52巻 かけろふ
畳語、繰り返し文字は文字になおしてあります。
赤字が傳津守國冬・慈寛各筆本文です。（ ）内の語は本文にないことを示します。
1931-01 かしこには人々おはせぬをもとめさはけとかひなし物かたりのひめ君の人にぬすま
1931-02 れたらむあしたの樣なれはくはしくもいひつつけす京よりありしつかひの
1931-03 かへらすなりにしかはおほつかなしとてまた人おこせたりまたとりのなくになむ
1931-04 いたしたてさせ給つるとつかひのいふにいかにきこえんとめのとよりはしめ
1931-05 てあはてまとふことかきりなしおもひゆるかたなくてたたさはきあへるをかの心しれ
1931-06 るとちなんいみしく物をおもひ給へりしさまを思ひ出るに身をなけたまへ
1931-07 るかとはおもひよりけるなくなくこのふみをあけたれはいとおほつかなさになむ思ひつつけまとろま
1931-08 れ侍らぬ（け-ナシ）にやこよひは夢にたにうちとけてもみえす物におそはれつつ
1931-09 心地もれいならすうたて侍るを猶いとおそろしくものへわたらせ給はん事はちかく侍れ
1931-10 とその程ここにむかへたてまつりてむけふはあめふり侍ぬへけれはなと
1931-11 ありよへの御かへりをもあけてみて右近もいみしうなくされはよ心ほそきこと
1931-12 はきこえ給けり我になとかいささかの給ことのなかりけむをさなかりし程より
1931-13 つゆも心をかれたてまつる事なくちりはかりへたてなくてならひたるにいまはかきりのみち
1931-14 にしも我ををくらかしけしきをたにみせたまはさりけるかつらき事
1932-01 とおもふにあしすりといふ事をしてなくさまわかきことものやうなり侍従かうもの
1932-02 おほしたる御けしきはみたてまつりわたれとかけてもかくなへてならすおとろおとろしき
1932-03 ことおほしよらむものとはみえさりつる人の御心さまを猶いかにしつる
1932-04 事にかとおほつかなくいみしめのとは中中物もおほえてたたいかさまにせ
1932-05 むいかさまにせんとそいはれける宮にもいとれいならぬけしきなりし御かへり
1932-06 いかに思ならん我をさすかにあひ思たるさまなからあたなる心なりとのみふかく
1932-07 うたかひたれはほかへいきかくれんとにやあらむとおほしさはき御つかひあり
1932-08 あるかきりなきまとふ程にきて御ふみもえたてまつらすいかなるそとけす女
1932-09 にとへはうへのこよひにはかにうせ給にけれは物もおほえ給はすたのもしき人
1932-10 もおはしまさぬおりなれはさふらひ給人人はたたものにあたりてなむまとひ
1932-11 給といふ心もふかくしらぬをのこにてくはしうとはてまいりぬかくなむ申さ
1932-12 せたるにゆめかとおほえていとあやしいたくわつらふともきかすひころなやましと
1932-13 のみありしかときのふのかへりことはさりけもなくてつねよりもおかしけなり
1932-14 し物をとおほしやるかたなけれはときかたいきてけしきみたしかなる事とひきけ
1933-01 との給へはかの大將殿いかなることかきき給事侍けんとのゐするものをろかなり
1933-02 なといましめおほせらるとて下人のまかりいつるをもみとかめとひはへる
1933-03 なれはことつくることなくてときかたまかりたらんをもののきこえ侍らはおほしあはする
1933-04 ことなとや侍らむさてにはかに人のうせ給へらん所はろなうさはかしう
1933-05 人しけく侍らむをときこゆさりとてはいとおほつかなくてやあらむ猶とかく
1933-06 さるへきさまにかまへてれいの心しれるししうなとにあひていかなること
1933-07 をかくいふそとあないせよけすはひかこともいふなりとの給へはいとおしき御けしき
1933-08 もかたしけなくてゆふつかたゆくかやすき人はとくいきつきぬあめすこし
1933-09 ふりやみたれとわりなき道にやつれてけすのさまにてきたれは人おほくたちさはき
1933-10 てこよひやかておさめたてまつるなりなといふをきく心ちもあさましく
1933-11 おほゆ右近にせうそこしたれともえあはすたたいまものおほえすおきあからん
1933-12 心地もせてなむさるはこよひはかりこそかくもたちより給はめえきこえぬ事と
1933-13 いはせたりさりとてかくおほつかなくてはいかかかへりまいり侍らむいまひとところ
1933-14 たにとせちにいひたれはししうそあひたりけるいとあさましおほしもあへぬ
1934-01 さまにてうせ給にたれはいみしといふにもあかすゆめのやうにてたれもたれも
1934-02 まとひ侍よしを申させ給へすこしも心地のとめ侍てなむひころもものおほし
1934-03 たりつるさまひとよいと心くるしとおもひきこえさせ給へり（し）ありさまなと
1934-04 もきこえさせ侍へきこのけからひなと人のいみはへるほとすくしていまひとたひ
1934-05 たちより給へといひてなくこといといみしうちにもなくこゑこゑのみしてめのと
1934-06 なるへしあかきみやいつかたにかおはしましぬるかへり給へむなしきから
1934-07 をたにみたてまつらぬかかひなくかなしくもあるかなあけくれみたてまつりて
1934-08 もあかすおほえ給ひいつしかかひある御さまをみたてまつらむとあしたゆふへ
1934-09 にたのみきこえつるにこそいのちものひ侍つれうちすて給ひてかくゆくゑもしらせ
1934-10 給はぬ事おにかみもあかきみをはえりやうしたてまつらし人のいみしくおしむ
1934-11 人をはたいしやくもかへし給なりあか君をとりたてまつりたらむ人にまれ
1934-12 おににまれかへしたてまつれなき御からをもみたてまつらんといひつつくるか
1934-13 心えぬことともましるをあやしと思ひて猶の給へもし人のかくしきこえ給へる
1934-14 かたしかにきこしめさんと御身のかはりにいたしたてさせ給へる御つかひなり
1935-01 いまはとてもかくてもかひなきことなれとのちにもきこしめしあはすることの
1935-02 侍らんにたかふことましらはまいりたらむ御つかひのつみなるへしまたさりとも
1935-03 とたのませ給て君たちにたいめんせよとおほせられつる御心はえもかたしけなし
1935-04 とはおほされすやをんなのみちにまとひ給ことは人のみかとにもふかきためしとも
1935-05 ありけれとまたかかることこのよにはあらしとなんみたてまつるといふ
1935-06 にけにいとあはれなる御つかひにこそあれかくすとすともかくてれいならぬ
1935-07 ことのさまをのつからきこえなむと思ひてなとかいささかにても人やかくひたてまつり
1935-08 給らんと思よるへきことあらむにはかくしもあるかきりまとひ侍らむ
1935-09 ひころいといみしくものをおほしいるめりしかはかのとののわつらはしけにほのめかし
1935-10 きこえ給ことなともありき御ははにものし給人もかくののしるめのと
1935-11 なともはしめよりしりそめたりしかたにわたり給はんとなんいそきたちてこの
1935-12 御事をは人しれぬさまにのみかたしけなくあはれと思ひきえさせ給へりしに御心
1935-13 みたれけるなるへしあさましう心とみをなくなし給へるやうなれはかく心の
1935-14 まとひにひかひかしくいひつつけらるるなめりとさすかにまほならすほのめかす
1936-01 心えかたくおほえてさらはのとかにまいらむたちなから侍もいとことそきたる
1936-02 やうなりいま御身つからもおはしましなんといへはあなかたしけないまさら
1936-03 人のしりきこえさせむもなき御ためは中中めてたき御すくせみゆへき事なれ
1936-04 としのひ給しことなれはまたもらさせ給はてやませ給はむなん御心さしに侍へき
1936-05 ここにはかくよつかすうせ給へるよしを人にきかせしとよろつ（に）まきらはす
1936-06 をしねんにこととものけしきもこそみゆれとおもへはかくそそのかしやりつあめ
1936-07 のいみしかりつるまきれにはは君もわたり給へりさらにいはむかたもなくめのまへ
1936-08 になくなしたらむかなしさはいみしうともよのつねにてたくひあること
1936-09 なりこれはいかにしつる事そとまとふかかる事とものまきれありていみしうもの
