ
1588-07 る御本上にきこえそめ給けむまけしたましゐにやととさまかうさまにいとよく
1588-08 なん御けしきみたてまつるまことにうしろめたくはあるましけなるをなとかく
1588-09 あなかちにしももてはなれ給らむ世のありさまなとおほしわくましくはみたてまつら
1588-10 ぬをうたてとをとをしくのみもてなさせ給へはかはかりうらなくたのみ
1588-11 きこゆる心にたかひてうらめしくなむともかくもおほしわくらむさまなとをさはやかに
1588-12 うけたまはりにしかなといとまめたちてきこえ給へはたかへしの心に
1588-13 てこそはかうまてあやしきよのためしなるありさまにてへたてなくもてなしはへれ
1588-14 それをおほしわかさりけるこそはあさきこともまさりたるここちすれけに
1589-01 かかるすまゐなとに心あらむ人はおもひのこす事あるましきをなに事にもをくれそめ
1589-02 にけるうちにこののたまふめるすちはいにしへもさらにかけてとあらはかから
1589-03 はなと行すゑのあらましことにとりませての給をくこともなかりしかは
1589-04 なをかかるさまにてよつきたるかたをおもひたゆへくおほしをきてけるとなむ
1589-05 おもひあはせて侍れはともかくもきこえんかたなくてさるはすこし世こもりたるほと
1589-06 にてみ山かくれには心くるしくみえ給人の御うへをいとかく朽木にはなしはて
1589-07 すもかなと人しれすあつかはしくおほえ侍れといかなるへきよにかあらむとうちなけき
1589-08 て物おもひみたれ給へるけはひいとあはれけなりけさやかにをとなひ
1589-09 てもいかてかはさかしかり給はむとことはりにてれいのふる人めしいて
1589-10 てそかたらひ給としころはたたのちのよさまの心はえにてすすみまいりそめし
1589-11 をもの心ほそけにおほしなるめりし御すゑのころをひこの御ことともを心にまかせ
1589-12 てもてなしきこゆへくなんの給契てしをおほしをきてたてまつり給し御有様
1589-13 にはたかひて御心はへとものいといとあやにくにものつよけなるは
1589-14 いかにおほしをきつるかたのことなるにやとうたかはしきことさへなむをのつから
1590-01 ききつたへ給やうもあらむいとあやしき本上にて世の中に心をしむるかた
1590-02 なかりつるをさるへきにてやかうまてもきこえなれにけん世人もやうやういひなす
1590-03 やうあへかめるにおなしくはむかしの御事もたかえきこえすわれも人もよのつね
1590-04 に心とけてきこえ侍らはやと思ひよるはつきなかるへきことにてもさやうなる
1590-05 ためしなくやはあるなとの給つつけて宮の御ことをもかくきこゆるにうしろめたく
1590-06 はあらしとうちとけ給ふさまならぬはうちうちにさりともおもほしむけ
1590-07 たることのさまあらむ猶いかにいかにとうちなかめつつの給へはれいのわろひ
1590-08 たる女はらなとはかかることにはにくきさかしらもいひませて事よかりなと
1590-09 もすめるをいとさはあらす心のうちにはあらまほしかるへき御事ともをとおもへ
1590-10 ともとよりかく人にたかひ給へる御くせともに侍れはにやいかにもいかにも
1590-11 よのつねになにやかやなとおもひより給へる御けしきになむ侍らぬかくてさふらふ
1590-12 これかれもとしころたになにのたのもしけあるこのもとのかくろへも侍ら
1590-13 さりき身をすてかたくおもふかきりはほとほとにつけてまかてちりむかしのふるき
1590-14 すちなる人もおほくみたてまつりすてたるあたりにましていまはしはしも
1591-01 たちとまりかたけにわひ侍りておはしましし世にこそかきりありてかたほなら
1591-02 む御ありさまはいとをしくもなとこたいなる御うるはしさにおほしもととこほり
1591-03 つれいまはかう又たのみなき御身ともにていかにもいかにも世になひき給へ
1591-04 らんをあなかちにそしりきこえむ人はかへりてものの心をもしらすいふかひなき
1591-05 ことにてこそはあらめいかなる人かいとかくてよをはすくしはて給へき松の葉
1591-06 をすきてつとむる山ふしたにいける身のすてかたさによりてこそ仏の御をしへ
1591-07 をもみちみちわかれてはおこなひなすなれなとやうのよからぬことをきこえしらせ
1591-08 わかき御心ともみたれ給ぬへきことおほく侍めれとたわむへくもものし
1591-09 たまはすなかの宮をなむいかて人めかしうあつかひなしたてまつらむと思ひ
1591-10 きこえ給ふへかめるかく山ふかくたつねきこえさせ給める御心さしのとしへて
1591-11 みたてまつりなれ給へるけはひもうとからす思ひきこえさせ給ひいまはとさまかうさまに
1591-12 こまかなるすちきこえかよひ給めるにかの御かたをさやうにおもむけ
1591-13 てきこえ給ははとなむおほすへかめる宮の御ふみなと侍めるはさらにまめまめしき
1591-14 御事ならしと侍めるときこゆれはあはれなる御ひとことをききをき露
1592-01 の世にかかつらはむかきりはきこえかよはむの心あれはいつかたにもみえたてまつら
1592-02 むおなし事なるへきをさまてはたおほしよるなるいとうれしきことなれ
1592-03 と心のひくかたなむかはかり思ひすつる世に猶とまりぬへきものなりけれはあらため
1592-04 てさはえ思ひなをすましくなむよのつねになよひかなるすちにもあらす
1592-05 やたたかやうにものへたてて事のこいたるさまならすさしむかひてとにかくに
1592-06 さためなき世のものかたりをへたてなくきこえてつつみ給御心のくまのこらす
1592-07 もてなし給はむなんはらからなとのさやうにむつましきほとなるもなくていと
1592-08 さうさうしくなんよの中のおもふことのあはれにもをかしくもうれはしくも時
1592-09 につけたるありさまを心にこめてのみすくる身なれはさすかにたつきなくおほゆる
1592-10 にうとかるましくたのみきこゆるきさいの宮はたなれなれしくさやうにそこはかとなき
1592-11 おもひのままなるくたくたしさをきこえふるへきにもあらす三条の宮
1592-12 はおやと思きこゆへきにもあらぬ御わかわかしさなれとかきりあれはたやすく
1592-13 なれきこえさせすかしそのほかの女はすへていとうとくつつましくおそろしく
1592-14 おほえて心からよるへなく心ほそきなりなをさりのすさひにてもけさうたち
1593-01 たることはいとまはゆくありつかすはしたなきこちこちしさにてまいて心に
1593-02 しめたるかたのことはうちいつる事もかたくてうらめしくもいふせくも思きこゆる
1593-03 けしきをたにみえたてまつらぬこそわれなからかきりなくかたくなしき
1593-04 わさなれ宮の御事をもさりともあしさまにはきこえしとまかせてやはみ給はぬ
1593-05 なといひゐ給へりおい人はたかはかり心ほそきにあらまほしけなる御ありさま
1593-06 をいとせちにさもあらせたてまつらはやとおもへといつかたもはつかしけなる
1593-07 御ありさまともなれは思のままにはえきこえすこよひはとまり給てものかたり
1593-08 なとのとやかにきこえまほしくてやすらひくらし給つあさやかならすものうらみかちなる
1593-09 御けしきやうやうわりなくなりゆけはわつらはしくてうちとけてきこえ
1593-10 給はむこともいよいよくるしけれとおほかたにてはありかたくあはれなる
1593-11 人の御心なれはこよなくももてなしかたくてたいめむし給ふほとけのおはする
1593-12 なかのとをあけてみあかしの火けさやかにかかけさせてすたれにひやうふをそへ
1593-13 てそおはするとにもおほとなふらまいらすれとなやましうてむらいなるをあらはに
1593-14 なといさめてかたはらふし給へり御くたものなとわさとはなく(しな)して
1594-01 まいらせ給へり御ともの人々にもゆへゆへしきさかななとしていたさせ給へり
1594-02 らうめいたるかたにあつまりてこの御まへは人けとをくもてなしてしめしめと
1594-03 ものかたりきこえ給うちとくへくもあらぬものからなつかしけにあい行つきて
1594-04 ものの給へるさまなとのなのめならす心にいりて思いらるるもはかなしかくほとも
1594-05 なきもののへたてはかりをさはり所にておほつかなく思つつすくす心をそさの
1594-06 あまりおこかましくもあるかなと思つつけらるれとつれなくておほかたの世(の)中
1594-07 のことともあはれにもおかしくもさまさまきき所おほくかたらひきこえ給うち
1594-08 には人人ちかくなとのたまひをきつれとさしももてはなれ給はさらなむとおもふ
1594-09 へかめれはいとしもまもりきこえすさししそきつつみなよりふしてほとけ
1594-10 の御ともし火もかかくる人もなしものむつかしくてしのひて人めせとおとろか
1594-11 す心ちのかきみたりなやましく侍をためらひてあか月かたにも又きこえんとて
1594-12 いり給なむとするけしきなり山路わけ侍りつる人はましていとくるしけれとかく
1594-13 きこえうけ給へるになくさめてこそ侍れうちすてていらせ給なはいと心ほそから
1594-14 むとて屏風をやをらおしあけていり給ぬいとむくつけくてなからはかりいり
1595-01 給へるにひきととめられていみしくねたく心うけれはへたてなきとはかかる
1595-02 をやいふらむめつらかなるわさかなとあはめ給へるさまのいよいよをかしけれ
1595-03 はへたてぬ心をさらにおほしわかねはきこえしらせむとそかしめつらかなりと(も)
1595-04 いかなるかたにおほしよるにかはあらむ仏の御まへにてちかこともたて侍ら
1595-05 むうたてなおちさせ給そ御心やふらしと思そめて侍れは人はかくしもをしはかり思
1595-06 ましかめれと世にたかへるしれものにてすくし侍そやとて心にくきほとなるほかけ
1595-07 に御くしのみたれたるをかきやりつつみ給へは人の御けはひ思やうに
1595-08 かほりをかしけなりかく心ほそくあさましき御すみかにすいたる心あらん人はさはりところ
1595-09 あるましかめるをわれならてたつねくる人もあらましかはさて(や)やみ
1595-10 なましいかにくちをしきわさならましときしかたの心のやすらひさへあやうく
1595-11 おほえ給へといふかひなくうしと思てなき給ふ御けしきの(いと)いとをしけれは
1595-12 かくはあらてをのつから心ゆるひしたまふおりもありなむと思わたるわりなき
1595-13 やうなるも心くるしくてさまよくこしらへきこえ給かかる御こころのほとをおもひよら
1595-14 てあやしきまてきこえなれにたるをゆゆしき袖の色なとみあらはし給
1596-01 心あささに身つからのいふかひなさも思しらるるにさまさまなくさむかたなく
1596-02 とうらみてなに心もなくやつれ給へるすみそめのほかけをいとはしたなくわひし
1596-03 と思まとひ給へりいとかくしもおほさるるやうこそはとはつかしきにきこえむかたなし
1596-04 袖の色をひきかけさせ給はしもことはりなれとここら御らむしなれ
1596-05 ぬる心さしのしるしにはさはかりのいみおくへくいまはしめたる事めきてやは
1596-06 おほさるへきなかなかなる御わきまへ心になむとてかのもののねききしありあけの月かけ
1596-07 よりはしめておりおりの思ふ心のしのひかたくなり行さまをいとおほく
1596-08 きこえ給にはつかしくもありけるかなとうとましくかかる心はえなからつれなく
1596-09 まめたち給けるかなときき給ことおほかり御かたはらなるみしかき木丁
1596-10 を仏の御かたにさしへたててかりそめにそひふし給へりみやうかうのいとかうはしく
1596-11 にほひてしきみのいとはなやかにかほれるけはひも人よりはけに仏をも
1596-12 思きこえ給へる御心にてわつらはしくすみそめのいまさらにおりふし心いられ
1596-13 したらむやうならむもありありておもひそめしにたかうへけれはかかるいみなからむ
1596-14 程にこの御心にもさりともすこしたはみ給なむなとせめてのとかに思なし給秋の夜
1597-01 のけはひはかからぬところたにをのつからあはれおほかるをましてみねの
1597-02 あらしもまかきのむしも心ほそけにのみききわたさるつねなきよの御物かたり
1597-03 に時時さしいらへ給へるさまいと見所おほくめやすしいきたなかりつる人人
1597-04 はかうなりけりとけしきとりてみないりぬ宮のの給しさまなとおほしいつる
1597-05 にけになからへは心のほかにかくあるましき事をもみるへきわさにこそはと物
1597-06 のみかなしくて水のをとになかれそふ心ちのみし給はかなくあけかたになりにけり
1597-07 御ともの人人おきてこはつくりむまとものいはゆるをともたひのやとりのあるやう
1597-08 なと人のかたるをおほしやられておかしくおほさるひかりみえつるかた
1597-09 のさうしをおしあけ給てそらのあはれなるをもろともにみ給ふ女もすこしゐさりいて
1597-10 給へるにほともなきのきのちかさなれはしのふの露もやうやうひかりみへもて行
1597-11 かたみにいとえむなるさまかたちともをなにとはなくてたたかやうに
1597-12 月をも花をもおなし心にもてあそひはかなき世のありさまをきこえあはせてなむ
1597-13 すくさまほしきといとなつかしきさましてかたらひきこえ給へはやうやうおそろしさ
1597-14 もなくさみてかういとはしたなからてものへたててなときこえはまことに
1598-01 心のへたてはさらにあるましくなむといらへ給ふあかくなりゆきむらとり
1598-02 のたちさまよふはかせちかくきこゆよふかきあしたのかねのをとかすかにひひく
1598-03 いまはいとみくるしきをといとわりなくはつかしけにおほしたりことありかほに
1598-04 あさ露もえわけ侍まし又人はいかかをしはかりきこゆへきれいのやうになたらかに
1598-05 もてなさせ給てたた世にたかひたることにていまよりのちもたたかやうに
1598-06 しなさせ給てよ世にうしろめたき心はあらしとおほせかはかりあなかちなる
1598-07 心のほともあはれとおほししらぬこそかひなけれとていて給はむのけしきも
1598-08 なしあさましくかたはならむとていまよりのちはされはこそもてなし給はむままに
1598-09 あらむけさはまたきこゆるにしたかひ給へかしとていとすへなしとおほし