1936-10 思ひ給つらんともしらねは身をなけ給へらんともおもひもよらすおにやくひつ
1936-11 らんきつねめくものやとりもていぬらんいとむかしものかたりのあやしきもの
1936-12 のことのたとひにかさやうなる事もいふなりしと思ひいつさてはかのおそろし
1936-13 と思きこゆるあたりに心なとあしき御めのとやうのものやかうむかへ給（へ）しと
1936-14 ききてめさましかりてたはかりたる人もやあらむとけすなとをうたかひいままいり
1937-01 の心しらぬやあるととへといとよはなれたりとてありならはぬ人はここに
1937-02 てはかなきことともえせすいまとてまいらむといひてなむみなそのいそくへきものとも
1937-03 なととりくしつつ返いて侍にしとてもとよりある人たにかたへはなくて
1937-04 いと人すくななるおりになんありけるししうなとこそひころの御けしきおもひいて
1937-05 身をうしなひてはやなとなきいりたまへりしおりおりのありさまかきをき給へ
1937-06 るふみをもみるになきかけにとかきすさひ給へるもののすすりのしたにありける
1937-07 をみつけてかはのかたをみやりつつひひきののしる水のをとをきくにもうとましく
1937-08 かなしとおもひつつさてうせ給けむ人をとかくいひさはきていつくにもいつくにも
1937-09 いかなるかたになり給にけむとおほしうたかはんもいといとをしきことといひあはせ
1937-10 てしのひたる事とても御心よりおこりてありし事ならすおやにてなき御のち
1937-11 にきき給へりともいとやさしき程ならぬをありのままにきこえてかくいみしく
1937-12 おほつかなきことともをさへかたかた思ひまとひ給さまはすこしあきらめさせ
1937-13 たてまつらんなくなり給へる人とてもからををきて（もて）あつかふこそよのつね
1937-14 なれよつかぬけしきにてひころもへはさらにかくれあらし猶きこえていまは
1938-01 よのきこえをたにつくろはむとかたらひてしのひてありしさまをきこゆるにいふ
1938-02 人もきえいりえいひやらすきく心地もまとひつつさはこのいとあらましとおもふ
1938-03 かはになかれうせたまひけると思ふにいとと我もおちいりぬへき心地しておはしまし
1938-04 にけむかたをたつねてからをたにはかはかしくをさめむとの給へとさらに
1938-05 なにのかひ侍らし行衞もしらぬおほうみのはらにこそおはし（まし）にけめさる
1938-06 ものから人のいひつたへん事はいとききにくしときこゆれはとさまかくさまに
1938-07 思ふにむねのせきのほる心地していかにもいかにもすへきかたもおほえ給はぬを
1938-08 この人々ふたりして車よせさせておましともけちかうつかひ給し御てうととも
1938-09 みななからぬきをき給へる御ふすまなとやうのものをとりいれてめのとこのたいとく
1938-10 それかおちのあさりそのてしのむつましきなとともとよりしりたる（おい）ほうし
1938-11 なと御いみにこもるへきかきりして人のなくなりたるけはひにまねひていたしたつる
1938-12 をめのとはは君はいといみしくゆゆしとふしまろふ大夫うとねりなと
1938-13 おとしきこえしものとももまいりて御さうそうの事はとのに事のよしも申さ
1938-14 せ給て日さためられいかめしう（こそ）つかうまつらめなといひけれとことさらこよひ
1939-01 すくすましいとしのひてと思やうあれはなととてこの車をむかひの山のまへ
1939-02 なるはらにやりて人もちかうもよせすこのあないしりたるほうしのかきりして
1939-03 やかすいとはかなくてけふりははてぬゐ中人ともは中中かかる事をことことしく
1939-04 しなしこといみなとふかくするものなりけれはいとあやしうれいのさほう
1939-05 なとあることともしらすけすけすしくあへなくてせられぬる事かなとそしりけれ
1939-06 はかたへおはする人はことさらにかくなむ京の人はし給なとそさまさまになん
1939-07 やすからすいひけるかかる人とものいひ思ふことともたにつつましきをましてもののきこえ
1939-08 かくれなき世の中に大將殿わたりにからもなくうせ給にけりときかせ
1939-09 給ははかならすおもほしうたかふこともあらむを宮はたおなし御なからひに
1939-10 てさる人のおはしおはせすしはしこそしのふともおほさめつゐにはかくれあら
1939-11 しまたさためて宮をしもうたかひきこえ給はしいかなる人かゐてかくしけんなと
1939-12 そおほしよせむかしいき給ての御すくせはいとけたかくおはせし人のけになきかけ
1939-13 にいみしきことをやうたかはれ給はんとおもへはここのうちなるしも人とも
1939-14 にもけさのあはたたしかりつるまとひにけしきもみききつるにはくちかため
1940-01 あないしらぬにはきかせしなとそたはかりけるなからへてはたれにもしつやかに
1940-02 ありしさまをもきこえてんたたいまはかなしささめぬへきことふと人つて
1940-03 にきこしめさむは猶いといとおしかるへきことなるへし（と）この人ふたりそふかく
1940-04 心のおにそひたれはもてかくしける大將殿はにうたうの宮のなやみ給けれは
1940-05 いし山にこもり給てさはき給ころなりけりさていととかしこをおほつかなうおほし
1940-06 けれとはかはかしうさなむといふ人はなかりけれはかかるいみしきことに
1940-07 もまつ御つかひのなきを人めも心うしと思にみさうの人なんまいりてしかしか
1940-08 と申させけれはあさましき心ちし給て御つかひそのまたの日またつとめてまいり
1940-09 たりいみしきことはきくままに身つからものすへきにかくなやみ給御事により
1940-10 つつしみてかかるところに日をかきりてこもりたれはなむよへのことはなとか
1940-11 ここにせうそこして日をのへてもさる事はする物をいとかろらかなるさまに
1940-12 ていそきせられにけるとてもかくてもおなしいふかひなさなれととちめの事を
1940-13 しもやまかつのそしりをさへおふなむここのためもからきなとかのむつましき
1940-14 おほくらの大輔しての給へり御つかひのきたるにつけてもいとといみしきにきこえんかたなき
1941-01 ことともなれはたたなみたにおほほれたる（はかり）をかことにて
1941-02 はかはかしうもいらへやらすなりぬとのは猶いとあへなくいみしときき給にも
1941-03 心うかりけるところかなおになとやすむらむなとていままてさるところにすへ
1941-04 たりつらむ思はすなるすちのまきれあるやうなりしもかくはなちをきたるに心やすく
1941-05 て人もいひをかし給なりけむかしと思にもわかたゆくよつかぬ心のみくやしく
1941-06 御むねいたくおほえ給なやませ給あたりにかかる事おほしみたるるもうたて
1941-07 あれは京におはしぬ女みやの御かたにもわたり給はすことことしきほとにも侍ら
1941-08 ねとゆゆしき事をちかうききつれは心のみたれ侍ほともいまいましうてなむと
1941-09 きこえ給てつきせすいみしうはかなくよをなけき給ありしさまかたちいとあいきやうつき
1941-10 おかしかりしけはひなとのいみしく戀しくかなしけれはうつつの世
1941-11 にはなとかくしも思はれすのとかにてすくしけむたたいまはさらに思ひしつめ
1941-12 んかたなきままにくやしきことのかすしらすかかることのすちにつけていみしう
1941-13 ものすへきすくせなりけりさまことに心さしたりし身の思のほかにかくれい（の）
1941-14 人にてなからふるをほとけなともにくしとみ給にや人の心をおこさせむとて
1942-01 ほとけのし給はうへむは慈悲をもかくしてかやうにこそはあれなと思つつけ給
1942-02 つつをこなひをのみし給かの宮はたまして二三日は物もおほえ給はすうつし心
1942-03 もなきさまにていかなる御物のけならんなとさはくにやうやうなみたつくし給
1942-04 ておほししつまるにしもそありしさまは戀しういみしく思ひいてられ給ける人
1942-05 にはたたおほむやまいのをもきさまをのみみせてかくすそろなるいやめのけしき
1942-06 しらせしとかしこくもてかくすとおほしけれとをのつからいとしるかりけれ