1598-10 たれはあなくるしやあか月のわかれ(や)またしらぬことにてけにまとひぬへきを
1598-11 となけきかちなりにはとりもいつかたにかあらむほのかにをとなふに京おもひいて
1598-12 らる
1598-13 山さとのあはれしらるるこゑこゑにとりあつめたるあさほらけかな女君
1598-14 鳥のねもきこえぬ山とおもひしを世のうきことはたつねきにけりさうしくち
1599-01 まてをくりたてまつり給てよへいりしとくちよりいててふし給へれとまとろま
1599-02 れすなこりこひしくていとかくおもはましかは月ころもいままて心のとかなら
1599-03 ましやなとかへらむこともものうくおほえ給ひめ宮は人のおもふらむことの
1599-04 つつましきにとみにもうちふされ給はてたのもしき人なくてよをすくす身の心うき
1599-05 をある人とももよからぬ事なにやかやとつきつきにしたかひつついひいつ
1599-06 めるに心よりほかのことありぬへき世なめりとおほしめくらすにはこの人の御けはひ
1599-07 ありさまのうとましくはあるましくこ宮もさやうなる御心はえあらはと
1599-08 おりおりの給おほすめりしかと身つからは猶かくてすくしてむわれよりはさまかたち
1599-09 もさかりにあたらしけなるなかの宮をひとなみなみにみなしたらむこそ
1599-10 うれしからめ人のうへになしては心のいたらむかきり思うしろみてむ身つから
1599-11 のうへのもてなしは又たれかはみあつかはむこの人の御さまのなのめにうちまきれ
1599-12 たるほとならはかくみなれぬるとしころのしるしにうちゆるふ心もありぬ
1599-13 へきをはつかしけにみえにくきけしきもなかなかいみしくつつましきにわか世
1599-14 はかくてすくしはててむと思つつけてねなきかちにあかしたまひつるなこりいと
1600-01 なやましけれはなかの宮のふし給へるをくのかたにそひふたまふれいならす人の
1600-02 ささめきしけ(し)きもあやしとこの宮はおほしつつね給へるにかくておはしたれ
1600-03 はうれしくて御そひききせたてまつり給ふに御うつりかのまきるへくもあら
1600-04 すくゆりかかる心ちすれはとのゐ人かもてあつかひけむ思あはせられてまこと
1600-05 なるへしといとおしくてねぬるやうにてものもの給はすまらうとは弁のおもと
1600-06 よひいて給てこまかにかたらひをき御せうそこすくすくしくきこえをきていて
1600-07 給ぬあけまきをたはふれにとりなししも心もてひろはかりのへたてにてもたいめんし
1600-08 つるとやこの君もおほすらむといみしくはつかしけれは心ちあしとてなやみくらし
1600-09 給つ人人ひはのこりなくなり侍ぬはかくしうはかなきことをたに又
1600-10 つかうまつる人もなきにおりあしき御なやみかなときこゆなかの宮くみなとしはて
1600-11 給て心はなとえこそ思ひより侍ねとせめてきこえ給へはくらくなりぬるまきれ
1600-12 におき給てもろともにむすひなとし給中納言殿より御ふみあれとけさより
1600-13 いとなやましくなむとて人つてにそきこえ給さもみくるしくわかわかしくおはす
1600-14 と人々つふやききこゆ御ふくなとはててぬきすて給へるにつけてもかたとき
1601-01 もをくれたてまつらむものとおもはさりしをはかなくすきにける月日のほとを
1601-02 おほすにいみしく思のほかなる身のうさとなきしつみ給へる御さまともいと心くるしけなり
1601-03 月ころくろくならはしたる御すかたうすにひにていとなまめかしく
1601-04 てなかの宮はけにいとさかりにてうつくしけなるにほひまさり給へり御くし
1601-05 なとすましつくろはせてみたてまつり給に世のものおもひわするる心ちしてめてたけれ
1601-06 は人しれすちかおとりしてはおもはすやあらむとたのもしくうれしく
1601-07 ていまは又みゆつる人もなくておや心にかしつきたててみきこえ給ふかの人は
1601-08 つつみきこえ給しふちのころももあらため給へらむなか月もしつ心なくて又おはし
1601-09 たりれいのやうにきこえむとまた御せうそこあるに心あやまりしてわつらはしく
1601-10 おほえ給へはとかくきこえすまひてたいめむし給はす思のほかに心うき御心
1601-11 かな人もいかにおもひ侍らむと御ふみにてきこえ給へりいまはとてぬき侍し
1601-12 ほとの心まとひに中中しつみはへりてなむえきこえぬとありうらみわひてれいの
1601-13 人めしてよろつにの給よにしらぬ心ほそさのなくさめにはこの君をのみたのみ
1601-14 きこえたる人人なれは思にかなひ給てよのつねのすみかにうつろひなと
1602-01 し給はむをいとめてたかるへきことにいひあはせてたた入たてまつらむとみな
1602-02 かたらひあはせけりひめ宮そのけしきをはふかくみしり給はねとかくとりわきて
1602-03 人めかしなつけたまふめるにうちとけてうしろめたき心もやあらむむかしものかたり
1602-04 にも心もてやはとある事もかかる事もあめるうちとくましきは人の心に
1602-05 こそあめれと思より給てせめてうらみふかくはこの君をおしいてむおとりさまなら
1602-06 むにてたにさてもみそめてはあさはかにはもてなすましき心なめるをまして
1602-07 ほのかにもみそめてはなくさみなむことにいててはいかてかはふとさる事を
1602-08 まちとる人のあらむほいになむあらぬとうけひくけしきのなかなるはかたへは
1602-09 人のおもはむことをあいなうあさきかたにやなとつつみ給ふならむとおほしかまふる
1602-10 をけしきたにしらせ給はすはつみもやえむとみをつみていとおしけれは
1602-11 よろつにうちかたらひてむかしの御おもむけも世(の)中をかく心ほそくてすくしはつ
1602-12 とも中中人わらへにかろかろしき心つかうななとの給をきしをおはせし世
1602-13 の御ほたしにてをこなひの御心をみたりしつみたにいみしかりけむをいまはと
1602-14 てさはかりの給しひとことをたにたかへしと思侍れは心ほそくなともことに思
1603-01 いれぬをこの人人のあやしく心こはき物ににくむめるこそいとわりなけれけに
1603-02 さのみやうのものとすくし給はむもあけくるる月日にそへても御ことをのみこそ
1603-03 あたらしく心くるしくかなしき物に思ひきこゆるを君たによのつねにもてなし
1603-04 給てかかる身のありさまもおもたたしくなくさむはかりみたてまつりなさはや
1603-05 となむときこえ給へはいかにおほすにかと心うくてひとところをのみやはさて世に
1603-06 はて給へともきこえ給けむはかはかしくもあらぬみのうしろめたさはかすそひ
1603-07 たるやうにこそおほされためりしか心ほそき御なくさめにはかくあさゆふにみ
1603-08 たてまつるよりゐかなるかたにかとなまうらめしく思給つれはけにといとおしく
1603-09 て猶これかれうたてひかひかしきものにいひおもふへかめるにつけて思みたれ
1603-10 侍そやといひさし給つくれゆくにまらうとはかへり給はすひめ宮いとむつかし
1603-11 とおほす弁まいりて御せうそこともきこえつたへてうらみたまふをことはりなる
1603-12 よしをつふつふときこゆれはいらへもし給はすうちなけきていかにもてなす
1603-13 へき身にかはひとところおはせましかはともかくもさるへき人にあつかはれ
1603-14 たてまつりてすくせといふなるかたにつけて身を心ともせぬ世なれはみなれいの
1604-01 ことにてこそは人わらへなるとかをもかくすなれあるかきりの人はとしつもり
1604-02 さかしけにをのかししは思つつ心をやりてよつかはしけなることをきこえしらすれ
1604-03 とこははかはかしきことかは人めかしからぬ心ともにてたたひとかたに
1604-04 いふにこそはとみ給へはひきうこかしつはかりきこえあへるもいと心うくうとましく
1604-05 てとうせられ給はすおなし心になにこともかたらひきこえ給なかの宮は
1604-06 かかるすちにはいますこし心もえすおほとかにてなにともききいれ給はねはあやしう
1604-07 ありける身かなとたたおくさまにむきておはすれはれいの色の御そとも
1604-08 たてまつりかへよなとそそのかしきこえつつみなさる心すへかめるけしきを
1604-09 あさましくけになにのさはりところかはあらむほともなくてかかる御すまゐの
1604-10 かひなき山なしの花そのかれむかたなかりけるまらうとはかくけせうにこれかれ
1604-11 にもくちいれさせすしのひやかにいつありけむことともなくもてなしてこそ
1604-12 と思ひそめ給ひけることなれは御心ゆるし給はすはいつもいつもかくてすくさ
1604-13 むとおほしの給ふをこのおい人のをのかししかたらひてけせうにささめきさはいへと
1604-14 ふかからぬけにおいひかめるにやいとをしく(そ)みゆるひめ宮おほしわつらひ
1605-01 て弁かまいれるにの給ふとしころも人ににぬ御心よせとのみの給わたりし
1605-02 をききをきいまとなりてはよろつにのこりなくたのみきこえてあやしきまてうちとけ
1605-03 にたるを思ひしにたかふさまなる御心はえのましりてうらみ給めるこそ
1605-04 わりなけれよに人めきてあらまほしき身ならはかかる御ことをもなにかはもてはなれ
1605-05 ても思はましされとむかしより思ひはなれにたる心にていとくるしきを
1605-06 この君のさかりすき給はむもくちおしけにかかるすまゐもたたこの御ゆかりひとつに
1605-07 ところせくのみおほゆるをまことにむかしを思きこえ給心さしならはおなしこと
1605-08 におもひなし給へかし身をわけたる心の中はみなゆつりてみたてまつらむ心ち
1605-09 なむすへき猶かうやうによろしけにきこえなされよとはちらひたるものから
1605-10 あるへきさまをのたまひつつくれはいとあはれとみたてまつるさのみこそはさきさきも
1605-11 御けしきをみ給ふれはいとよくきこえさすれとさはえ思ひあらたむまし
1605-12 兵部卿宮の御恨もふかさまさるめれは又そなたさまにいとよくうしろみきこえ
1605-13 むとなむきこえ給それも思やうなる御事ともなりふた所なからおはしまし
1605-14 てことさらにいみしき御心つくしてかしつききこえさせ給はむにえしもかく世
1606-01 にありかたき御ことともさしつとひ給はさらましかしこけれとかくいとたつきなけなる
1606-02 御ありさまをみたてまつるにいかになりはてさせ給はむとうしろめたく
1606-03 かなしくのみみたてまつるをのちの御心はしりかたけれとうつくしくめてたき
1606-04 御すくせともにこそおはしましけれとなむかつかつおもひきこゆるこ宮の御ゆいこん
1606-05 たかへしとおほすかたはことはりなれとそれはさるへき人のおはせ
1606-06 すしなほとならぬ事やおはしまさむとおほしていましめきこえさせ給ふめり
1606-07 しにこそこのとののさやうなる心はえものし給はましかはひとところをうしろやすく
1606-08 み(をき)たてまつりていかにうれしからましとおりおりのたまはせしものを
1606-09 ほとほとにつけておもふ人にをくれ給ぬる人はたかきもくたれるも心のほかに
1606-10 あるましきさまにさすらふたくひたにこそおほく侍めれそれみなれいの事な
1606-11 めれはもときいふ人も侍らすましてかくはかりことさらにもつくりいてまほしけなる
1606-12 人の御ありさまに心さしふかくありかたけにきこえ給をあなかちにもてはなれ
1606-13 させ給ふておほしをきてつるやうにをこなひのほいをとけ給ともさりとて
1606-14 雲霞をやはなとすへてことおほく申つつくれはいとにくく心つきなしとおほし
1607-01 てひれふし給へりなかの宮もあいなくいとをしき御けしきかなとみたてまつり
1607-02 給てもろともにれいのやうに御とのこもりぬうしろめたくいかにもてなさむと
1607-03 おほえ給へとことさらめきてさしこもりかくろへ給へきもののくまたになき御すまゐ
1607-04 なれはなよよかにおかしき御そうへにひききせたてまつり給てまたけはひ
1607-05 あつきほとなれはすこしまろひのきてふし給へり弁はの給ひつるさまをまらうと
1607-06 にきこゆいかなれはいとかくしもよを思はなれ給ふらむひしりたち給へり
1607-07 しあたりにてつねなきものに思しり給へるにやとおほすにいとと我(か)心かよひて
1607-08 おほゆれはさかしたちにくくもおほえすさらはものこしなとにもいまはあるましき
1607-09 ことにおほしなるにこそはあなれこよひはかりおほとのこもるらむあたり
1607-10 にもしのひてたはかれとの給へは心して人とくしつめなと心しれるとちは思かまふ
1607-11 よゐすこしすくるほとに風のをとあららかにうち吹にはかなきさまなるしとみ
1607-12 なとはひしひしとまきるるをとに人のしのひ給へるふるまひはえききつけ
1607-13 給はしと思ひてやをらみちひきいるおなし所におほとのこもれるをうしろめたし
1607-14 と思へとつねの事なれはほかほかにともいかかきこえむ御けはひをもたとたとしから
1608-01 すみたてまつりしり給へらむと思けるにうちもまとろみ給はねはふと
1608-02 ききつけたまてやをらおきいて給ぬいととくはひかくれ給ぬなに心もなくねいり
1608-03 給へるをいといとをしくいかにするわさそとむねつふれてもろともにかくれ
1608-04 なはやとおもへとえたちかへらてわななくわななくみ給へは火のほのかなるに
1608-05 うちきすかたにていとなれかほに木丁のかたひらをひきあけて入ぬるをいみしく
1608-06 いとをしくいかにおほえ給はむと思なからあやしきかへのつらにひやうふを
1608-07 たてたるうしろのむつかしけなるにゐ給ぬあらましことにてたにつらしと思たまへ
1608-08 りつるをまいていかにめつらかにおほしうとまむといと心くるしきにもすへて
1608-09 はかはかしきうしろみなくておちとまる身とものかなしきを思つつけ給に
1608-10 いまはとて山にのほり給しゆふへの御さまなとたたいまの心ちしていみしくこひしく
1608-11 かなしくおほえ給中納言はひとりふし給へるをさる心しけるにやとうれしく
1608-12 て心ときめきし給にやうやうあらさりけりとみるいますこしうつくしくらうたけなる
1608-13 けしきはまさりてやとおほゆあさましけにあきれまとひ給へるをけに心
1608-14 もしらさりけるとみゆれはいといとをしくもあり又おしかへしてかくれ給へら
1609-01 むつらさのまめやかに心うくねたけれはこれをもよそのものとはえ思はなつましけれ
1609-02 となをほいのたかはむくちおしくてうちつけにあさかりけりともおほえ
1609-03 たてまつらしとこのひとふしは猶すくしてつゐにすくせのかれすはこなたさまに
1609-04 ならむもなにかはこと人のやうにやはと思さましてれいのおかしくなつかしき
1609-05 さまにかたらひてあかし給つおい人ともはしそしつと思てなかの宮いつこにか
1609-06 おはしますらむあやしきわさかなとたとりあへりさりともあるやうあらむなと
1609-07 いふおほかたれいのみたてまつるにしはのふる心ちしてめてたくあはれにみまほしき
1609-08 御かたちありさまをなとていともてはなれてはきこえ給らむなにかこれ
1609-09 はよの人のいふめるおそろしきかみそつきたてまつりたらむとははうちすきて
1609-10 あい行なけにいひなす女あり又あなまかまかしなその物かつかせ給はむたた人
1609-11 にとをくておひいてさせ給めれはかかる事にもつきつきしけにもてなしきこえ
1609-12 給人もなくおはしますにはしたなくおほさるるにこそいまをのつからみたてまつり
1609-13 なれ給なは思きこえ給ひてんなとかたらひてとくうちとけておもふやうに
1609-14 ておはしまさなむといふいふねいりていひきなとかたはらいたくするもありあふ
1610-01 人からにもあらぬ秋の夜なれとほともなくあけぬる心ちしていつれとわくへく
1610-02 もあらすなまめかしき御けはひを人やりならすあかぬ心ちしてあいおほせよ
1610-03 いと心うくつらき人の御さまみならひ給なよなとのちせを契ていて給我なから
1610-04 あやしくゆめのやうにおほゆれと猶つれなき人の御けしきいまひとたひみはて
1610-05 むの心に思のとめつつれいのいててふし給へり弁まいりてゐとあやしく中の宮
1610-06 はいつくにかおはしますらむといふを（いと）はつかしく思かけぬ御心ちにいかなり
1610-07 けんことにかと思ひふし給へりきのふの給しことをおほしいててひめ宮をつらし
1610-08 と思きこえ給あけにけるひかりにつきてそかへのなかのきりきりすはいいて
1610-09 給へるおほすらむ事のいといとおしけれはかたみにものもいはれ給はすゆかしけなく
1610-10 心うくもあるかないまよりのちも心ゆるいすへくもあらぬ世にこそと
1610-11 思みたれ給へり弁はあなたにまいりてあさましかりける御心つよさをききあらはし
1610-12 ていとあまりふかく人にくかりける事といとおしく思ほれてゐたりきしかた
1610-13 のつらさはなをのこりある心ちしてよろつに思なくさめつるをこよひなむまことに
1610-14 はつかしく身もなけつへき心ちするすてかたくおとしをきたてまつり給へ
1611-01 りけん心くるしさを思きこゆるかたこそ又ひたふるに身をもえおもひすつましけれ
1611-02 かけかけしきすちはゐつかたにもおもひきこえしうきもつらきもかたかた
1611-03 にわすられ給ましくなん宮なとのはつかしけなくきこえ給めるをおなしくは心たかく
1611-04 と思ふかたそことにものし給らんと心えはてつれはいとことはりにはつかしく
1611-05 てまたまいりて人人にみえたてまつらむこともねたくなむよしかくおこかましき
1611-06 身のうへまた人にたにもらし給なとえむしをきてれいよりもいそきいて
1611-07 給ぬたか御ためにもいとおしくとささめきあへりひめきみもいかにしつる事
1611-08 そともしをろかなる心ものしたまははとむねつふれて心くるしけれはすへてうちあは
1611-09 ぬ人人のさかしらにくしとおほすさまさまにおもひわひたまふるに御ふみありれいより
1611-10 はうれしとおほえ給もかつはあやし秋のけしきもしらすかほにあをきえたの
1611-11 かたえいとこくもみちたるを
1611-12 おなしえをわきてそめける山ひめにいつれかふかき色ととははやさはかり
1611-13 うらみつるけしきもことすくなにことそきてをしつつみ給へるをそこはかとなく
1611-14 もてなしてやみなむとなめりとみ給も心さはきてみるかしかましく御かへり
1612-01 といへはきこえ給へとゆつらむもうたておほえてさすかにかきにくく思みたれ
1612-02 給
1612-03 山ひめのそむるこころはわかねともうつろふかたやふかきなるらんことなしひに
1612-04 かき給へるかおかしくみえけれはなをえゑんしはつましくおほゆ身をわけ
1612-05 てなとゆつり給けしきはたひたひみえしかとうけひかぬにわひて思かまへ給へ
1612-06 るなめりそのかひなくかくつれなからむもいとおしくなさけなき物に思をかれ
1612-07 ていよいよはしめのおもひかなひかたくやあらんとかくいひつたへなとすめる
1612-08 おい人の思はむ所もかろかろしくとにかくに心をそめけむたにくやしくかはかり
1612-09 の世の中を思すてむの心に身つからもかなはさりけりと人わろく思しらるる
1612-10 をましてをしなへたるすきもののまねにおなしあたりかへすかへすこきめくら
1612-11 むいと人わつらへなるたななしをふねめきたるへしなとよもすから思あかし給
1612-12 てまたありあけのそらもおかしきほとに兵部卿(の)宮の御かたにまいり給三条(の)宮やけ
1612-13 にしのちは六条の院におはしまさせ給けれはちかくてはつねにまいり給宮もおほすやうなる
1612-14 御心ちし給けりまきるる事なくあらまほしき御すまゐにおまへの
1613-01 せむさいほかのにはにすおなしき花のすかたも木草のなひきさまもことにみなさ
1613-02 れてやり水にすめる月のかけさへゑにかきたるやうなるにおもひつるもしるく
1613-03 おきておはしましけり風につきて吹くるにほひのいとしるくうちかほるにふとそれ
1613-04 とうちおとろかれて御なをしたてまつりみたれぬさまにひきつくろひていて
1613-05 給はしをのほりもはてすついゐ給へれは猶うへになともの給はてかうらんによりゐ
1613-06 給て世(の)中の御ものかたりきこえかはし給ふかのわたりのことをもののついて
1613-07 に(は)おほしいててよろつにうらみ給もわりなしや身つからの心にたにかなひかたき
1613-08 をと思ふ思ふさもおはせなむと思なるやうのあれはれいよりはまめやかに
1613-09 あるへきさまなと申給あけくれのほとあやにくにきりわたりてそらのけはひ
1613-10 ひややかなるに月はきりにへたてられてこのしたもをくらうなまめきたり山さと
1613-11 のあはれなるありさま思いて給にやこの此の程にかならすをくらかし給なと
1613-12 かたらひ給を猶わつらはしかれは
1613-13 をみなへしさけるおほのをふせきつつ心せはくやしめをゆふらむとたはふれ
1613-14 給ふ
1614-01 霧ふかきあしたのはらのをみなへしこころをよせてみる人そみるなへてやは
1614-02 なとねたましきこゆれはあなかしかましとはてはてははらたち給ぬとしころ
1614-03 かくの給へと人の御ありさまをうしろめたく思しにかたちなとはみおとし給ましく
1614-04 をしはからるる心はせのちかおとりするやうもやなとそあやうく思はたり
1614-05 しをなに事もくちをしくはものし給ふましかめりとおもへはかのいとをしくうちうち
1614-06 に思たはかり給ふありさまもたかふやうならむもなさけなきやうなるを
1614-07 さりとてさはたえおもひあらたむましくおほゆれはゆつりきこえていつかたの
1614-08 うらみをもおはしなとしたに思かまふる心をもしり給はて心せはくととりなし給
1614-09 もおかしけれとれいのかるひたる御心さまにもの思はせむこそ心くるしか
1614-10 へけれなとおやかたになりてきこえ給よしみ給へかはかり心にとまることなむ
1614-11 またなかりつるなといとまめやかにの給へはかの心ともにはさもやとうちなひき
1614-12 ぬへきけしきはみえすなむ侍るつかうまつりにくきみやつかへにこそ侍やと
1614-13 ておはしますへきやうなとこまかにきこえしらせ給ふ廿八日のひかむのはてに
1614-14 てよき日なりけれは人しれす心つかひしていみしくしのひていてたてまつるきさいの宮
1615-01 なときこしめしつけてはかかる御ありきいみしくせいしきこえ給へは
1615-02 いとわつらはしきをせちにおほしたる事なれはさりけなくともてあつかふもわりなく
1615-03 なむふなわたりなともところせけれはことことしき御やとりなともかり
1615-04 給はすそのわたりいとちかきみしやうの人のいゑにいとしのひて宮をはおろし
1615-05 たてまつり給ておはしぬみとかめたてまつるへき人もなけれととのゐ人はわつかに
1615-06 いててありくにもけしきしらせしとなるへしれいの中納言とのおはします
1615-07 とてけいめいしあへり君たちなまわつらはしくきき給へとうつろふかたことに
1615-08 にほはしをきてしかはとひめ宮おほすなかの宮はおもふかたことなめりしかは
1615-09 さりともとおもひなから心うかりしのちはありしやうにあね宮をも思きこえ給は
1615-10 す心をかれてものし給なにやかやと御せうそこのみきこえかよひていかなる
1615-11 へきことにかと人人も心くるしかる宮をは御むまにてくらまきれにおはしまさ
1615-12 せ給て弁めしいててここもとにたたひと事きこえさすへきことなむ侍るを
1615-13 おほしはなつさまみたてまつりてしにいとはつかしけれとひたやこもりにては
1615-14 えやむましきをいましはしふかしてをありしさまにはみちひき給てむやなとうら
1616-01 もなくかたらひ給へはいつかたにもおなし事にこそはなと思てまいりぬさなむ
1616-02 ときこゆれはされはよ思うつろひにけりとうれしくて心おちゐてかのいり
1616-03 給へきみちにはあらぬひさしのさうしをいとよくさしてたいめむし給へりひとこと
1616-04 きこえさすへきかまた人きくはかりののしらむはあやなきをいささかあけ
1616-05 させ給へゐといふせしときこえさせ給へといとよくきこえぬへしとてあけ給は
1616-06 すいまはとうつろひなむをたたならしとていふへきにやなにかはれいならぬたいめん
1616-07 にもあらす人にくくいらへてよもふかさしなと思てかはかりもいて給へ
1616-08 るにさうしのなかより御袖をとらへてひきよせていみしくうらむれはいとうたて
1616-09 もあるわさかななににききいれつらむとくやしくむつかしけれとこしらへて
1616-10 いたしてむとおほしてこと人と思わき給ましきさまにかすめつつかたらひ給へ
1616-11 る御心はえなといとあはれなり宮はをしへきこえつるままに一よのとくちにより
1616-12 てあふきをならし給へは弁もまいりてみちひききこゆさきさきもなれにけるあととみゆる道
1616-13 のしるへおかしとおほしつ（つ）いり給ぬるをもひめ宮はしり給はてこしらへいれ
1616-14 てむとおほしたりおかしくもいとをしくもおほえてうちうちに心もしらさりける
1617-01 うらみをかれんもつみさり所なき心ちすへけれは宮のしたひ給ひつれはえきこえいなひ
1617-02 てここにおはしつるをともせてこそまきれ給ぬれこのさかしたつ（める）
1617-03 人やかたらはれたてまつりぬらむなかそらに人わらへにもなり（侍）ぬへきかな
1617-04 との給にいますこし思よらぬ事のめもあやに心つきなくなりてかくよろつにめつらかなり
1617-05 ける御心のほとをしらていふかひなき心おさなさもみえたてまつり
1617-06 にけるおこたりにおほしあなつるにこそはといはむかたなく思給へりいまはいふかひなし
1617-07 ことはりはかへすかへすきこえさせてもあまりあらはつみもひねらせ
1617-08 給へやむことなきかたにおほしよるめるをすくせなといふめるものさらに心に
1617-09 かなはぬ物に侍めれはかの御心さしはことに侍けるをいとをしく思給ふるにかなは
1617-10 ぬ身こそをき所なく心うくはへりけれ猶いかかはせむにおほしよはりねこの
1617-11 みさうしのかためはかりいとつよきもまことに物きよくをしはかりきこゆる
1617-12 人も侍らししるへといさなひ給へる人の御心にもまさにかくむねふたかりてあかす
1617-13 らむとはおほしなむやとてさうしをもひきやふりつへきけしきなれはいはむかたなく
1617-14 心つきなけれとこしらへむと思しつめてこのの給ふすちすくせといふ
1618-01 らむかたはめにもみえぬ事にていかにもいかにも思たとられすしらぬ涙のみきりふたかる
1618-02 心ちしてなんこはいかにもてなし給そと夢のやうにあさましきにのちのよのためし
1618-03 にいひいつる人もあらはむかし物かたりなとにおこめきてつくりいて
1618-04 たる物のたとひにこそはなりぬかめれかくおほしかまふる心のほとをもいかなり
1618-05 けるとか（は）をしはかり給はむなをいとかくおとろおとろしく心うくなとりあつめ
1618-06 まとはし給そ心よりほかになからへはすこし思のとまりてきこえむ心ち
1618-07 もさらにかきくらすやうにていとなやましきをここにうちやすまむゆるし給へ
1618-08 といみしくわひ給へはさすかにことはりをいとよくの給か心はつかしくらうたく
1618-09 おほえてあか君御心にしたかふことのたくひなけれはこそかくまてかたくなしく
1618-10 なり侍れいひしらすにくくうとましきものにおほしなすめれはきこえむかたなし
1618-11 いとと世に跡とむへくもあらすなんなりぬるとてさらはへたてなからもきこえさせ
1618-12 むひたふるになうちすてさせ給そとてゆるしたてまつり給へれははひいり
1618-13 てさすかにいりもはて給はぬをいとあはれと思てかはかりの御けはひをなくさめ
1618-14 にてあかし侍らむゆめゆめときこえてうちもまとろますいととしき水のをと
1619-01 にめもさめてよはのあらしに山とりの心ちしてあかしかね給れいのあけ行けはひ
1619-02 にかねのこゑなときこゆいきたなくていて給へきけしきもなきよと心やましく
1619-03 こはつくり給もけにあやしきわさなり
1619-04 しるへせし我やかへりてまとふへき心もゆかぬあけくれの道かかるためし