1942-07 はいかなることにかくおほしまとひ御いのちもあやうきまてしつみ給らんといふ
1942-08 人もありけれはかのとのにもいとよくこの御けしきをきき給にされはよなを
1942-09 よそのふみかよはしのみちにはあらぬなりけりみ給てはかならす（さ）おほしぬへかり
1942-10 し人そかしなからへましかはたたなるよりそ我(か)ためにおこなる事もいてきな
1942-11 ましとおほすになむこかるるむねもすこしさむる心ちし給なる宮の御とふらひ
1942-12 に日々にまいり給はぬ人なくよのさはきとなれるころことことしききはならぬ
1942-13 思にこもりゐてまいらさらんもひかみたるへしとおほしてまいり給そのころの式部卿(の)宮
1942-14 ときこゆるもうせ給にけれはおほんをちのふくにてうすにひなるも心のうち
1943-01 にあはれに思ひよそへられてつきつきしくみゆすこしおもやせていととなまめかしき
1943-02 ことまさり給へり人々まかりいててしめやかなるゆふくれなり宮ふししつみ
1943-03 てはなき御心ちなれはうとき人にこそあひ給はねみすのうちにもれい
1943-04 いり給人にはたいめんし給はすもあらすみえ給はむもあひなくつつましみ給に
1943-05 つけてもいととなみたのまつせきかたさをおほせとおもひしつめておとろおとろしき
1943-06 心ちにも侍らぬをみな人つつしむへきやまゐのさまなりとのみものすれは
1943-07 うちにも宮にもおほしさはくかいとくるしくけによの中のつねなきをも心ほそく
1943-08 おもひ侍との給ておしのこひまきらはし給とおほす涙のやかてととこほらす
1943-09 ふりおつれはいとはしたなけれとかならすしもいかてか心えんたためめしくて心よはき
1943-10 とやみゆらんとおほすもさりやたたこの事をのみおほすなりけりいつより
1943-11 なりけむ我をいかにおかしとものわらひし給心地に月ころおほしわたりつらむ
1943-12 と思にこの君はかなしさはわすれ給へるをこよなくもをろかなるかなものの
1943-13 せちにおほゆるときはいとかからぬ事につけてたに空とふとりのなきわたるに
1943-14 ももよをされてこそかなしけれわかかくすそろに心よはきにつけてももし心え
1944-01 たらむにさいふはかりもののあはれもしらぬ人にもあらすよの中のつねなき事
1944-02 おしみておもへる人しもつねなきとうらやましくも心にくくもおほさるる物から
1944-03 まきはしらはあはれなりこれにむかひたらむさまもおほしやるにかたみそかし
1944-04 ともうちまもり給やうやうよの物かたりきこえ給にいとこめてしもはあらし
1944-05 とおほしてむかしより心にしはしもこめてきこえさせぬことのこし侍かきりは
1944-06 いといふせくのみ思ひ給へられしをいまは中中の上らうになり（に）て侍りまして
1944-07 御いとまなき御ありさまにて心のとかにおはしますおりも侍らねはとのゐなと
1944-08 にその事となくてはえさふらはすそこはかとなくてすくし侍をなんむかし御らんせ
1944-09 し山さとにはかなくてうせ侍にし人のおなしゆかりなる人おほえぬところ
1944-10 に侍りとききつけ侍りてときときさてみつへくやと思給へしにあいなく人の
1944-11 そしりもはへぬへかりしおりなりしかはこのあやしき所にをきて侍しをおさおさ
1944-12 まかりてみる事もなく又かれもなにかしひとりをあひたのむ心もことになく
1944-13 （て）やありけむとはみ給つれとやむことなくものものしきすちに思給へはこそ
1944-14 あらめみるにはたことなるとかも侍らすなとして心やすくらうたしと思給へつる
1945-01 人のいとはかなくてなくなり侍にけるなへてよのありさまを思つつけ
1945-02 侍にかなしくなんきこしめすやうも侍るらむかしとていまそなき給これもいと
1945-03 かうはみえたてまつらしおこなりと思ひつれとこほれそめてはいととめかたし
1945-04 けしきのいささかみたりかほなるをあやしくいとおしとおほせとつれなくていと
1945-05 あはれなることにこそきのふほのかにきき侍きいかにともきこゆへく思給へなから
1945-06 わさと人にきかせ給はぬ事ときき侍しかはなむとつれなくの給へといとたへかたけれ
1945-07 はことすくなにておはしますさるかたにても御らむせさせはやと思
1945-08 給へりし人になんをのつからさもや侍けむ宮にもまいりかよふへきゆへ侍しか
1945-09 はなとすこしつつけしきはみて御心ちれいならぬほとはすそろなるよのこときこしめしいれ
1945-10 御みみおとろくもあいなきことになむよくつつしませおはしませ
1945-11 なときこえをきていて給ぬいみしくもおほしたりつるかないとはかなかりけれ
1945-12 とさすかにたかき人のすくせなりけりたうしのみかときさきのさはかりかしつき
1945-13 たてまつり給みこかほかたちよりはしめてたたいまのよにはたくひおはせさ
1945-14 めりみ給人とてもなのめならすさまさまにつけてかきりなき人ををきてこれに
1946-01 御心をつくしよの人たちさはきてすほうと經まつりはらへとみちみち（に）さはく
1946-02 はこの人をおほすゆかりの御心地のあやまりにこそはありけれわれもかはかり
1946-03 の身にて時のみかとの御むすめをもちたてまつりなからこの人のらうたくおほゆる
1946-04 かたはをとりやはしつるましていまはとおほゆるには心をのとめんかたなく
1946-05 もあるかなさるはおこなりかからしと思しのふれとさまさまに思ひみたれて
1946-06 人木石にあらされはみななさけありとうちすうしてふし給へりのちのしたため
1946-07 なともいとはかなくしてけるを宮にもいかかきき給らむといとおしくあへなく
1946-08 ははのなをなをしくてはらからあるはなとさやうの人はいふ事あ（んな）るを思て
1946-09 ことそくなりけんかしなと心つきなくおほすおほつかなさもかきりなきをあり
1946-10 けむさまも身つからきかまほしとおほせとなかこもりし給はむもひんなしいきといき
1946-11 てたちかへらむも心くるしなとおほしわつらふ月たちてけふそわたらまし
1946-12 とおほしいて給日の夕暮いとものあはれなりおまへちかきたちはなのかのなつかしき
1946-13 にほとときすのふたこゑはかりなきてわたるやとにかよははとひとりこち
1946-14 給もあかねはきたの宮にここにわたり給日なりけれは立花をおらせてきこえ
1947-01 賜
1947-02 しのひねや君もなくらむかひもなきしてのたおさに心かよはは宮は女君の
1947-03 御さまのいとよくにたるをいとあはれにおほしてふたところなかめ給おりなりけり
1947-04 けしきある文かなとみ給て
1947-05 たちはなのかほるあたりは郭公心してこそなくへかりけれわつらはしとかき
1947-06 給女君このことのけしきはみなみしり給てけりあはれにあさましきはかなさ
1947-07 のさまさまにつけて心ふかきなかにわれひとりもの思しらねはいままてなからふる
1947-08 にやそれもいつまてと心ほそくおほす宮もかくれなきものからへたて給も
1947-09 いと心くるしけれはありしさまなとすこしはとりなをしつつかたりきこえ給かくし
1947-10 給しかつらかりしなとなきみわらひもきこえ給にもこと人よりはむつましく
1947-11 あはれなりことことしくうるはしくてれいならぬ御事のさまもおとろきまとひ
1947-12 給所にては御とふらひの人しけくちちおととせうとの君たちひまなきもいと
1947-13 うるさきにここはいと心やすくてなつかしくそおほされけるいと夢のやうにのみ
1947-14 猶いかていとにはかなりけることにかはとのみいふせけれはれいの人々めし
1948-01 て右近をむかへにつかはすはは君もさらにこの水のをとけはひをきくにわれも
1948-02 まろひいりぬへくかなしく心うきことのとまるへくもあらねはいとわひしうて
1948-03 かへり給ひにけり念仏のそうともをたのもしきものにていとかすかなるにいりき
1948-04 たれはことことしくにはかにたちめくりしとのゐ人とももみとかめすあやにくに
1948-05 かきりのたひしもいれたてまつらすなりにしよと思いつるもいとおしさるましき
1948-06 ことをおもほしこかるることとみくるしくみたてまつれとここにきては
1948-07 おはしまししよなよなのありさまいたかれたてまつり給てふねにのり給しけはひ
1948-08 のあてにうつくしかりしことなとを思出るに心つよき人なくあはれなり右近
1948-09 あひていみしうなくもことはりなりかくの給はせて御つかひになむまいりつる
1948-10 といへはいまさらに人もあやしといひ思はむもつつましくまいりてもはかはかしく
1948-11 きこしめしあきらむはかりのものきこえさすへき心ちもし侍らすこの御いみ
1948-12 はててあからさまにもなんと人にいひなさんもすこしにつかはしかりぬへき
1948-13 程になしてこそ心よりほかのいのち侍らはいささか思ひしつまらむおりになん
1948-14 おほせ事なくともまいりてけにいと夢のやうなりしこととももかたりきこえ
1949-01 させ侍まほしきといひてけふはうこくへくもあらす大夫もなきてさらにこの御中の
1949-02 ことこまかにしりきこえさせ侍らす物の心しり侍すなからたくひなき御心さし
1949-03 をみたてまつり侍しかは君たちをもなにかはいそきてしもきこえうけ給はら
1949-04 むつゐにはつかうまつるへきあたりにこそと思給へしをいふかひなくかなしき
1949-05 御事ののちはわたくしの御心さしも中中ふかさまさりてなむとかたらふ
1949-06 わさと御車なとおほしめくらしてたてまつれ給へるをむなしくてはいといとおしう
1949-07 なむいまひとところにてもまいり給へといへはししうの君よひいててさは
1949-08 まいり給へといへはましてなに事をかはきこえさせむさても猶この御いみの
1949-09 程にはいかてかいませ給はぬかといへはなやませ給御ひひきにさまさまの御つつしみとも
1949-10 はへめれといみあへさせ給ましき御けしきになんまたかくふかき御ちきり
1949-11 にてはこもらせ給てもこそおはしまさめのこりの日いくはくならす猶ひとところ
1949-12 まいり給へとせむれはししうそありし御さまもいと戀しう思きこゆる
1949-13 にいかならむよにかはみたてまつらむかかるおりにと思ひなしてまいりけるくろき
1949-14 きぬともきてひきつくろひたるかたちもいときよけなりもはたたいまわれ
1950-01 よりかみなる人なきにうちたゆみて色もかへさりけれはうすいろなるをもたせ
1950-02 てまいるおはせましかはこのみちにそしのひていて給はまし人しれす心よせきこえ
1950-03 しものをなと思にもあはれなりみちすからなくなくなむきける宮はこの人
1950-04 まいれりときこしめすもあはれなり女君にはあまりうたてあれはきこえ給はす
1950-05 しむてんにおはしましてわたとのにおろさせたまへりありけんさまなとくはしう
1950-06 とはせ給にひころおほしなけきしさまそのよなき給しさまあやしきまてことすくなに
1950-07 おほおほとのみものし給（て）いみしとおほすことをも人にうちいて給事は
1950-08 かたくものつつみをのみし給ひしけにやの給ひをくことも侍らす夢にもかく心つよき
1950-09 さまにおほしかくらむとはおもひ給へすなむ侍しなとくはしうきこゆれ
1950-10 はましていといみしうさるへきにてもともかくもあらましよりもいかはかりもの
1950-11 を思ひたちてさる水におほほれけんとおほしやるにこれをみつけてせきとめたら
1950-12 ましかはとわきかへる心地し給へとかひなし御文をやきうしなひ給しなとに
1950-13 なとてめをたて侍らさりけんなとよ一よかたらひ給にきこえあかすかの卷數に
1950-14 かきつけ給へりしはは君の返ことなとをきこゆなにはかりのものとも御らんせ
1951-01 さりし人もむつましくあはれにおほさるれは我(か)もとにあれかしあなたももてはなる
1951-02 へくやはとの給へはさてさふらはんにつけてももののみかなしからんを思
1951-03 給へれはいまこの御はてなとすくしてときこゆ又もまいれなとこの人をさへあか
1951-04 すおほすあか月かへるにかの御れうにとてまうけせさせ給けるくしのはこひとよろひ
1951-05 ころもはこひとよろひをくり物にせさせ給さまさまにせさせ給ことはおほかり
1951-06 けれとおとろおとろしかり（ぬ）へけれはたたこの人におほせたる程なりけり
1951-07 なに心もなくまいりてかかることとものあるを人はいかかみんすすろにむつかしき
1951-08 わさかなと思ひわふれといかかはきこえかへさむうこんとふたりしのひて
1951-09 みつつつれつれなるままにこまかにいまめかしうしあつめたることともをみて
1951-10 もいみしうなくさうそくもいとうるはしうしあつめたるものなれはかかる御ふく
1951-11 にこれをはいかてかかくさむなともてわつらひける大將殿も猶いとおほつかなき
1951-12 におほしあまりておはしたりみちの程よりむかしのことともかきあつめ
1951-13 つついかなるちきりにてこのちちみこの御もとにきそめけむかかる思ひかけぬ
1951-14 はてまて思あつかひこのゆかりにつけては物をのみ思よいとたうとくおはせし
1952-01 あたりにほとけをしるへにてのちのよをのみちきりしに心きたなきすゑのたかひめ
1952-02 に思しらするなめりとそおほゆる右近めしいててありけんさまもはかはかしう
1952-03 きかす猶つきせすあさましうはかなけれはいみののこりもすくなくなりぬ
1952-04 すくしてと思ひつれとしつめあへすものしつるなりいかなる心ちにてかはかなく
1952-05 なり給にしととひ給にあま君なともけしきはみてけれはつゐにききあはせ給は
1952-06 んを中中かくしてもことたかひてきこえんにそこなはれぬへしあやしきことのすち
1952-07 にこそそらことも思めくらしつつならひしかかくまめやかなる御けしき
1952-08 にさしむかひきこえてはかねてといはむかくいはむとまうけしことはをもわすれ
1952-09 てわつらはしうおほえけれはありしさまのことともをきこえつあさましうおほしかけ
1952-10 ぬすちなるに物もとはかりの給はすさらにあらしとおほゆるかななへて
1952-11 の人の思いふことをもこよなくことすくなにおほとかなりし人はいかて（か）さる
1952-12 おとろおとろしきことは思たつへきそいかなるさまにこの人々もてなしていふ
1952-13 にかと御心もみたれまさり給へと宮もおほしなけきたるけしきいとしるし
1952-14 ことのありさまもしかつれなしつくりたらむけはひはをのつからみえぬへき
1953-01 をかくおはしましたるにつけてもかなしくいみしきことをかみしもの人つとひ
1953-02 てなきさはくをときき給へは御ともにくしてうせたる人やある猶ありけんさま
1953-03 をたしかにいへわれををろかなりと思てそむき給ことはよもあらしとなむ思ふ
1953-04 いかやうなるたちまちにいひしらぬことありてかさるわさはし給はむわれなむ
1953-05 えしむすましきとの給へはいととしくされはよとわつらはしくてをのつから
1953-06 きこしめしけむもとよりおほすさまならておいいて給へりし人のよをはなれたる
1953-07 御すまいののちはいつとなく物をのみおほすめりしかとたまさかにもかくわたりおはします
1953-08 をまちきこえさせ給にもとよりの御みのけなきをさへなくさめ
1953-09 給つつ心のとかなるさまにてときときもみたてまつらせ給へきやうにはいつしか
1953-10 とのみことにいててはの給はねとおほしわたるめりしをその御ほいかなふへき
1953-11 さまにうけ給はる事とも侍しにかくてさふらふ人とももうれしきことに思たまへ
1953-12 いそきかのつくは山もからうして心ゆきたるけしきにてわたらせ給はんこと
1953-13 をいとなみ思給へしに心えぬ御せうそこ侍けるにこのとのゐつかふまつるものとも
1953-14 も女はうたちらうかはしかなりなといましめおほせらるることなと申て
1954-01 ものの心えすあらあらしきはゐ中人とものあやしきさまにとりなしきこゆることとも