1619-05 世にありけむやとの給へは
1619-06 かたかたにくらす心をおもひやれ人やりならぬ道にまとははとほのかにの給ふ
1619-07 をいとあかぬ心ちすれはいかにいかにこよなくへたたり（て）侍めれはいとはりなう
1619-08 こそなとよろつにうらみつつほのほのとあけ行ほとによへのかたよりいて給なり
1619-09 いとやはらかにふるまひなし給へるににほひなとえむなる御心けさうにはいひしらす
1619-10 しめ給へりねひ人ともはいとあやしく心えかたく思まとはれけれとさりとも
1619-11 あしさまなる御心あらむやはとなくさめたりくらきほとにといそきかへり
1619-12 給ふみちのほともかへるさはいとはるけくおほされて心やすくもえゆきかよは
1619-13 さらむことのかねていとくるしきをよをやへたてんと思なやみ給なめりまた人さはかしから
1619-14 ぬあしたのほとにおはしつきぬらうに御くるまよせており給ふことやうなる
1620-01 女車のさましてかくろへいり給にみなわらひ給てをろかならぬ宮つかへ
1620-02 の御心さしとなむ思給ふると申給しるへのおこかましさもいとねたくてうれへ
1620-03 もきこえ給はす宮はいつしかと御ふみたてまつり給山さとにはたれもたれも
1620-04 うつつの心ちし給はすおもひみたれ給へりさまさまにおほしかまへけるをいろに
1620-05 もいたし給はさりけるよとうとましくつらくあね宮をは思きこえ給てめもみあはせ
1620-06 たてまつり給はすしらさりしさまをもさはさはと（は）えあきらめ給はてことはりに
1620-07 心くるしく思きこえ給人人もいかに侍りにしことにかなと御けしき
1620-08 みたてまつれとおほしほれたるやうにてたのもし人のおはすれはあやしきわさ
1620-09 かなと思あへり御ふみもひきときてみせたてまつり給へとさらにおきあかり給は
1620-10 ねはいとひさしくなりぬと御つかひわひけり
1620-11 よのつねに思やすらむつゆふかき道のささはらわけてきつるもかきなれ給へ
1620-12 るすみつきなとのことさらにえむなるもおほかたにつけてみ給しはおかしく
1620-13 おほえしをうしろめたくもの思はしくてわれさかし人にてきこえむもいとつつましけれ
1620-14 はまめやかにあるへきやうをいみしくせめてかかせたてまつり給しを
1620-15 むいろのほかなかひとかさねにみへかさねのはかまくして給ふ御つかひくるしけに
1621-02 思たれはつつませてともなる人になむをくらせ給ふことことしき御つかひ
1621-03 にもあらすれいたてまつれ給ふうへわらはなりことさら（に）人にけしきもらさし
1621-04 とおほしけれはよへのさかしかりしおい人のしわさなりけりとものしくなむきこしめし
1621-05 けるその夜もかのしるへさそひ給へとれせい院にかならすさふらふへき
1621-06 こと侍れはとてとまり給ぬれいのことにふれてすさましけに世もてなすと
1621-07 にくくおほすいかかはせむほいならさりし事とてをろかにやはと思よはり給て
1621-08 御しつらひなとうちあはぬすみかなれとさるかたにおかしくしなしてまちきこえ
1621-09 給けりはるかなる御なかみちをいそきおはしましたりけるもうれしきわさなる
1621-10 そかつはあやしきさうしみはわれにもあらぬさまにてつくろはれたてまつり
1621-11 給ままにこき御その袖（いと）いたくぬるれはさかし人もうちなき給つつ世(の)中にひさしく
1621-12 もとおほえ侍らねはあけくれのなかめにもたた御ことをのみなん心くるしく
1621-13 おもひきこゆるにこの人人もよかるへきさまのこととききにくきまていひしらす
1621-14 めれはとしへたる心ともにはさりともよのことはりをもしりたらむはかはかしく
1622-01 もあらぬ心ひとつをたててかくてのみやはみたてまつらむと思なるやう
1622-02 もありしかとたたいまかくおもひもあへすはつかしきことともにみたれおもふ
1622-03 へくはさらに思かけ侍らさりしにこれやけに人のいふめるのかれかたき御ちきり
1622-04 なりけんいとこそくるしけれすこしおほしなくさみなむにしらさりしさま
1622-05 をもきこえんにくしとなおほしいりそつみもそえたまふと御くしをなてつくろひ
1622-06 つつきこえ給へはいらへもし給はねとさすかにかくおほしの給ふかけにうしろめたく
1622-07 あしかれともおほしをきてしを人わらへにみくるしきことそひてみあつかは
1622-08 れたてまつらむかいみしさをよろつに思ゐ給へりさる心もなくうちとけていとあさましとあきれ給へ
1622-09 りしたになへてならすおかしかりしをまいてすこしよのつねになよひ
1622-10 給へるは御心さしもまさるにたはやすくかよひたまはさらむ山みちのはるけさ
1622-11 もむねいたきまておほして心ふかけにかたらひたのめ給へとあはれともいかに
1622-12 とも思わき給はすいひしらすかしつくもののひめ君もすこしよのつねの人のけちかう
1622-13 おやせうとなといひつつ人のたたすまゐをもみなれ給へるはもののはつかしさ
1622-14 もおそろしさもなのめにやあらむいゑにあかめきこゆる人こそなけれかく
1623-01 山ふかき御あたりなれは人にとをくものふかくてならひ給へる心ちに思かけぬ
1623-02 ありさまのつつましくはつかしくなにことも世の人ににすあやしくゐ中ひたら
1623-03 むかしはかなき御いらへにてもいひいてんかたなくつつみ給へりさるはこの君
1623-04 しもそらうらうしくかとあるかたのにほひはまさり給へる三日にあたるよもちい
1623-05 なむまいると人人のきこゆれはことさら（に）さるへきいはゐの事にこそはと
1623-06 おほして御まへにてせさせ給ふもたとたとしくかつはおとなになりてをきて給
1623-07 も人のみるらむことははかられておもてうちあかめておはするさまいとおかしけなり
1623-08 このかみ心にやのとかにけたかきものから人のためあはれになさけなさけしく
1623-09 そおはしける中納言殿よりよへまいらむとおもたまへしかと宮つかへのらう
1623-10 もしるしなけなるよにおもたまへうらみてなむこよひはさうやくもやとおもふ
1623-11 給へれととのゐ所のはしたなけに侍りしみたり心ちいととやすからてやすらは
1623-12 れ侍とみちのくにかみにおいつきかき給てまうけの物ともこまやかにぬひなと
1623-13 もせさりけるいろいろおしまきなとしつつみそひつあまたかけこ入ておい人
1623-14 のもとに人人のれうにとて給へり宮の御かたにさふらひけるにしたかひていと
1624-01 おほくもえとりあつめ給はさりけるにやあらむたたなるきぬあやなとしたに
1624-02 はいれかくしつつ御れうとおほしきふたくたりいときよらにしたるをひとへの
1624-03 御その袖にこたゐの事なれと
1624-04 さよ衣きてなれきとはいはすともかことはかりはかけすしもあらしとおとし
1624-05 きこえ給へりこなたかなたゆかしけなき御ことをはつかしくいととみ給て御返
1624-06 もいかかはきこえんとおほしわつらふほとに御つかひかたへはにけかくれ
1624-07 にけりあやしきしも人をひかへてそ御返たまふ
1624-08 へたてなき心はかりはかよふともなれし袖とはかけしとそおもふ心あはたたしく
1624-09 おもひみたれ給へるなこりにいととなをなをしきをおほしけるままとまちみ
1624-10 給人はたたあはれにそおもひなされ給ふ宮はその夜内にまいり給てえまかて
1624-11 たまふましけなるを人しれす御心もそらに（て）おほしなけきたるに中宮猶かく
1624-12 ひとりおはしましてよのなかにすい給へる御名のやうやうきこゆる猶いとあしき
1624-13 ことなりなに事もものこのましくたてたる御心なつかひ給そうへもうしろめたけに
1624-14 おほしの給ふとさとすみかちにおはしますをいさめきこえ給へはいとくるし
1625-01 とおほして御とのゐ所におはして御ふみかきてたてまつれ給へるなこりも
1625-02 いたくうちなかめておはしますに中納言のきみまいり給へりそなたの心よせと
1625-03 おほせはれいよりもうれしくていかかすへきいとかくくらくなりぬめるを心も
1625-04 みたれてなむとなけかしけにおほしたりよく御けしきをみたてまつらむとおほし
1625-05 てひころへてかくまいり給へるをこよひさふらはせ給はていそきまかて給な
1625-06 むいととよろしからぬことにやおほしきこえさせたまはん大はん所のかたに（て）
1625-07 うけたまはりつれは人しれすわつらはしき宮つかへのしるしにあひなきかむたう
1625-08 にや侍らむとかほのいろなんたかひ侍りつると申給へはいとききにくくそおほしの給ふ
1625-09 やおほくは人のとりなすことなるへしよにとかめあるはかりの心はなにこと
1625-10 にかはつかふらむところせき身のほとこそ中中なるわさなりけれとてまことに
1625-11 いとはしくさへおほしたりいとをしくみたてまつり給ておなし御さはかれ
1625-12 にこそはおはすなれこよひのつみにはかはりきこえて身をもいたつらになし侍
1625-13 らんかしこはたの山にむまはいかか侍へきいとともののきこえやさはり所なから
1625-14 むときこえ給へはたたくれにくれてふけにける夜なれはおほしわひて御むま
1626-01 にていて給ぬ御ともにはなかなかつかうまつらし御うしろみをとてこの君は内
1626-02 にさふらひ給ふ中宮の御かたにまいり給つれは宮はいて給ぬなりあさましくいとをしき
1626-03 御さまかないかに人みたてまつらんうへきこしめしてはいさめきこえ
1626-04 ぬかいふかひなきにおほしの給ふこそわりなけれとの給あまたみやたちのかく
1626-05 おとなひととのひ給へと大宮はいよいよわかくおかしきけはひなんまさり給
1626-06 ける女一の宮もかくそおはしますへかめるいかならむおりにかはかりにてもものちかく
1626-07 御こゑをたにききたてまつらむとあはれとおほゆすいたる人のおほゆ
1626-08 ましき心つかふらむもかうやうなる御なからひのさすかにけとをからすいりたち
1626-09 て心にかなはぬおりのわさならむかしわか心のやうにひかひかしき心のたくひ
1626-10 やは又世にあむへかめるそれに猶うこきそめぬるあたりはえこそおもひたえね
1626-11 なと思ひゐ給へるさふらふかきりの女はうのかたち心さまいつれとなくわろひ
1626-12 たるなくめやすくとりとりにおかしきなかにあてにすくれてめにとまるあれと
1626-13 さらにさらにみたれそめしの心にていときすくにもてなし給へりことさらにみえしろかう
1626-14 人もありおほかたはつかしけにもてしつめ給へるあたりなれはうはへ
1627-01 こそ心はかりもてしつめたれ心心なるよの中なりけれはいろめかしけにすすみ
1627-02 たるしたの心もりてみゆるもあるをさまさまにおかしくもあはれにもあるかな
1627-03 とたちてもゐてもたたつねなきありさまを思ありき給かしこには中納言殿（の）
1627-04 ことことしけにいひなし給へりつるを夜ふくるまておはしまさて御ふみのある
1627-05 をされはよとむねつふれておはするによなかちかくなりてあらましき風のきほひ
1627-06 にいともなまめかしくきよらにてにほひおはしたるもいかかおろかにおほえ
1627-07 給はむさうしみもいささかうちなひきて思しり給ふことあるへしいみしくおかしけに
1627-08 さかりとみえてひきつくろひ給へるさまはましてたくひあらしはやとおほゆ
1627-09 さはかりよき人をおほくみ給ふ御めにたにけしうはあらすとかたちよりはしめ
1627-10 ておほくちかまさりしたりとおほさるれは山さとの老人ともはましてくちつき
1627-11 にくけにうちゑみつつかくあたらしき御ありさまをなのめなるきはの人の
1627-12 みたてまつらましにいかにくちをしからまし思ふやうなる御すくせときこえ
1627-13 つつひめ宮の御心をあやしくひかひかしくもてなし給をもときくちひそめ
1627-14 きこゆさかりすきたるさまともにあさやかなる花の色色につかはしからぬを
1628-01 さしぬひつつありつかすとりつくろひたるすかたとものつみゆるされたるもなき
1628-02 をみわたされ給てひめ君は我もやうやうさかりすきぬる身そかしかかみをみれ
1628-03 はやせやせになりもて行をのかししはこの人とももわれあしとやはおもへるうしろて
1628-04 はしらすかほにひたひかみをひきかけつついろとりたるかほつくりをよく
1628-05 してうちふるまふめりわか身にてはまたいとあれかほとにはあらすめもはな
1628-06 もなをしとおほゆるは心のなしにやあらむとうしろめたくてみいたしてふし給へ
1628-07 りはつかしけならむ人にみえむことはいよいよかたはらいたくいまひととせふたとせ
1628-08 あらはおとろへまさりなむはかなけなる身のありさまをと御てつきの
1628-09 ほそやかにかよはくあはれなるをさしいてても世(の)中を思つつけ給宮はありかたかり
1628-10 つる御いとまのほとをおほしめくらすに猶心やすかるましきことにこそは
1628-11 といとむねふたかりておほえ給けり大宮のきこえ給しさまなとかたりきこえ給て思
1628-12 なからとたえあらむをいかなるにかとおほすな夢にてもをろかならむにかくまて
1628-13 もまいりくましきを心のほとやいかかとうたかひて思みたれ給はむか心くるしさ
1628-14 に身をすててなむつねにかくはえまとひありかしさるへきさまにてちかく
1629-01 わたしたてまつらむなといとふかくきこえ給へとたえまあるへくおほさるらむは
1629-02 をとにききし御心のほとしるへきにやと心をかれてわか御ありさまからさまさま
1629-03 ものなけかしくてなむありけるあけ行ほとのそらにつまとおしあけ給てもろともに
1629-04 いさなひいててみ給へはきりわたれるさま所からのあはれおほくそひ
1629-05 てれいのしはつむ舟のかすかに行かふ跡のしらなみなとはかなけなるめなれすもあるすまゐの
1629-06 さまかなといろめき給へる御心にはおかしくおほしなさる山のはのひかりやうやうみゆる
1629-07 に女君の御かたちのまほにうつくしけにてかきりなくいつきすへたらむひめ宮
1629-08 もかはかりこそはおはすへかめれ思なしのわかかたさまのいといつくしき
1629-09 そかしこまやかなるにほひなとうちとけてみまほしういととおくゆかしきに心にまかせ給ましきをいと心くるしうなかなかなる心ちす水の
1629-10 をとなひなつかしからすうちはしのいとものふりてみわたさるるなときりはれゆけ
1629-11 はいとあらましききしのわたりをかかる所にいかてとしをへ給けん
1629-12 とうち涙くみ給へるをいとはつかしときき給ふおとこの御さまのかきりなく
1629-13 なまめかしくきよらにてこの世のみならすふかきちきりをたのめきこえ給へはおもひよら
1629-14 さりしこととは思なから中中かのめなれたりし中納言のはつかしさより
1630-01 はとおほえ給かれはおもふかたことにていといたくすみたるけしきのみえにくく
1630-02 はつかしけなりしによそにおもひきこえしはましてこよなくはるかにひとくたり
1630-03 かきいて給ふ御かへりたにつつましくおほえしをひさしくとたえ給はむは心ほそから
1630-04 むと思ならるるもわれなからうたてと思しられ給人人いたくこはつくり
1630-05 もよほしきこゆれは京におはしましつかんにはしたなからぬほとにといと心あはたたしけに
1630-06 て心よりほかならむよかれを返々のたまふ
1630-07 なかたえむものならなくにはしひめのかたしく袖やよはにぬらさんいてかてに
1630-08 たちかへりつつやすらひたまふ
1630-09 たえせしのわかたのみにやうちはしのはるけき中をまちわたるへきことに
1630-10 はいてねとものなけかしき御けはひはかきりなくおほされけりわかき人の御心
1630-11 にしみぬへくたくひすくなけなるあさけの御すかたをみをくりてなこりとまれ
1630-12 る御うつりかなとも人しれすものあはれなるはされたる御心かなけさそもののあやめ
1630-13 みゆるほとにて人人のそきてみたてまつる中納言殿はなつかしくはつかしけなる
1630-14 さまそそひ給へりける思なしのいまひときはにやこの御さまはいと
1631-01 ことになとめてきこゆみちすから心くるしかりつる御氣色をおほしいてつつたち
1631-02 もかへりなまほしくさまあしきまておほせと世のきこえをしのひてかへらせ
1631-03 給ほとにえたはやすくもまきれさせ給はす御ふみはあくる日ことにあまたかへり
1631-04 つつたてまつり給をろかにはあらぬにやと思なからおほつかなき日かすの
1631-05 つもるをいと心つくしにみしと思しものを身にまさりてこころくるしくもある
1631-06 （か）なとひめ宮はおほしなけかるれといととこの君のおもひしつみ給はむにより
1631-07 つれなくもてなして身つからたに猶かかる事思くはへしといよいよふかくおほす
1631-08 中納言の君もまちとをにそおほすらむかしと思やりてわかあやまちにいとをしく
1631-09 て宮をきこえおとろかしつつたえす御けしきをみ給にいとゐたくおもほしいれ
1631-10 たるさまなれはさりともとうしろやすかりけり九月十よ日のほとなれは野山
1631-11 のけしきもおもひやらるるにしくれめきてかきくらしそらのむら雲おそろしけなる
1631-12 夕くれ宮いととしつ心なくなかめ給ていかにせむと御心ひとつをいてたちかね
1631-13 給おりをしはかりてまいり給へりふるの山さといかならむとおとろかしきこえ
1631-14 給いとうれしとおほしてもろともにといさなひ給へはれいのひとつ御くるま
1632-01 にておはすわけいり給ままにそまいてなかめ給ふらむ心のうちいととをしはから
1632-02 れ給みちのほともたたこの事の心くるしきをかたらひきこえ給ふたそかれ時
1632-03 のいみしく心ほそけなるにあめはひややかにうちそそきて秋はつるけしきのすこき
1632-04 にうちしめりぬれ給へるにほひともは世のものににすえむにてうちつれ給へ
1632-05 るを山かつともはいかか心まとひもせさらむ女はらひころうちつふやきつる
1632-06 なこりなくえみさかえつつおましひきつくろひなとす京にさるへき所所に行ちり
1632-07 たるむすめともめいたつものふたりみたりたつねよせてまいらせたりとしころあなつり
1632-08 きこえける心あさき人々めつらかなるまらうとと思おとろきたりひめ宮も
1632-09 おりうれしく思きこえ給ふにさかしら人のそひ給へるそはつかしくもありぬへく
1632-10 なまわつらはしくおもへと心はへののとかにものふかくものし給をけに人はた
1632-11 かくはおはせさりけりとみあはせ給にありかたしと思しらる宮を所につけては
1632-12 いとことにかしつきいれたてまつりてこの君はあるしかたに心やすくもてなし
1632-13 給ものからまたまらうとゐのかりそめなるかたにいたしはなち給へれはいとからし
1632-14 と思給へりうらみ給もさすかにゐとをしくてものこしにたいめむし給ふたはふれにくく
1633-01 もあるかなかくてのみやといみしくうらみきこえ給やうやうことはり
1633-02 しり給にたれと人の御うへにても物をいみしく思しつみ給ていととかかる
1633-03 かたをうきものに思はてて猶ひたふるにいかてかくうちとけむあはれとおもふ
1633-04 人の御心もかならすつらしと思ぬへきわさにこそあめれわれも人もみおとさす
1633-05 心たかはてやみにしかなとおもふ心つかひふかくし給へり宮の御ありさまなと
1633-06 もとひきこえ給へはかすめつつされはよとおほして給へはいとをしくておほし
1633-07 たる（御）さまけしきをみありくやうなとかたりきこえ給ふれいよりは心うつくしく
1633-08 かたらひてなをかくもの思ひくはふるほとすこし心ちもしつまりてきこえ
1633-09 むとの給ふ人にくくけとをくはもてはなれぬものからさうしのかためもいとつよし
1633-10 しゐてやふらむをはつらくいみしからむとおほしたれはさおほさるるやうこそ
1633-11 はあらめかるかるしくことさまになひき給ことはたよにあらしと心のとかなる
1633-12 人はさいへと（いと） よくおほししつめ給たたいとおほつかなくものへたてたるなむ
1633-13 むねあかぬ心ちするをありしやうにてきこえむとせ（め）給へとつねよりもわかおもかけ
1633-14 にはつるころなれはうとましとみ給てむもさすかにくるしきはいかなる
1634-01 にかとほのかにうちわらひ給へるけはひなとあやしく（なつかしく）おほゆかかる
1634-02 御心にたゆめられたてまつりてつゐにいかになるへきみにかはとなけきかちにて
1634-03 れいのとを山とりにてあけぬ宮はまたたひねなるらむともおほさて中納言のあるしかた
1634-04 に心のとかなるけしきこそうらやましけれとの給へは女君あやしときき
1634-05 給わりなくておはしましてほとなくかへり給るかあかすくるしきに宮ももの
1634-06 をいみしくおほしたり御心のうちをしり給はねは女かたには（又）いかならむ人わらへに
1634-07 やと思なけき給へはけに心つくしにくるしけなるわさかなとみゆ京にも
1634-08 かくろへてわたり給へき所もさすかになし六条(の)院には左のおほいとのかたつかた
1634-09 にはすみ給てさはかりいかてとおほしたる六の君の御ことをおほしよらぬに
1634-10 なまうらめしと思きこえ給ふへかめりすきすきしき御さまとゆるしなくそしり
1634-11 きこえ給てうちわたりにもうれへきこえ給ふへかめれはいよいよおほえなくて
1634-12 いたしすえ給はむもははかることいとおほかりなへてにおほす人のきはは宮つかへ
1634-13 のすちにて中中心やすけなりさやうのなみなみにはおほされすもし世(の)中
1634-14 うつりてみかときさいのおほしをきつるままにもおはしまさは人よりたかきさま
1635-01 にこそしなさめなとたたいまはいとはなやかに心にかかり給へるままにもてなさ
1635-02 むかたなくくるしかりけり中納言は三条の宮つくりはててさるへきさまにて
1635-03 わたしたてまつらむとおほすけにたた人は心やすかりけりかくいと心くるしき
1635-04 御けしきなからやすからすしのひ給ふからにかたみに思なやみ給へかめるも心くるしく
1635-05 てしのひかてらかよひ給よしを中宮なとにももらしきこしめさせてしはし
1635-06 の御さはかれはいとをしくとも女かたの御ためはとかもあらしいとかくよ
1635-07 をたにあかし給はぬくるしけさよいみしくもてなしてあらせたてまつらはやなと
1635-08 思てあなかちにもかくろへす衣かへなとはかはかしくたれかはあつかふらむ
1635-09 なとおほえて御丁のかたひらかへしろなと三条の宮つくりはててわたり給はむ
1635-10 心まうけにしをかせ給へるをまつさるへきようなむなといとしのひてきこえ給
1635-11 てたてまつれ給さまさまなる女はうのさうそく御めのとなとにもの給ひつつわさと
1635-12 もせさせ給ひけり十月一日ころあしろもおかしきほとならむとそそのかし
1635-13 きこえ給てもみち御らんすへく申給ふしたしき宮人とも殿上人のむつましくおほす
1635-14 かきりいとしのひてとおほせと所せき御いきほひなれはをのつから事ひろこり
1636-01 て左のおほいとのの宰相(の)中將まいり給さてはこの中納言殿はかり（そ）かむたちめ
1636-02 はつかふまつり給ふたた人はおほかりかしこにはろなくなかやとりし給は
1636-03 むをさるへきさまにおほせさきのはるも花みにたつねまいりこしかれこれかかる
1636-04 たよりにことよせてしくれのまきれにみたてまつりあらはすやうもそ侍なと
1636-05 こまやかにきこえ給へりみすかけかへここかしこかきはらひいはかくれにつもれ
1636-06 る紅葉のくちはすこしはるけやり水のみ草はらはせなと（そ）し給よしあるくた物
1636-07 さかななとさるへき人なともたてまつれ給へりかつはゆかしけなけれといかか
1636-08 はせむこれもさるへきにこそはと思ゆるして心まうけし給へりふねにてのほりくたり
1636-09 おもしろくあそひ給もきこゆほのほのありさまみゆるをそなたにたちいて
1636-10 てわかき人々みたてまつるさうしみの御ありさまはそれとみわかねとももみち
1636-11 をふきたるふねのかさりのにしきとみゆるにこゑこゑふきいつるもののねとも
1636-12 風につけておとろおとろしきまておほゆよ人のなひきかしつきたてまつるさま
1636-13 かくしのひ給へるみちにもいとことにいつくしきをみ給にもけにたなはたはかり
1636-14 にてもかかるひこほしの光をこそまちいてめとおほえたりふみつくらせ給
1637-01 へき心まうけにはかせなともさふらひけりたそかれ時に御ふねさしよせてあそひ
1637-02 つつふみつくり給もみちをうすくこくかさして海仙樂といふ物をふきてをのをの
1637-03 心ゆきたるけしきなるに宮はあふみのうみの心ちしてをちかた人のうらみ
1637-04 いかにとのみ御心そらなり時につけたるたいいたしてうそふきすしあへり人の
1637-05 まよひすこししつめておはせむと中納言もおほしてさるへきやうにきこえ給ほと
1637-06 に内より中宮のおほせ事にて宰相の御あにの衞門(の)督ことことしきすいしんひきつれ
1637-07 てうるはしきさましてまいり給へりかうやうの御ありきはしのひ給ふと
1637-08 すれとをのつからことひろこりてのちのためしにもなるわさなるをおもおもしき
1637-09 人數あまたもなくてにはかにおはしましにけるをきこしめしおとろきて殿上人
1637-10 あまたくしてまいりたるにはしたなくなりぬ宮も中納言もくるしとおほして
1637-11 もののけうもなくなりぬ御心のうちをはしらすえひみたれあそひあかしつけふ
1637-12 はかうてもとおほすにまた宮の大夫さらぬ殿上人なとあまたたてまつれ給へり心あはたたしく
1637-13 くちおしくてかへりたまはむそらなしかしこには御ふみをそたてまつれ
1637-14 給おかしやかなることもなくいとまめたちておほしけることともをこまこまと
1638-01 かきつつけ給へれと人めしけくさはかしからむにとて御かへしなしかすならぬ
1638-02 ありさまにてはめてたき御あたりにましらはむもかひなきわさかなといとと
1638-03 おほししり給よそにてへたたるつき日はおほつかなさもことはりにさりとも
1638-04 なとなくさめ給をちかきほとにののしりおはしてつれなくすき給ひなむつらく
1638-05 もくちおしくも思みたれ給宮はましていふせくわりなしとおほすことかきりなし
1638-06 あしろのひをも心よせたてまつりていろいろのこの葉にかきませもてあそふ
1638-07 をしも人なとはいとおかしきことにおもへれは人にしたかひつつこころゆく御ありき
1638-08 に身つからの御心ちはむねのみつとふたかりてそらをのみなかめ給ふに
1638-09 このふる宮のこすゑはいとことにおもしろくときは木にはひましれるつたの色
1638-10 なとも物ふかけにみえてとをめさへ（す）こけなるを中納言の君もなかなかたのめ
1638-11 きこえけるをうれはしきわさかなとおほゆこそのはる御ともなりし君たちははな
1638-12 の色を思いててをくれてここになかめ給らむ心ほそさをいふかくしのひしのひに
1638-13 かよひ給ふとほのききたるもあるへし心しらぬもましりておほかたにとやかくや
1638-14 と人の御うへはかかる山かくれなれとをのつからきこゆるものなれはいと
1639-01 おかしけにこそものし給なれさうのことさうすにてこ宮のあけくれあそひならはし
1639-02 給けれはなとくちくちいふ宰相(の)中將
1639-03 いつそやも花のさかりにひとめみし木のもとさへや秋はこひしきあるしかた
1639-04 と思ていへは中納言
1639-05 さくらこそ思しらすれさきにほふ花ももみちもつねならぬよを衞門(の)督
1639-06 いつこより秋は行けむやまさとの紅葉のかけはすきうきものを宮(の)大夫
1639-07 みし人もなき山さとの岩かきに心なかくもはへるくす哉なかにおいしらひ
1639-08 てうちなき給みこのわかくおはしけるよの事なと思ひいつるなめり宮
1639-09 秋はててさひしさまさる木のもとを吹なすくしそみねの松かせとていといたく
1639-10 なみたくみ給へるをほの（かに）しる人はけにふかくおほすなりけりけふのたより
1639-11 をすくし給心くるしさとみたてまつる人あれとことことしくひきつつきてはた