1954-02 侍しをそののちひさしう御せうそこなとも侍らさりしに心うき身なりと
1954-03 のみいはけなかりし程よりおもひしるを人かすにいかてみなさんと（のみ）よろつに
1954-04 思ひあつかひ給はは君の中中なることの人わらはれになりはててはいかにおもひなけか
1954-05 れんなとおもむけてなんつねになけき給しそのすちよりほかになにことを
1954-06 かとおもひたまへよる方も侍らすなむおになとのかくしきこゆともいささかのこる
1954-07 ところも侍（な）る物をとてなくさまもいみしけれはいかなることにかとまきれつる
1954-08 御心もうせてせきあへ給はすわれはこころに身をもまかせすけむせうなるさま
1954-09 にもてなされたるありさまなれはおほつかなしとおもふおりもいまちかくて
1954-10 人の心をくましくめやすきさまにもてなしてゆくすゑなかくをと思のとめつつ
1954-11 すくしつるををろかにみなしたまひけんこそ中中わくるかたありけるとおほゆれ
1954-12 いまはかくたにいはしとおもへとまた人のきかはこそとらめ宮の御ことよいつ
1954-13 よりありそめけんさやうなるにつけてやいと（かたはに）人の心をまとはし給宮
1954-14 なれはつねにあひみたてまつらぬなけきに身をもうしなひ給へるとなむおもふ
1955-01 なをいへわれにはさらに（な）かくしそとの給へはたしかにこそはきき給てけれと
1955-02 いといとおしくていと心うきことをきこしめしけるにこそは侍なれ右近もさふらは
1955-03 ぬおりは侍らぬものをとなかめやすらひてをのつからきこしめしけんこの
1955-04 宮のうへの御かたにしのひてわたらせ給へりしをあさましく思ひかけぬほとに
1955-05 いりおはしたりしかといみしきことをきこえさせたまひていてさせ給にきそれにおち
1955-06 給てかのあやしく侍しところにはわたらせ給へりしなりそののちをとにもきこえ
1955-07 しとおほしてやみにしをいかてかきかせ給けんたたこのきさらきはかりより
1955-08 をとつれきこえ給へし御ふみはいとたひたひ侍しかと御らんしいるることも
1955-09 侍らさりきいとかたしけなくうたてあるやうになとそ右近なとそきこえさせしか
1955-10 はひとたひふたたひやきこえさせ給けむそれよりほかの事はみ給へすときこえさす
1955-11 かうそいはむかししゐてとはむもいとおしくてつくつくとうちなかめつつ
1955-12 宮をめつらしくあはれとおもひきこえてもわかかたをさすかにをろかにおもは
1955-13 さりけるほとにいとあきらむるところなくはかなけなりし心にてこの水のちかき
1955-14 をたよりにて思よるなりけんかしわかここにさしはなちすゑさらましかはいみしく
1956-01 うきよにふともいかてかかならすふかきたにをももとめいてましといみしう
1956-02 うき水のちきりかなとこのかはのうとましうおほさるることいとふかしとしころ
1956-03 あはれと思そめたりしかたにてあらき山路をゆきかへりしもいまはまた
1956-04 心うくてこのさとの名をたにえきくましき心地し給宮のうへののたまひはしめ
1956-05 しひとかたとつけそめたりしさへゆゆしうたたわかあやまちにうしなひつる人
1956-06 なりと思もてゆくにはははのなをかろひたるほとにてのちのうしろみもいとあやしく
1956-07 ことそきてしなしけるなめりと心ゆかす思つるをくはしうきき給になむ
1956-08 いかに思らむさはかりの人のこにてはいとめてたかりし人をしのひたる事はかならすしも
1956-09 えしらてわかゆかりにいかなることのありける（ならむとそおもふなる
1956-10 らむかしなとよろつにいとおしくおほす-ナシ）けからひといふことはあるましけれ
1956-11 と御ともの人めもあれはのほり給はて御くるまのしちをめしてつまとのまへに
1956-12 そゐたまへりけるもみくるしけれはいとしけきこのしたにこけをおましにてとはかり
1956-13 ゐ給へりいまはここをきてみむことも心うかるへしとのみみ（め）くらしたまひ
1956-14 て
1957-01 われも又うきふるさとをあれはててたれやとりきのかけをしのはむあさり
1957-02 はいまはりしなりけりめしてこの法事のことをきてさせ給念仏の僧のかすそへなと
1957-03 せさせ給つみいとふかかなるわさとおほせはかろむへきことをそすへき七日七日
1957-04 に經佛くやうすへきよしなとこまかにの給ていとくらうなりぬるにかへり
1957-05 たまふにもあらましかはこよひかへらましやはとのみなんあま君にせうそこせさせ給へ
1957-06 れといともいともゆゆしき身をのみおもひ給へしつみていととものも思給へられ
1957-07 すほれ侍てなむうつふし伏て侍ときこえていてこねはしゐてもたちより給は
1957-08 すみちすからとくむろとり給はすなりにけることくやしう水のをとのきこゆる
1957-09 かきりは心のみさはき給てからをたにたつねすあさましくてもやみぬるかな
1957-10 いかなるさまにていつれのそこのうつせにましりにけむなとやるかたなくおほす
1957-11 かのはは君は京にこうむへきむすめのことによりつつしみさはけはれいのいゑ
1957-12 にもえいかすすすろなるたひゐのみして思なくさむおりもなきにまたこれもいかなら
1957-13 むとおもへとたいらかにうみてけりゆゆしけれはえよらすのこりの人々
1957-14 のうへもおほえすほれまとひてすくすに大將殿より御つかひしのひてありものも
1958-01 おほえぬ心ちにもいとうれしくあはれなりあさましきことはまつきこえむと思
1958-02 給へしを心ものとまらすめもくらき心地してまいていかなるやみにかまとはれ
1958-03 給らんとそのほとをすくしつるにはかなくてひころもへにけることをなんよの
1958-04 つねなさもいととおもひのとめむかたなくのみ侍るを思ひのほかにもなからへ
1958-05 はすきにしなこりとはかならすさるへきことにもたつね給へなとこまかにかき
1958-06 給て御つかひにはかのおほくらの大夫をそ給へりける心のとかによろつを思つつ
1958-07 としころにさへなりにけるほとかならすしも心さしあるやうにはみ給はさり
1958-08 けむされといまよりのちなにことにつけてもかならすわすれきこえしまたさやうに
1958-09 を人しれす思をき給へをさなき人とももあなるをおほやけにつかうまつら
1958-10 むにもかならすうしろみ思へくなむなとこと葉にもの給へりいたくしもいむましき
1958-11 けからひなれはふかうしもふれ侍らすなといひなしてせめてよひすゑたり
1958-12 御返なくなくかくいみしきことにしなれ侍らぬいのちを心うくおもふ給へなけき
1958-13 侍にかかるおほせ事み侍へかりけるにやとなんとしころはこころほそきありさま
1958-14 をみ給へなからそれはかすならぬ身のをこたりに思給へなしつつかたしけなき
1959-01 御ひとことをゆくすゑなかくたのみきこえ侍しにいふかひなくみたまへなし
1959-02 てはさとのちきりもいと心うくかなしくなんさまさまにうれしきおほせことに
1959-03 いのちのひ侍りていましはしなからへ侍らはなをたのみきこえ侍へきにこそと
1959-04 思給ふるにつけてもめのまへのなみたにくれてえきこえさせやらすなむなとかき
1959-05 たり御つかひになへてのろくなとはみくるしきほとなりあかぬ心ちもすへけれ
1959-06 はかの君にたてまつらむと心さしてもたりけるよきはむさいのおひたちのおかしき
1959-07 なとふくろにいれて車にのるほとこれはむかしの人の御心さしなりとて
1959-08 をくらせてけりとのに御らんせさすれはいとすそろなるわさかなとの給ことは
1959-09 には身つからあひ侍りたうひていみしくなくなくよろつの事のたまひてをさなき
1959-10 ものとものことまておほせられたるかいともかしこきにまたかすならぬほと
1959-11 はなかなかいとはつかしう人になにゆへなとはしらせ侍らてあやしきさまとも
1959-12 をもみなまいらせ侍りてさふらはせんとなむものし侍つるときこゆけにことなる
1959-13 ことなきゆかりむつひにそあるへけれとみかとにもさはかりの人のむすめたてまつら
1959-14 すやはあるそれにさるへきにて時めかしおほさんは人のそしるへきこと
1960-01 かはたた人はたあやしき女よにふりにたるなとをもちゐるたくひおほかりかの
1960-02 かみのむすめなりけりと人のいひなさんにもわかもてなしのそれにけかるへく
1960-03 ありそめたらはこそあらめひとりのこをいたつらになしておもふらんおやの
1960-04 心に猶このゆかりこそおもたたしかりけれと思しるはかりよういはかならすみす
1960-05 へきこととおほすかしこにはひたちのかみたちなからきておりしもかく（て）ゐ
1960-06 給へることなむとはらたつとしころいつくになむおはするなとありのままにも
1960-07 しらせさりけれははかなきさまにておはすらむと思ひいひけるを京になとむかへ
1960-08 たまひてんのちめいほくありてなとしらせむとおもひけるほとにかかれはいまはかくさ
1960-09 んもあひなくてありしさまなくなくかたる大將殿の御ふみもとりいててみすれ
1960-10 はよき人かしこくしてひなひものめてする人にておとろきをくしてうちかへしうちかへし
1960-11 いとめてたき御さいはいをすててうせ給にける人かなをのれもとの人
1960-12 にてまいりつかうまつれともちかくめしつかふこともなくいとけたかくおもはする
1960-13 とのなりわかきものとものことおほせられたるはたのもしきことになんなと
1960-14 よろこふをみるにもましておはせましかはと思にふしまろひてなかるかみも
1961-01 いまなんうちなきけるさるはおはせしよには中中かかるたくひの人しもたつね
1961-02 給へきにしもあらすかしわかあやまちにてうしなひつるもいとおしなくさめ
1961-03 むとおほすよりなむ人のそしりねんころにたつねしとおほしける四十九日のわさ
1961-04 なとせさせ給にもいかなりけんことにかはとおほせはとてもかくてもつみう
1961-05 ましきことなれはいとしのひてかのりしのてらにてせさせ給ける六十そうのふせ
1961-06 なとおほきにをきてられたりはは君もきゐてことともそへたり宮よりは右近
1961-07 かもとにしろかねのつほにこかねいれて給へり人みとかむはかりおほきなるわさ
1961-08 はえし給はす右近か心さしにてしたりけれは心しらぬ人はいかてかくなむなと
1961-09 いひけるとのの人ともむつましきかきりあまた給へりあやしくをともせさり
1961-10 つる人のはてをかくあつかはせ給たれならむといまおとろく人のみおほかるに
1961-11 ひたちのかみきてあるしかりおるなんあやしと人々みける少將のこうませていかめしき
1961-12 ことせさせむとまとひいゑのうちになきものはすくなくもろこししらき
1961-13 のかさりをもしつへきにかきりあれはいとあやしかりけりこの御法事しのひ
1961-14 たるやうにおほしたれとけはひこよなきをみるにいきたらましかはわか身
1962-01 をならふへくもあらぬ人の御すくせなりけりと思ふ宮のうへもす經し給（ひ）七そう
1962-02 のまへの事せさせ給けりいまなむかかる人もたまへりけりとみかとまてもきこしめし
1962-03 てをろかにもあらさりける人を宮にかしこまりきこえてかくしをきたまへり
1962-04 けるをいとおしとおほしけるふたりの人の御心のうちふりすかなしくあやにくなり
1962-05 し御思ひのさかりにかきたえてはいといみしけれはあたなる御心はなくさむ
1962-06 や（な）と心み給こともやうやうありけりかのとのはかくとりもちてなにやかや
1962-07 とおほしてのこりのひとをはくくませ給ても猶いふかひなき事をわすれかたく
1962-08 おほすきさ（い）の宮の御きやうふくのほとはなをかくておはしますに二の宮なむ
1962-09 しきふきやうになり給にけるをもをもしうてつねにしもまいり給はすこの宮
1962-10 はさうさうしくものあはれなるままに一品の宮の御かたをなくさめところにし
1962-11 給よき人のかたちをもえまほにみ給はぬのこりおほかり大將殿のからうしていと
1962-12 しのひてかたらはせ給こさい將の君といふ人のかたちなともきよけなり心はせある
1962-13 かたの人とおほされたりおなしことひわをかきならすつまをとはちをとも人
1962-14 にはまさりふみをかきものうちいひたるもよしあるふしをなむそへたりけるこの
1963-01 宮もとしころいといたき物にし給てれいのいひやふり給へとなとかさしもめつらしけなく
1963-02 はあらむと心つよくねたきさまなるをまめ人はすこし人よりことなり
1963-03 とおほすになんありけるかくものおほしたるもみしりけれはしのひあまり
1963-04 てきこえたり
1963-05 あはれしるこころは人にをくれねとかすならぬ身にきえつつそふるかへたら
1963-06 はとゆへあるかみにかきたりものあはれなるゆふ暮しめやかなるほとをいと
1963-07 よくをしはかりていひたるもにくからす
1963-08 つねなしとここらよをみるうき身たに人のしるまてなけきやはするこのよろこひ
1963-09 あはれなりしおりからもいととなむなといひてたちよりたまへりいとはつかしけに
1963-10 ものものしけにてなへてかやうになともならし給はぬ人からもやむことなき
1963-11 にいとものはかなきすまゐなりかしつほねなといひてせはくほとなき
1963-12 やりとくちによりゐ給へるかたはらいたくおほゆれとさすかにあまりひけして
1963-13 もあらていとよきほとにものなともきこゆみえし人よりもこれは心にくきけそひ
1963-14 てもあるかななとてかくいてたちけんさるものにて我もおいたらましものを
1964-01 とおほす人しれぬすちはかけてもみせ給はすはちすの花のさかりに御はかうせ
1964-02 らる六条(の)院の御ためむらさきのうへなとみなおほしわけつつ御經佛なとくやうせ
1964-03 させ給ていかめしくたうとくなんありける五巻の日なとはいみしきみものなり
1964-04 けれはこなたかなた女はうにつきつつまいりてものみる人おほかりけりいつか
1964-05 といふあささにはててみたうのかさりとりさけ御しつらひあらたむるにきたのひさし
1964-06 もさうしともはなちたりしかはみないりたちてつくろふほとにしのわた殿
1964-07 にひめ宮おはしましけりものききこうして女はうもをのをのつほねにありつつ
1964-08 御まへはいと人すくななるゆふ暮に大將殿なをしきかへてけふまかつるそう
1964-09 の中にかならすの給へきことあるによりつりとののかたにおはしたるにみなまかて
1964-10 ぬれはゐけのかたにすすみ給て人すくななるにかく（いふ）さい將の君なとかりそめに
1964-11 き丁なとはかりたててうちやすむうへつほねにしたりここにやあらむ
1964-12 人のきぬのをとすとおほしてめたうのかたのさうしのほそくあきたるよりやをら
1964-13 み給へはれいさやうの人のゐたるけはひにはにすはれはれしくしつらひたれ
1964-14 は中中き丁とものたてちかへたるあはひよりみとをされてあらはなりひをもののふた
1965-01 にをきてわるとてもてさはく人々おとな三人はかりわらはといたりからきぬ
1965-02 もかさみもきすみなうちとけたれはおまへとはみ給はぬにしろきうすもの
1965-03 の御そきかへ給へる人のてにひをもちなからかくあらそふをすこしゑみ給へ
1965-04 る御かほいはむかたなくうつくしけなりいとあつさのたへかたき日なれはこちたき
1965-05 御くしのくるしうおほさるるにやあらむすこしこなたになひかしてひかれ
1965-06 たるほとたとへんものなしここらよき人をみあつむれとにるへくもあらさりけり
1965-07 とおほゆ御まへなる人はまことにつちなとの心ちそするを思ひしつめてみれ
1965-08 はきなるすすしのひとへうすいろなるもきたる人のあふきうちつかひたるなと
1965-09 よういあらむはやとふとみえてなかなかものあつかひにいとくるしけなりたた
1965-10 さなからみ給へかしとてわらひたるまみあひ行つきわたりこゑきくにそこの心さし