1639-12 えおはし（まし）よらす作けるふみとものおもしろき所所おかしきふしふしうちすしやまとうたも
1639-13 ことにつけておほかれとかうやうのえひのまきれにましてはかはかしきことのあら
1639-14 むやはかたはしかきととめてたにみくるしくなむかしこにはすき給ぬるけはひ
1640-01 をとをくなるまてきこゆるさきのこゑこゑたたならすおほえ給心まうけしつる
1640-02 ひとひともいとくちおしと思へりひめ宮はましてなををとにきくつき草のいろなる
1640-03 御心なりけりほのかに人のいふをきけはおとこといふものはそらことを
1640-04 こそいとよくすなれおもはぬ人をおもふかほにとりなすことのはおほかるもの
1640-05 とこの人かすならぬ女はらのむかしものかたりにいふをさるなをなをしきなか
1640-06 にこそはけしからぬこころあるもましるらめなに事もすちことなるきはになり
1640-07 ぬれは人のききおもふことつつましくところせかるへきものとおもひしはさしも
1640-08 あるましきわさなりけりあためき給へるやうにこ宮もききつたへ給てかやうに
1640-09 けちかきほとまてはおほしもよらさりしものをあやしきまて心ふかけにの給ひわたり
1640-10 思のほかにみたてまつるにつけてさへ身のうさを思ひそふるかあちきなく
1640-11 もあるかなかくみをとりする御心をかつはかの中納言もいかに思給らむここ
1640-12 にもことにはつかしけなる人はうちましらねとをのをのおもふらむか人わらへに
1640-13 おこかましきことと思みたれ給に心ちもたかひていとなやましくおほえ給さうしみ
1640-14 はたまさかにたいめむし給ときかきりなくふかきことをたのめちきり給
1641-01 つれはさりともこよなうはおほしかはらしとおほつかなきもわりなきさはりこそ
1641-02 はものし給らめと心のうちに思なくさめ給かたありほとへにけるか思ひゐれ
1641-03 られ給はぬにしもあらぬに中中にてうちすき給ぬるをつらくもくちをしくも
1641-04 おもほゆるにいととものあはれなりしのひかたき御けしきなるを人なみなみに
1641-05 もてなしてれいの人めきたるすまいならはかうやうにもてなし給ふましきをなと
1641-06 あね宮はいととしくあはれとみたてまつり給ふわれも世になからへはかうやうなる
1641-07 ことみつへきにこそはあめれ中納言のとさまかうさまにいひありき給も
1641-08 人の心をみむとなりけり心ひとつにもてはなれておもふともこしらへやるかきり
1641-09 こそあれある人とももこりすまにかかるすちのことをのみいかてと思ためれは心よりほかに
1641-10 つゐにもてなされぬへかめりこれこそはかへすかへすさる心してよを
1641-11 すくせとの給ひをきしはかかることもやあらむのいさめなりけりさもこそはうき
1641-12 身ともにてさるへき人にもをくれたてまつらめやうのものと人わらへなること
1641-13 をそふるありさまにてなき御かけをさへなやましたてまつらんことのかいみしさなる
1641-14 をわれにてたにさるもの思ひにしつますつみなといとふかからぬさきにいかてなくなり
1642-01 なむとおほししつむにここちもまことにくるしけれはものもつゆはかりも
1642-02 まいらすたたなからむのちのあらましことをあけくれ思つつけ給にも心ほそく
1642-03 てこの君をみたてまつり給もいと心くるしくわれにさへをくれたまひていかに
1642-04 いみしくなくさむかたなからむあたらしくおかしきさまをあけくれのみものに
1642-05 ていかて人々しくもみなしたてまつらむと思ひあつかふをこそ人しれぬ行さき
1642-06 のたのみにも思ひつれかきりなき人にものし給ともかはかり人わらへなるめを
1642-07 みてむ人の世(の)中にたちましりれいの人さまにてへ給はんはたくひすくなく心うから
1642-08 むなとおほしつつくるにいふかひもなくこの世にはいささか思なくさむかた
1642-09 なくてすきぬへき身ともなりけりと心ほそくおほす宮はたちかへりれいのやうに
1642-10 しのひてといてたち給けるを内にかかる御しのひことにより山さとの御ありき
1642-11 もゆくりかにおほしたつなりけりかろかろしき御ありさまと世人もしたに
1642-12 そしり申なりと衞門(の)督のもらし申給けれは中宮もきこしめしなけきうへもいとと
1642-13 ゆるさぬ御けしきにておほかた心にまかせ給へる御さとすみのあしきなりと
1642-14 きひしきことともいてきて内につとさふらはせたてまつり給右のおほいとのの六の君
1643-01 をうけひかすおほしたる事なれとおしたちてまいらせ給へくみなさためらる
1643-02 中納言殿きき給てあいなくものを思ありき給わかあまりことやうなるそやさるへき
1643-03 契やありけむみこのうしろめたしとおもひたりしさまもあはれにわすれかたく
1643-04 この君たちの御ありさまけはひもことなる事なくて世におとろへ給はむ
1643-05 ことのおしくもおほゆるあまりに人々しくもてなさはやとあやしきまてもてあつかは
1643-06 るるに宮もあやにくにとりもちてせめ給しかはわかおもふかたはことなる
1643-07 にゆつらるるありさまもあいなくてかくもてなしてしを思へはくやしくもあり
1643-08 けるかないつれをもわか物にてみたてまつらむにとかむへき人もなしかしととりかへす
1643-09 ものならねとおこかましく心ひとつに思ひみたれ給宮はまして御こころにかから
1643-10 ぬおりなくこひしくうしろめたしとおほす御心につきておほす人あら
1643-11 はここにまいらせてれいさまにのとやかにもてなし給へすちことに思きこえ
1643-12 給へるにかるひたるやうに人のきこゆへかめるもいとなむくちをしきと大宮は
1643-13 あけくれきこえ給しくれいたくしてのとやかなる日女一(の)宮の御かたにまいり給
1643-14 つれは御まへに人おほくもさふらはすしめやかに御ゑなむと御らんするほとなり
1644-01 けり御木丁はかりへたてて御物かたりきこえ給かきりもなくあてにけたかきものから
1644-02 なよひかにおかしき御けはひをとしころふたつなきものに思ひきこえ給て
1644-03 又この御ありさまになすらふ人よにありなむや冷泉院のひめ宮はかりこそ御おほえ
1644-04 のほとうちうちの御けはひも心にくくきこゆれとうちいてむかたもなくおほしわたる
1644-05 にかの山さと人はらうたけにあてなるかたのおとりきこゆましきそ
1644-06 かしなとまつ思いつるにいととこひしくてなくさめに御ゑとものあまたちりたる
1644-07 をみ給へはおかしけなる女ゑとものこひするおとこのすまゐなとかきませ山さと
1644-08 のおかしきいゑゐなと心心に世のありさまかきたるをよそへらるる事おほく
1644-09 て御めとまりたまへはすこしきこえ給てかしこへたてまつらむとおほすさい五かものかたり
1644-10 をかきていもうとにきむをしへたる所の人のむすはんといひ
1644-11 たるをみていかかおほすらんすこしちかくまいりより給ていにしへの人もさるへき
1644-12 ほとはへたてなくこそならはして侍けれいとうとうとしくのみもてなさせ
1644-13 給こそとしのひてきこえ給へはいかなるゑにかとおほすにおしまきよせて御まへ
1644-14 にさしいれ給へるをうつふして御らむする御くしのうちなひきてこほれいて
1645-01 たるかたそははかりほのかにみたてまつり給にあかすめてたくすこしもものへたて
1645-02 たる人と思きこえましかはとおほすにしのひかたくて
1645-03 わか草のねみむものとはおもはねとむすほほれたる心ちこそすれ御まへなる
1645-04 人々はこの宮をはことにはちきこえてもののうしろにかくれたりことしもこそあれ
1645-05 うたてあやしとおほせはものもの給はすことはりにてうらなくものをと
1645-06 いひたるひめ君もされてにくくおほさるむらさきのうへのとりわきてこのふた所
1645-07 をはならはしきこえ給しかはあまたの御なかにへたてなく思かはしきこえ給へ
1645-08 り世になくかしつききこえ給てさふらふ人々もかたほにすこしあかぬところ
1645-09 あるははしたなけなりやむことなき人の御むすめなともいとおほかり御心のうつろひやすき
1645-10 はめつらしき人々にはかなくかたらひつきなとし給つつかのわたり
1645-11 をおほしわするるおりなきものからをとつれ給はて日ころへぬまちきこえ給
1645-12 ところはいとまちとをなるき心ちして猶かくなめりと心ほそくなかめ給ふに中納言おはし
1645-13 たりなやましけにし給とききて御とふらひなりけりいと心ちまとふはかり
1645-14 の御なやみにもあらねとことつけてたいめむし給はすおとろきなからはるけき
1646-01 ほとをまいりきつるを猶かのなやみ給ふらむ御あたりちかくとせちにおほつかなかり
1646-02 きこえ給へはうちとけてすまゐ給へるかたのみすのまへにいれたてまつる
1646-03 いとかたはらいたきわさとくるしかり給へとけにくくはあらて御くしもたけ
1646-04 御いらへなときこえ給宮の御心もゆかておはしすきにしありさまなとかたりきこえ
1646-05 給てのとかにおほせ心いられしてなうらみきこえ給そなとをしへきこえ給へ
1646-06 はここにはともかくもきこえたまはさめりなき人の御いさめはかかることに
1646-07 こそとみ侍はかりなむいとおしかりけるとてなき給氣色なりいと心くるしくわれ
1646-08 さへはつかしき心ちして世(の)中はとてもかくてもひとつさまにてすくすことかたく
1646-09 なむ侍をいかなる事をも御らんししらぬ御心ともに（は）ひとへにうらめし
1646-10 なとおほすこともあらむをしゐておほしのとめようしろめたくはよにあらし
1646-11 となん思はへるなと人の御うへをさへあつかふもかつはあやしくおほゆよるよる
1646-12 はましていとくるしけにし給けれはうとき人の御けはひのちかきもなかの宮
1646-13 のくるしけにおほしたれは猶れいのあなたにと人々きこゆれとましてかくわつらひ
1646-14 給ほとのおほつかなさを思のままにまいりきていたしはなち給へれはいと
1647-01 わりなくなむかかるおりの御あつかひもたれかははかはかしくつかうまつる
1647-02 なと弁のおもとにかたらひ給て御すほうはしむへきことの給いとみくるしく
1647-03 ことさらにもいとはしき身をときこえ給へと思くまなくのたまはむもうたてあれ
1647-04 はさすかになからへよと思ひ給へる心はえもあはれなり又のあしたにすこしも
1647-05 よろしくおほさるやきのふはかりにてたにきこえさせむとあれはひころふれは
1647-06 にやけふはいとくるしくなむさらはこなたにといひいたし給へりいとあはれに
1647-07 いかにものし給へきにかあらむありしよりはなつかしき御けしきなるもむねつふれ
1647-08 ておほゆれはちかくよりてよろつのことをきこえ給てくるしくてえきこえ
1647-09 すすこしためらはむほとにとていとかすかにあはれなるけはひをかきりなく心くるしく
1647-10 てなけきゐ給へりさすかにつれつれとかくておはしかたけれはいとうしろめたけれ
1647-11 とかへり給なをかかる御すまゐは（猶）くるしかりけりところさり給にことよせ
1647-12 てさるへき所にうつろはしたてまつらむなときこえをきてあさりにも御いのり
1647-13 心にいるへくのたまひしらせていて給ぬこの君の御ともなる人のいつしか
1647-14 とここなるわかき人をかたらひよりたるなりけりをのかししの物かたりにかの
1648-01 宮の御しのひありきせいせられ給て内にのみこもりおはします右のおほいとののひめ君
1648-02 をなんあはせたてまつり給へかなるををむなかたはとしころの御ほいなれ
1648-03 はおほしととこほる事なくてとしのうちにありぬへかなり宮はしふしふにおほし
1648-04 て内わたりにもたたすきかましき事に御心をいれてみかときさいの御いましめ
1648-05 にしつまり給へくもあらさめりわか殿こそなをあやしく人にに給はすあまり
1648-06 まめにおはしまして人にはもてなやまされ給へここにかくわたり給のみなむめもあやに
1648-07 おほろけならぬことと人申なとかたりけるをさこそいひつれなと人々
1648-08 の中にてかたるをきき給にいととむねふたかりていまはかきりにこそあなれやむことなき
1648-09 かたにさたまり給はぬ程のなをさりの御すさひにかくまておほしけむを
1648-10 さすかに中納言なとのおもはんところをおほしてことのはのかきりふかきなり
1648-11 けりと思なし給にともかくも人の（御）つらさは思ひしらすたた身のをき所のなき
1648-12 心ちしてしほれふし給へりよはき御心ちはいとと世にたちとまるへくもおほえ
1648-13 すはつかしけなる人々にはあらねと思らむところのくるしけれはきかぬやうに
1648-14 てねたまへるを中の君ものおもふ時のわさとききしうたたねの御さまのいと
1649-01 らうたけにてかいなをまくらにてね給へるに御くしのたまりたるほとなとありかたく
1649-02 うつくしけなるをみやりつつおやのいさめしことのはもかへすかへすおもひいて
1649-03 られ給てかなしけれはつみふかかなるそこにはよもしつみ給はしいつこにもいつこにも
1649-04 おはすらむかたにむかへ給ひてよかくいみしくものおもふ身ともをうちすて
1649-05 給て夢にたにみえ給はぬよと思つつけ給ゆふくれのそらのけしきいとすこく
1649-06 しくれてこのしたふきはらふ風のをと（なと）にたとへんかたなくきしかた行さき
1649-07 おもひつつけられてそひふし給へるさまいととあてにかきりなくみえたまふしろき
1649-08 御そにかみはけつる（こ）ともし給はてほとへぬれとまよふすちなくうちやられ
1649-09 てひころにすこしあをみ給へるしもいますこしなまめかしさまさりてなかめいたし給へる
1649-10 まみひたいつきのほと（も）みしらん人にみせまほしひるねの君風のいとあらきに
1649-11 おとろかされておきあかり給へり山ふきうす色なとはなやかなる色あひに御かほ
1649-12 はことさらにそめにほはしたらむやうにいとおかしくはなはなとしていささか
1649-13 物おもふへきさまもし給へらすこ宮の夢にみえ給つるいとものおほしたるけしき