1965-11 の人とはしりぬる心つよくわりて手ことにもたりかしらにうちをきむねにさしあて
1965-12 なとさまあしうする人もあるへしこと人はかみにつつみて御まへにもかくて
1965-13 まいらせむしつくむつかしといへはいとうつくしき御てをさしやり給てのこはせ給いなもたら
1965-14 ししつくむつかしとの給御こゑいとほのかにきくもかきりもなくうれしまたいと
1966-01 ちいさくおはしまししほとにわれもものの心もしらてみたてまつりしときめてた
1966-02 のちこの御さまやとみたてまつりしそののちたえてこの御けはひをたにきか
1966-03 さりつるものをいかなる神仏のかかるおりみせ給へるならむれいのやすからす
1966-04 ものおもはせむとするにやあらむとかつはしつ心なくてまもり（たち）たるほと
1966-05 にこなたのたいのきたおもてにすみけるけらう女はうのこのさうしはとみのこと
1966-06 にてあけなからおりにけるをおもひいてて人もこそみつけてさはかるれとおもひ
1966-07 けれはまとひいるこのなをしすかたをみつくるにたれならんと心さはきて
1966-08 をのかさまみえんこともしらすすのこよりたたきにくれはふとたちさりてたれ
1966-09 ともみえしすきすきしきやうなりとおもひてかくれ給ひぬこのおもとはいみしき
1966-10 わさかなみき丁をさへあらはにひきなしてけるよ右の大殿の君たちならんうとき
1966-11 人はたここまてくへきにもあらすもののきこゑあらはたれかさうしあけたり
1966-12 しとかならすいてきなんひとへもはかまもすすしなめりとみえつる人の御すかた
1966-13 なれはえ人もききつけ給はぬならんかしと思こうしてをりかの人はやうやう
1966-14 ひしりになりし心をひとふしたかへそめてさまさまなるもの思身ともなる
1967-01 かなそのかみよをそむきなましかはいまはふかき山にすみはててかく心みたら
1967-02 ましや（は）なとおほしつつくるもやすからすなとてとしころみたてまつらはやと
1967-03 思つらんなかなかくるしうかひなかるへきはさにこそとおもふつとめておき給へ
1967-04 る女宮の御かたちいとおかしけなめるはこれよりかならすまさるへきことかは
1967-05 とみえなからさらにに給はすこそありけれあさましきまてあてにえもいはさり
1967-06 し御さまかなかたへは思なしかおりからかとおほしていとあつしやこれより
1967-07 うすき御そたてまつれをんなはれいならぬものきたるこそ時時につけておかしけれ
1967-08 とてあなたにまいりて大貳にうす物のひとへの御そぬひてまいれといへ
1967-09 との給御まへなる人はこの御かたちのいみしきさかりにおはしますをもてはやし
1967-10 きこえ給とおかしうおもへりれいのねんすし給わか御かたにおはしましなと
1967-11 してひるつかたわたり給へれはの給つる御そみき丁にうちかけたりなそこはたてまつら
1967-12 ぬ人おほくみるときなむすきたるものきるははうそくにおほゆるたたいま
1967-13 はあえ侍なんとててつからきせたてまつり給御はかまもきのふのおなしくれなゐ
1967-14 なり御くしのおおさすそなとはをとり給はねとなをさまさまなるにやにる
1968-01 へくもあらすひめして人々にわらせ給とりてひとつたてまつりなとし給心のうち
1968-02 もおかしゑにかきてこひしき人みる人はなくやはありけるましてこれはなくさめ
1968-03 むににけなからぬおほむほとそかしとおもへときのふかやうにてわれましりゐ
1968-04 心にまかせてみたてまつらましかはとおほゆるに心にもあらすうちなけか
1968-05 れぬ一品(の)宮に御ふみはたてまつり給やときこえ給へはうちにありし時うへの
1968-06 さの給しかはきこえしかとひさしうさもあらすとの給たた人にならせ給にたり
1968-07 とてかれよりもきこえさせ給はぬにこそは心うかなれいまおほ宮の御まへにて
1968-08 うらみきこえさせ給とけいせんとの給いかかうらみきこえんうたてとの給へは
1968-09 けすになりにたりとておほしおとすなめりとみれはおとろかしきこえぬとこそ
1968-10 はきこえめとの給その日はくらしてまたのあしたにおほ宮にまいり給れいの宮
1968-11 もおはしけり丁子にふかくそめたるうす物のひとへをこまやかなるなをしにき
1968-12 給へるいとこのましけなる女の御身なかのめてたかりしにもをとらすしろくきよらに
1968-13 て猶ありしよりはおもやせ給へる（いと）みるかひありおほえ給へりとみる
1968-14 にもまつ戀しきをいとあるましきこととしつむるそたたなりしよりはくるしき
1969-01 ゑをいとおほくもたせてまいり給へりける女はうしてあなたにまいらせ給てわたら
1969-02 せ給ぬ大將もちかくまいりより給て御はかうのたうとく侍しこといにしへ
1969-03 の御ことすこしきこえつつのこりたるゑみ給ついてにこのさとにものし給みこ
1969-04 の雲のうへはなれて思くし給へるこそいとおしうみ給ふれひめ宮の御かたより
1969-05 御せうそこも侍らぬをかくしなさたまり給へるにおほしすてさせ給へるやうに
1969-06 おもひて心ゆかぬけしきのみえ侍（る）をかやうのものときとき物せさせたまはなむなにかし
1969-07 かおろしてもてまからんはたみるかひも侍らしかしとの給へはあやしく
1969-08 なとてかすてきこえ給はむうちにてはちかかりしにつきてときとき（も）きこえ給
1969-09 めりしをところところになり給しおりにとたえ給へるにこそあらめいまそそのかし
1969-10 きこえんそれよりもなとかはときこえ給かれよりはいかてかはもとよりかすまへ
1969-11 させ給はさらむをもかくしたしくてさふらふへきゆかりによせておほしめしかすまへ
1969-12 させ給へらん（を）こそうれしくは侍へけれましてさもきこえなれ給にけむ
1969-13 をいますてさせ給はんはからきことに侍りとけいせさせ給をすきはみたるけしき
1969-14 あるかとはおほしかけさりけりたちいててひとよの心さしの人にもあはんありし
1970-01 わたとのもなくさめにみむかしとおほして御まへをあゆみわたりてにしさま
1970-02 におはするをみすのうちの人は心ことによういすけにいとさまよくかきりなき
1970-03 もてなしにてわたとののかたはひたりのおほとのの君たちなといてものいふ
1970-04 けはひすれはつまとのまへにゐ給ておほかたにはまいりなからこの御かたのけさむ
1970-05 にいることのかたく侍れはいとおほえなくおきなひはてたたる心ちし侍を
1970-06 いまよりはとおもひおこし侍てなんありつかすわかき人ともそおもふらんかし
1970-07 とおひの君たちのかたをみやり給いまよりならはせ給こそけにわかくならせ給
1970-08 ならめなとはかなきことをいふ人々のけはひもあやしうみやひかにおかしき御かた
1970-09 のありさまにそあるその事となけれとよの中の物かたりなとしつつしめやかに
1970-10 れいよりはゐ給へりひめ宮はあなたにわたらせ給にけり大宮大將のそなた
1970-11 にまいりつるはととひ給御ともにまいりたる大納言の君こさい將の君にものの給は
1970-12 んとにこそははへめりつれときこゆるにれいまめ人のさすかに人に心ととめ
1970-13 て物かたりするこそ心ちをくれたらむ人はくるしけれ心の程もみゆらんかし
1970-14 宰相なとはいとうしろやすしとの給ひて御はらからなれとこの君をは猶はつかしく
1971-01 人もよういなくてみえさらなむ（かし）とおほいたり人よりは心よせ給てつほね
1971-02 なとにたちより給へし物かたりこまやかにし給てよふけていてなとし給おりおり
1971-03 も侍れとれいのめなれたるすちには侍らぬにや宮をこそいとなさけなくおはします
1971-04 と思ひて御いらへをたにきこえす侍めれかたしけなきことといひてわらへ
1971-05 は宮もわらはせ給ていとみくるしき御さまを思ひしるこそはおかしけれいかてかかる
1971-06 御くせやめたてまつらんはつかしやこの人々もとの給ふいとあやしきこと
1971-07 をこそきき侍しかこの大將のなくなし給てし人は宮の御二条のきたのかたの御おとうと