1649-14 にてこのわたりにこそほのめき給つれとかたり給へはいととしくかなしさ
1650-01 そひてうせ給にしのちいかて夢にもみたてまつらむとおもふをさらにこそみえ給は
1650-02 ねとてふた所なからいみしくなき給このころあけくれ思いてたてまつれ
1650-03 はほのめきもやおほすらんいかておはすらむ所にたつねまいらむつみふかけなる
1650-04 身ともにてとのちのよをさへ思ひやり給人の國にありけむかうのけふりそいと
1650-05 えまほしくおほさるるゐとくらくなるほとに宮より御ふみあるおりはすこし
1650-06 もの思ひなくさみぬへし御かたはとみにもみ給はす猶心うつくしくおひらかなる
1650-07 さまにきこえ給へかくてはかなくもなり侍なはこれよりなこりなきかたに
1650-08 もてなしきこゆる人もやいてこむとうしろめたきをまれにもこの人の思ひいて
1650-09 きこえ給はむにさやうなるあるましき心つかふ人はえあらしと思へはつらきなから
1650-10 なむたのまれけるときこえ給へはをくらさむとおほしけるこそいみしくはへれ
1650-11 とていよいよかほ（を）ひきいれ給かきりあれはかた時もをくれたてまつらしと思しかとなからふる
1650-12 わさなりけりと思侍そやあすしらぬよのさすかになけかしきもたかためおしき
1650-13 いのちにかはとておほとなふらまいらせてみ給ふれいのこまやかにかき給
1650-14 て
1651-01 なかむるはおなし雲井をいかなれはおほつかなさをそふる時雨そかくそて
1651-02 ひつるなとふることもやありけむみみなれにたるをなをあらしこととみるにつけ
1651-03 てもうらめしさまさり給さはかり世にありかたき御ありさまかたちをいとと
1651-04 いかて人にめてられむとこのましくえむにもてなし給へれはわかき人の心よせ
1651-05 たてまつり給はむことはりなりほとふるにつけてもこひしくさはかりところせき
1651-06 まて契をき給しをさりともいとかくてはやましと思なをす心そつねにそひける
1651-07 御返こよひまいりなんときこゆれはこれかれそそのかしきこゆれはたたひとこと
1651-08 なん
1651-09 あられふるみ山のさとはあさ夕になかむる空もかきくらしつつかくいふは
1651-10 神な月のつこもりなりけり月もへたたりぬるよと宮はしつ心なくおほされてこよひ
1651-11 こよひとおほしつつとにかくにさはりおほみなるほとに五節なととくいてきたるとし
1651-12 にて内わたりいまめかしくまきれかちにてわさともなけれとすくい給ほとにあさましく
1651-13 まちとをなりはかなく人をみ給につけてもさるは御心にはなるるをり
1651-14 なし左のおほいとののわたりの事大宮も猶さるのとやかなる御うしろみをまうけ
1652-01 給てそのほかにたつねまほしくおほさるる人あらはまいらせておもおもしく
1652-02 もてなし給へときこえ給へとしはしさ思ふたまふるやうなむきこえいなひ給て
1652-03 まことにつらきめはいかてかみせむなとおほす御心をしり給はねは月日にそへ
1652-04 てものをのみおほす中納言もみしほとよりはかろひたる御心かなさりともとおもひ
1652-05 きこえけるもいとをしく心からおほえつつおさおさまいり給はすやまさと
1652-06 にはいかにいかにとたえすとふらひきこえ給この月となりてはすこしよろしくおはすと
1652-07 きき給けるにおほやけわたくしものさはかしきころにて五六日人もたてまつれ
1652-08 給はぬにいかならむとうちおとろかれたまいてわりなきことのしけさをうちすて
1652-09 てまて給すほうはおこたりはて給まてとのたまひをきけるをよろしくなりに
1652-10 けりとてあさりをもかへし給ひけれはいと人すくなにてれゐの老人いてきて御ありさま
1652-11 きこゆそこはかといたきところもなくおとろおとろしからぬ御なやみに
1652-12 ものをなむさらにきこしめさぬもとより人にに給はすあえかにおはしますうち
1652-13 にこのみやの御ことゐてきにしのちいととものおほしたるさまにてはかなき御くた物
1652-14 をたに御らむしいれさりしつもりにやあさましくよはくなり給てさらに
1653-01 たのむへくもみえ給はすよに心うく侍ける身のいのち（の）なかさにてかかること
1653-02 をみたてまつりつれはまついかてさきにたちきこえなんとおもひ給はへるといひもやらす
1653-03 なくさまことはりなり心うくなとかかくともつけ給はさりける院にも内にも
1653-04 あさましくことしけきころにて日ころもえきこえさりつるおほつかなさとてありし
1653-05 かたにいり給ふ御まくらかみちかくてものきこえ給へと御こゑもなきやうに
1653-06 てえいらへたまはすかくおもくなり給まてたれもたれもつけたまはさりけるか
1653-07 つらうおもふにかひなきこととうらみてれいのあさりおほかた世にしるしあり
1653-08 ときこゆる人のかきりあまたさうし給御修法と經なとあくる日よりはしめさせ
1653-09 給はむとてとの人あまたまいりつとひかみしもの人たちさはきたれは心ほそさ
1653-10 のなこりなくたのもしけなりくれぬれはれいのあなたにときこえて御ゆつけなと
1653-11 まいら(せ)むとすれとちかくてたにみたてまつらむとてみなみのひさしはさうの
1653-12 座なれはひんかしおもてのいますこしちかきかたに屏風なとたてさせていり
1653-13 （ゐ）給なかの宮くるしとおほしたれとこの御中を猶もてはなれたまはぬなりけり
1653-14 とみなおもひてうとくもえもてなしへたてす初夜よりはしめて法花經をふたむに
1654-01 よませさせ給ふこゑたうときかきり十二人していとたうとし火はこなたのみなみのま
1654-02 にともしてうちはくらきに木丁をひきあけてすこしすへり入てみたてまつり
1654-03 給へは老人とも二三人そさふらふなかの宮はふとはいかくれ給ぬれはいと人すくなに
1654-04 心ほそくてふし給へるをなとか御こゑをたにきかせたまはぬとて御てをとらへ
1654-05 ておとろかしきこえ給へは心ちには思なからものいふかいとくるしくてなん
1654-06 日ころをとつれ給はさりつれはおほつかなくてすきはへるへきにやとくちをしく
1654-07 こそ侍つれといきのしたにの給かくまたれたてまつるほとまてまいりこさり
1654-08 けることとてさくりもよよとなき給御くしなとすこしあつくそおはしけるなに
1654-09 のつみなる御心ちにかと人のなけきおふこそかくあむなれと御みみにさしあてて
1654-10 もの（を）おほくきこえ給へはうるさうもはつかしうもおほえてかををふたき給へ
1654-11 るをむなしくみなしていかなる心ちせむとむねもひしけておほゆひころみたてまつり
1654-12 なやみ給つらむ（御心ちもやすからすおほされつらむ）こよひたに心やすくうちやすま
1654-13 せ給へとのゐ人さふらふへしときこえ給へはうしろめたけれとさるやうこそ
1654-14 はとおほしてすこししそき給へりひたおもてにはあらねとはひよりつつみたてまつり
1655-01 給へはいとくるしくはつかしけれとかかるへき契こそはありけめとおほし
1655-02 てこよなうのとかにうしろやすき御心をかのかたつかたの人にみくらへ（たてまつり）
1655-03 給へはあはれとも思ひしられにたりむなしくなりなむのちのおもひて
1655-04 にも心こはくおもひくまなからしとつつみ給てはしたなくもえをしはなち給は
1655-05 すよもすから人をそそのかして御ゆなとまいらせたてまつらせ給へとつゆはかり
1655-06 まいるけしきもなしいみしのわさやいかにしてかはかけととむへきとゐはむかたなく
1655-07 おもひい給へりふたむ經のあか月かたのゐかはりたるこゑのいとたうとき
1655-08 にあさりもよひにさふらひてねふりたるうちおとろきてたらによむ老かれに
1655-09 たれと（いと）くうつきてたのもしうきこゆいかかこよひはおはしましつらむなと
1655-10 きこゆるついてにこ宮の御ことなと申いててはなしはしはうちかみていかなる
1655-11 ところにかおはしますらむさりともすすしきかたにそと思ひやりたてまつるをさいつころ
1655-12 の夢になむみえおはしまししそくの御かたちにて世(の)中をふかういとひはなれ
1655-13 しかは心とまることなかりしをいささかうち思ひし事にみたれてなんたたしはし
1655-14 ねかひのところをへたたれるをおもふなんいとくやしきすすむるわさせよ
1656-01 といとさたかにおほせられしをたちまちにつかうまつるへきことのおほえ侍ら
1656-02 ねはたへたるにしたかひておこなひし侍法師はら五六人してなにかしの念仏なん
1656-03 つかうまつらせ侍るさては思給へえたること侍りて常不輕をなむつかうまつらせはへる
1656-04 なと申にきみもいみしうなき給かの世にさへさまたけきこゆらんつみのほと
1656-05 をくるしき御心ちにもいとときえいりぬはかりおほえ給いかてかのまたさたまり
1656-06 給はさらむさきにまてておなし所にもとききふし給へりあさりは事すくなに
1656-07 てたちぬこのさう不輕そのわたりのさとさと京まてあり（き）けるをあか月のあらし
1656-08 にわひてあさりのさふらふあたりをたつねて中門のもとにゐていとたうとく
1656-09 つく廻向のすゑつかたの心はえいとあはれなりまらうともこなたにすすみたる
1656-10 御心にてあはれしのはれ給はすなかの宮せちにおほつかなくておくのかたなる
1656-11 木丁のうしろにより給へるけはひをきき給てあさやかにゐなをり給て不輕のこゑ
1656-12 はいかかきかせ給ひつらむおもおもしきみちにはおこなはぬことなれとたうとく
1656-13 こそ侍けれとて
1656-14 霜さゆるみきはの千鳥うちわひてなくねかなしきあさほらけかなことはの
1657-01 やうにきこえ給つれなき人の御けはひにもかよひて思ひよそへらるれといらへにくく
1657-02 て弁してそきこえ給ふ
1657-03 あかつきの霜うちはらひ鳴ちとりものおもふ人の心をやしるにつかはしから
1657-04 ぬ御かはりなれとゆへなからすきこえなすかやうのはかなしこともつつましけなる
1657-05 物からなつかしうかひあるさまにとりなし給ふものをいまはとてわかれ
1657-06 なはいかなる心ちせむとまとひ給宮の夢にみえ給けむさまおほしあはするにかう
1657-07 心くるしき御ありさまともをあまかけりてもいかにみ給らむとおしはかられ
1657-08 ておはしまししみてらにも御す經せさせ給所所のいのりのつかひいたしたて
1657-09 させ給おほやけにもわたくしにも御いとまのよし申給てまつりはらへよろつに
1657-10 いたらぬ事なくし給へともののつみめきたる御やまゐにもあらさりけれはなにの
1657-11 しるしもみえすみつからもたいらかにあらむともほとけをもねむしたまはは
1657-12 こそあらめなをかかるつゐてにいかてうせなむこの君のかくそゐてのこりなく
1657-13 なりぬるをいまはもてはなれむかたなしさりとてかうをろかならすみゆめる心はえ
1657-14 のみをとりしてわれも人もみえむか心やすからすうかるへきこともしいのち
1658-01 しゐてとまらはやまゐに事つけてかたちをもかへてむさてのみこそなかき心
1658-02 をもかたみにみはつへきわさなれと思しみ給てとあるにてもかかるにてもいかて
1658-03 このおもふことしてむとおほすをさまてさかしきことはえうちいて給はてなかの宮
1658-04 に心ちのいよいよたのもしけなくおほゆるをいむことなんいとしるしあり
1658-05 ていのちのふる事とききしをさやうにあさりにの給へときこえ給へはみななきさはき
1658-06 ていとあるましき御事なりかくはかりおほしまとふめる中納言殿もいかか
1658-07 あえなきやうにおもひきこえ給はむとにけなき事に思てたのもし人にも申つか
1658-08 ねはくちをしうおほすかくこもりゐ給つれはききつきつつ御とふらひにふりはえ
1658-09 ものし給人もありをろかにおほされぬこととみ給へは殿人したしきけいし
1658-10 なとはをのをのよろつの御いのりをせさせなけききこゆとよのあかりはけふ
1658-11 そかしと京思ひやり給風いとふ吹て雪のふるさまあはたたしうあれまとふみやこ
1658-12 にはいとかうしもあらしかしと人やりならす心ほそうてうとくてやみぬへき
1658-13 にやとおもふ契はつらけれとうらむへうもあらすなつかしうらうたけなる御もてなし
1658-14 をたたしはしにてもれいになして思つることとももかたらははやとおもひつつけ
1659-01 てなかめ給ひかりもなくてくれはてぬ
1659-02 かきくもり日かけもみえぬおく山に心をくらすころにもある哉たたかくて
1659-03 おはするをたのみにみな思きこえたりれいのちかきかたにゐ給へるにみ木丁なと
1659-04 を風のあらはに吹なせはなかの宮おくにいり給みくるしけなる人々もかかやきかくれ
1659-05 ぬるほとにいとちかうよりていかかおほさるるここら思ひのこすこと
1659-06 なくねむしきこゆるかひなく御こゑをたにきかすなりにたれはいとこそわひしけれ
1659-07 をくらかし給ははいみしうつらからむとなくなくきこえ給ふものおほえす
1659-08 なりにたるさまなれとかほはいとよくかくし給へりよろしきひまもあらはきこえ
1659-09 まほしきことも侍れとたたきえいるやうにのみなり行はくちをしきわさにこそ
1659-10 といとあはれと思給へるけしきなるにいよいよせきととめかたくてゆゆしうもかく
1659-11 心ほそけに思ふとはみえしとつつみ給へとこゑもおしまれすいかなる契にて
1659-12 かきりなく思ひ（きこえ）なからつらきことおほくてわかれたてまつるへきにかすこし
1659-13 うきさまをたにみせ給ははなむ思さますふしにもせむとまもれといよいよ
1659-14 あはれけにあたらしくおかしき御ありさまのみみゆかいななともいとほそうなり
1660-01 てかけのやうによはけなるものからいろあはひもかはらすしろううつくしけに
1660-02 なよなよとしてしろき御そとものなよひかなるにふすまををしやりてなかにみ
1660-03 もなきひゐなをふせたらむ心ちして御くしはいとこちたうもあらぬほとにうちやら
1660-04 れたる枕よりおちたるきはのつやつやとめてたうおかしけなるもいかになり
1660-05 給なむとするそとあるへき物にもあらさめりとみるかおしきことたくひなし
1660-06 ここらひさしくなやみてひきもつくろはぬけはひの心とけすはつかしけにかきりなう
1660-07 もてなしさまよう人にもおほうまさりてこまかにみるままにたましゐも
1660-08 しつまらむかたなうかなしつゐにうちすて給なはよにしはしもとまるへきにもあらす
1660-09 いのちもしかきりありてとまるへうともふかき山にさすらへなむとすたたいと
1660-10 心くるしう（て）とまり給はむ御ことをなん思きこゆるといらへせさせたてまつらむ
1660-11 とてかの御ことをかけ給へはかをかくし給へる御そてをすこしひきなをしてかく
1660-12 はかなかりける物を思ひくまなきやうにおほされたりつるもかひなけれはこの
1660-13 とまり給はむ人をおなしこと思ひきこえ給へとほのめかしきこえしにたかへ
1660-14 給はさらましかはうしろやすからましとこれのみなむうらめしきふしにてとまり
1661-01 ぬへうおほえ侍との給へはかくいみしうものおもふへき身にやありけんいかにもいかにも
1661-02 ことさまにこの世を思かかつらふかたの侍らさりつれは御おもむけに
1661-03 したかひきこえすなりにしいまはなむくやしく心くるしうもおほゆるされともうしろめたく
1661-04 なおもひきこえ給そなとこしらへていとくるしけにし給へはすほう
1661-05 のあさりともめしいれさせさまさまのけむあるかきりしてかちまいらせさせ給ふ
1661-06 われも仏をねんせさせ給ふことかきりなし世(の)中をことさらにいとひはなれね
1661-07 とすすめ給ふ仏なとのいとかくいみしきもの（は）おもはせ給にやあらむみるままに
1661-08 ものかくれ行やうにてきえはて給ぬるはいみしきわさかなひきととむへきかた
1661-09 なくあしすりもしつへく人のかたくなしとみむこともおほえすかきりとみたてまつり（給）
1661-10 てなかの宮のをくれしとおもひまとひ給さまもことはりなりあるにもあらす
1661-11 みえ給をれいのさかしき女はらいまはいとゆゆしきこととひきさけたてまつる
1661-12 中納言の君はさりともいとかかる事あらし夢かとおほして御となふら（を）
1661-13 ちかうかかけてみたてまつり給にかくし給つるかほもたたねたまへるやうにてかはり
1661-14 たまへるところもなくうつくしけにてうちふし給へるをかくなからむしのから
1662-01 のやうにてもみるさまならましかはと思まとはるいまはの事ともするに御くし
1662-02 をかきやるにさとうちにほひたるたた（ありしなからのにほひになつかしうかうはしき
1662-03 も）ありかたうなにことにてこの人をすこしもなのめなりしと思さまさ
1662-04 むまことによの中を思すてはつるしるへならはおそろしけにうきことのかなしさ
1662-05 もさめぬへきふしをたにみつけさせ給へと仏を念し給へといとと思のとめむ
1662-06 かたなくのみあれはいふかひなくてひたふるにけふりにたになしはててむとおもほし
1662-07 てとかくれいのさほうともするそあさましかりけるそらをあゆむやうに
1662-08 たたよひつつかきりのありさまさへはかなけにてけふりもおほくむすほ（ほ）れ給は
1662-09 すなりぬるもあえなしとあきれてかへり給ぬ御いみにこもれる人數おほくて
1662-10 心ほそさはすこしまきれぬへけれとなかの宮は人のみおもはんこともはつかしき
1662-11 身の（心）うさを思しつみ給て又なき人にみえ給宮よりも御とふらひいとしけく
1662-12 たてまつれ給おもはすにつくつくと思きこえ給へりしけしきもおほしなをらて
1662-13 やみぬるをおほすにいとうき人の御ゆかりなり中納言かくよのいと心うくおほゆる
1662-14 ついてにほいとけんとおほさるれと三条の宮のおほされむことにははかり
1663-01 この君の御ことの心くるしさとに思みたれてかのの給しやうにてかたみにもみる
1663-02 へかりける物をしたの心は身をわけ給へりともうつろふへくもおほえ給さり
1663-03 しをかう物思はせたてまつるよりはたたうちかたらひてつきせぬなくさめにも
1663-04 みたてまつりかよはましものをなとおほすかりそめに京にもいて給はすかきたえ
1663-05 なくさむかたなくてこもりおはするを世人もをろかならす思給へることとみきき
1663-06 て内よりはしめたてまつりて御とふらひおほかりはかなくてひころはすき行
1663-07 七日七日の事ともいとたうとくせさせ給つつをろかならすけうし給へとかきりあれ
1663-08 は御その色のかはらぬをかの御かたの心よせわきたりし人々のいとくろく
1663-09 きかへたるをほのみ給ふも
1663-10 くれなゐにおつる涙もかひなきはかたみの色をそめぬなりけりゆるし色
1663-11 のつやなとこほりとけぬかとみゆるをいととぬらしそへつつなかめ給ふさまいとなまめかしく
1663-12 きよけなり人々のそきつつみたてまつりていふかひなき御ことをはさる物にて
1663-13 このとののかくならひたてまつりていまはとよそにおもひきこえむこそ
1663-14 あたらしくくちをしけれおもひのほかなる御すくせにもおはしけるかなかくふかき
1664-01 御心のほとをかたかたにそむかせ給へるよとなきあへりこの御かたにはむかし
1664-02 の御かたみにいまはなに事もきこえうけ給はらむとなん思給ふるうとうとしく
1664-03 おほしへたつなときこえ給へとよろつの事うき身なりけりと物のみつつましく
1664-04 てまたたいめむしてものなときこえ給はすこの君はけさやかなるかたにいますこし
1664-05 こめきけたかくおはするものからなつかしくにほひある心さまそおとり
1664-06 給へりけるとことにふれておほゆ雪のかきくらしふる日ひねもすになかめくらし
1664-07 てよの人（の）すさましきことにいふなるしはすの月夜のくもりなくさしいて
1664-08 たるをすたれまきあけてみ給へはむかひのてらのかねのこゑ枕をそはたててけふ
1664-09 もくれぬとかすかなるひひきをききて
1664-10 をくれしと空行月をしたふかなつゐにすむへきこのよならねは風のいとはけしけれ
1664-11 はしとみをろさせ給によもの山のかかみとみゆるみきはのこほり月かけ
1664-12 にいとおもしろし京のいゑのかきりなくとみかくもえかうはあらぬはやとおほゆ
1664-13 わつかにいきいててものし給はましかはもろともにきこえましとおもひつつくる
1664-14 そむねよりあまる心ちする
1665-01 戀わひてしぬるくすりのゆかしきに雪の山にやあとをけなましなかはなる偈
1665-02 をしへむおにもかなことつけて身もなけむとおほすそ心きたなきひしり心なり
1665-03 ける人々ちかくよひいて給て物かたりなとせさせ給けはひなとのいとあらまほしく
1665-04 のとやかに心ふかきをみたてまつる人々わかきは心にしめてめてたしと
1665-05 思たてまつる老たるはたたくちおしくいみしき事をいとと思ふ御心ちのおもく
1665-06 ならせ給しこともたたこの宮の御ことをおもはすにみたてまつり給て人わらへに
1665-07 いみしとおほすめりしをさすかにかの御かたにはかくおもふとしられたてまつら
1665-08 しとたた御心ひとつによをうらみ給めりしほとにはかなき御くた物をもきこしめしふれ
1665-09 すたたよはりになむよはらせ給めりしうはへにはなにはかりことことしく
1665-10 物ふかけに（も）もてなさせ給はてしたの御心のかきりなくなにことも
1665-11 おもほすめりしこ宮の御いましめにさへたかひぬることとあいなう人の御うへ
1665-12 をおほしなやみそめしなりときこえておりおりの給しことなとかたりいてつつ
1665-13 たれもたれもなきまとふことつきせすわか心からあちきなくことをおもはせたてまつり
1665-14 けむ事ととりかへさまほしくなへての世もつらきにねんすをいととあはれに
1666-01 し給てまとろむほとなくあかし給にまた夜ふかきほとの雪のけはひいとさむけなる
1666-02 に人々こゑあまたしてむまのをとなときこゆなに人かはかかるさよ中に雪
1666-03 をわくへきとたいとこたちもおとろき思えるに宮かりの御そにいたうやつれて
1666-04 ぬれぬれいり給へるなりけりうちたたき給さまさななりときき給て中納言はかくろへ
1666-05 たるかたに入たまひてしのひておはす御いみは日かすのこりたりけれと
1666-06 心もとなくおほしわひてよ一夜雪にまとはされてそおはしましけるひころのつらさ
1666-07 もまきれぬへきほとなれとたいめむし給へき心ちもせすおほしなけきたる
1666-08 さまのはつかしかりしをやかてみなをされ給はすなりにしもいまよりのちの御心
1666-09 あらたまらむはかひなかるへく思しみてものし給へはたれもたれもいみしうことはり
1666-10 をきこえしらせつつものこしにてそひころのおこたりつきせすの給をつくつくと
1666-11 ききゐ給へりこれもいとあるかなきかにてをくれ給ふましきにやときこゆる
1666-12 御けはひの心くるしさをうしろめたういみしと宮はおほしたりけふは御身
1666-13 をすててとまり給ぬものこしならてといたくわひ給へといますこし物おほゆる
1666-14 ほとまて侍らはとのみきこえ給てつれなきを中納言もけしききき給てさるへき
1667-01 人めしいてて御ありさまにたかひて心あさきやうなる御もてなしのむかしも
1667-02 いまも心うかりける月ころのつみはさも思きこえ給ぬへきことなれとにくからぬ
1667-03 さまにこそかうかへたてまつりたまはめかやうなる事またみしらぬ御心にて
1667-04 くるしうおほすらんなとしのひてさかしかり給へはいよいよこの君の御心もはつかしく
1667-05 てえきこえ給はすあさましく心うくおはしけりきこえしさまをもむけに
1667-06 わすれ給けることとをろかなら（す）なけきくらし給へりよるのけしきいととけはしき
1667-07 風のをとに人やりならすなけきふしたまへるもさすかにてれいのものへたて
1667-08 てきこえの給ちちのやしろをひきかけて行さきなかきことをちきりきこえ
1667-09 給もいかてかくくちなれ給けむと心うけれとよそにてつれなきほとのうとましさ
1667-10 よりはあはれに人の心もたをやきぬへき御さまを一かたにもえうとみはつましかり
1667-11 けりたたつくつくとききて
1667-12 きしかたを思ひいつるもはかなきを行すゑかけてなにたのむらんとほのかに
1667-13 の給なかなかいふせう心もとなし
1667-14 行すゑをみしかき物とおもひなはめのまへにたにそむかさらなんなに事も
1668-01 いとかうみるほとなきよをつみふかくなおほしないそとよろつにこしらへ給へ
1668-02 と心ちもなやましくなむとていり給にけり人のみるらんもいと人わろくてなけきあかし
1668-03 給ふうらみむもことはりなるほとなれとあまり（に）人にくく（もと）つらき
1668-04 涙のおつれはましていかに思つらむとさまさまあはれにおほししらる中納言（の）
1668-05 あるしかたにすみなれて人人もやすらかによひつかひ人もあまたしてものまいらせ
1668-06 なとし給をあはれにもおかしうも御らむすいといたうやせあをみてほれほれしき
1668-07 まてものを思たれは心くるしとみ給てまめやかにとふらひ給ありしさまなと
1668-08 かひなき事なれとこの宮にこそはきこえめと思へとうちいてむにつけてもいと
1668-09 心よはくかたくなしくみ（え）たてまつらんにははかりてことすくななりねをのみ
1668-10 なきて日かすへにけれはかほかはりのしたるもみくるしくはあらていよいよ
1668-11 物きよけになまめいたるを女ならはかならす心うつりなむとをのかけしからぬ
1668-12 （御）心ならひにおほしよるもなまうしろめたかりけれはいかて人のそしりをもうらみ
1668-13 をもはふきて京にうつろはしめんとおほすかくつれなきものから内わたりに
1668-14 もきこしめしていとあしかるへきにおほしわひてけふはかへらせ給ぬをろかならす
1669-01 ことの葉をつくし給へとつれなきはくるしきものをとひとふしをおほししらせ
1669-02 まほしくて心とけすなりぬとしくれかたにはかからぬ所たにそらのけしき
1669-03 れいにはにぬをあれぬ日なくふりつむ雪にうちなかめつつあかしくらし給ここち
1669-04 つきせす夢のやうなり宮よりもみすきやうなとこちたきまてとふらひきこえ
1669-05 給かくてのみやはあたらしきとしさへなけきすくさむここかしこにもおほつかなく
1669-06 てとちこもり給へることをきこえ給へはいまはとてかへり給はむ心ちもたとへむかたなし
1669-07 かくおはしならひて人しけかりつるなこりなくならむをおもひわふる
1669-08 人々いみしかりしおりのさしあたりてかなしかりしさはきよりもうちしつまり
1669-09 ていみしくおほゆときときおりふしおかしやかなるほとにきこえかはし
1669-10 給しとしころよりもかくのとやかにてすくし給へるひころの御ありさまけはひ
1669-11 のなつかしくなさけふかうはかなきことにもまめなるかたにもおもひやりおほかる
1669-12 御心はえをいまはかきりにみたてまつりさしつる事とおほほれあへりかの
1669-13 宮よりは猶かうまいりくることもいとかたきをおもひわひてちかうわたしたてまつる
1669-14 へきことをなむもとめいてたるときこえ給へりきさいの宮きこしめしつけ
1670-01 て中納言もかくをろかならす思ほれてゐたなるはけにをしなへておもひかたう
1670-02 こそはたれもおほさるらめと心くるしかり給て二条の院のにしのたいにわたし
1670-03 たてまつりたまひてときときもかよひたまふへくしのひてきこえ給ひけるは女一(の)宮の御かた
1670-04 にことよせておほしなるにやとおほしなからおほつかなかるましきはうれしく
1670-05 ての給ふなりけりさななりと中納言もきき給て三条の宮もつくりはててわたい
1670-06 たてまつらむとおもひしものをかの御かはりになすらへてもみるへかりける
1670-07 をなとひきかへし心ほそし宮のおほしよるめりしすちはいとにけなき事におもひはなれ
1670-08 ておほかたの御うしろみはわれならては又たれかはとおほすとや