1971-08 なりけりことはらなるへしひたちのさきのかみなにかしかめはをはとも
1971-09 ははともいひ侍なるはいかなるにかその女君に宮こそいとしのひておはしまし
1971-10 けれ大將とのやききつけ給たりけむにはかにむかへ給はんとてまもりめそへ
1971-11 なとことことしくし給けるほとに宮もいとしのひておはしましなからえいらせ
1971-12 給はすあやしきさまに御むまなからたたせ給つつそかへらせ給ける女も宮を思
1971-13 きこえさせけるにやにはかにきえうせにけるをみなけたるなめりとてこそめのと
1971-14 なとやうの人ともはなきまとひ侍けれときこゆ宮もいとあさましとおほして
1972-01 たれかさることはいふとよいとおしく心うきことかなさはかりめつらかならむ
1972-02 ことはをのつからきこえありぬへきを大將もさやうにはゐはてよの中のはかなく
1972-03 いみしきことかくうちの宮のそうのいのちみしかかりけることをこそいみしう
1972-04 かなしと思ての給しかとの給いさやけすはたしかならぬことをもいひ侍ものを
1972-05 と思給ふれとかしこに侍けるしもわらはのたたこのころさい將かさとにいてまうてき
1972-06 てたしかかなるやうにこそいひ侍けれかくあやしうてうせ給つること
1972-07 人にきかせしおとろおとろしくをそきやうなりとていみしくかくしける事ともと
1972-08 てさてくはしくはきかせたてまつらぬにやありけんときこゆれはさらにかかる
1972-09 こと又まねふなといはせよかかるすちに御身をももてそこなひ人にかるく心つきなき
1972-10 物に思はれぬへきなめりといみしうおほいたりそののちひめ宮の御かた
1972-11 より二の宮に御せうそこありけり御てなとのいみしううつくしけなるをみるに
1972-12 もいとうれしくかくてこそとくみるへかりけれとおほすあまたおかしきゑとも
1972-13 おほく大宮もたてまつらせ給へり大將殿うちまさりておかしきともあつめてまいらせ
1972-14 給せりかはの大將のとを君の女一の宮思かけたる秋のゆふ暮に思わひて
1973-01 いてていきたるすかたおかしうかきたるをいとよく思にせらるかしかはかりおほしなけく
1973-02 人のあらましかはと思ふ身そくちおしき
1973-03 荻の葉に露ふきむすふ秋風もゆふへそわきて身にはしみけるとかきてもそへ
1973-04 まほしくおほせとさやうなる露はかりのけしきにてももりたらはいとわつらはしけなる
1973-05 よなれははかなきこともえほのめかしいつましかくよろつになにやかや
1973-06 とものを思のはてはむかしの人のものし給はましかはいかにもいかにもほかさまに
1973-07 こころをわけましやときのみかとの御むすめを給ともえたてまつらさらましまた
1973-08 さ思人ありときこしめしなからはかかることもなからましをなを心うくわか心
1973-09 みたり給けるはしひめかなと思ひあまりては又みやのうへにとりかかりてこひしう
1973-10 もつらくもわりなきことそおこかましきまてくやしきこれに思わひてさしつき
1973-11 にはあさましくてうせにし人のいと心をさなくととこほるところなかり
1973-12 けるかろかろしさ（を）はおもひなからさすかにいみしとものをおもひいりけんほと
1973-13 わかけしきれいならすと心のおにになけきしつみてゐたりけんありさまをきき
1973-14 給しもおもひいてられつつをもりかなるかたならてたた心やすくらうたきかたらひ人
1974-01 にてあらせむと思ひしにはいとらうたかりし人をおもひもていけは宮
1974-02 をもうらみきこえし女をもうしとおもはしたたわかありさまのよつかぬをこたり
1974-03 そなとなかめいり給ときときおほかり心のとかにさまよくおはする人たにかかる
1974-04 みちには身もくるしき事をのつからましるを宮はましてなくさめかねつつ
1974-05 かのかたみにあかぬかなしさをもの給いつへき人さへなきをたいの御かたはかり
1974-06 こそはあはれなとの給へとふかくもみなれ給はさりけるうちつけのむつひ
1974-07 なれはいとふかくしもいかてかはあらむまたおほすままにこひしやいみしやなと
1974-08 の給はんにはかたはらいたけれはかしこにありしししうをそれいのむかへさせ
1974-09 給けるみな人ともはいきちりてめのととこの人ふたりなんとりわきておほし
1974-10 たりしもわすれかたくてししうはよそ人なれとなをかたらひてありふるによつか
1974-11 ぬかはのをともうれしきせもやあるとたのみしほとこそなくさめけれ心うく
1974-12 いみしくものおそろしくのみおほえて京になんあやしきところにこのころきて
1974-13 ゐたりけるたつね給ひてかくてさふらへとの給へは御心はさるものにて人々
1974-14 のいはむこともさるすちの事ましりぬるあたりはききにくきこともあらむと
1975-01 おもへはうけひききこえすきさいの宮にまいらむとなんおもむけたれはいとよかなり
1975-02 さて人しれすおほしつかはんとの給はせけり心ほそくよるへなきもなくさむ
1975-03 やとてしるたよりもとめまいりぬきたなけなくてよろしきけらうなりと
1975-04 ゆるして人もそしらす大將とのもつねにまいり給をみるたひことにもののみ
1975-05 あはれなりいとやむことなきもののひめ君のみおほくまいりつとひたるみやと人も
1975-06 いふをやうやうめととめてみれとみたてまつりし人ににたるはなかりけりと
1975-07 思ありくこのはるうせ給ぬるしきふきやうの宮の御むすめをままははのきたのかた
1975-08 （こと）にあひおもはてせうとのむまのかみにて人からもことなることなき
1975-09 心かけたるをいとおしうなとも思たらてさるへきさまになんちきるときこしめす
1975-10 たよりありていとおしうちち宮のいみしくかしつき給ける女君をいたつらなる
1975-11 やうにもてなさんことなとの給はせけれはいと心ほそくのみおもひなけき
1975-12 給ありさまにてなつかしうかくたつねの給はするをなと御せうとのししうもいひ
1975-13 てこのころむかへとらせ給てけりひめ宮の御くにていとこよなからぬ御ほと
1975-14 の人なれはやむ事なく心ことにてさふらひ給かきりあれは宮の君なとうちいひ
1976-01 てもはかりひきかけ給そいとあはれなりける兵部卿(の)宮この君はかりやこひしき
1976-02 人に思よそへつへきさましたらむちちみこははらからそかしなとれいの御心は
1976-03 人をこひ給につけても人ゆかしき御くせやまていつしかと御心かけ給てけり大將
1976-04 もとかしきまてもあるわさかなきのふけふといふはかり春宮にやなとおほし
1976-05 我にもけしきはませ給きかしかくはかなきよのおとろへをみ侍るには水のそこに
1976-06 身をしつめてももとかしからぬわさにこそなとおもひつつ人よりは心よせきこえ
1976-07 給へりこの院におはしますをはうちよりもひろくおもしろくすみよきものに
1976-08 してつねにしもさふらはぬとももみなうちとけすみつつはるはるとおほかるたいとも
1976-09 らうわたとのにみちたり左(の)大臣とのむかしの御けはひにもおとらすすへて
1976-10 かきりもなくいとなみつかうまつり給いかめしうなりにける御そうなれはなかなか
1976-11 いにしへよりもいまめかしきことはまさりてさへなむありけるこの宮れいの
1976-12 御こころならは月ころのほとにいかなるすきことともをしいて給はましこよなく
1976-13 しつまり給て人めにすこしおひなをりしたまふかなとみゆるをこのころそ又宮の君
1976-14 に本上あらはれてかかつらひありき給けるすすしくなりぬとて宮うちにまいら
1977-01 せ給なんとすれはあきのさかり紅葉のころをみさらんこそなとわかき人々は
1977-02 くちおしかりてみなまいりつとひたるころなり水になれ月をめてて御あそひたえ
1977-03 すつねよりもいまめかしけれはこの宮そかかるすちはいとこよなくもてはやし
1977-04 給朝夕にめなれてもなをいまみむはなのさまし給へるに大將の君はいと
1977-05 さしもいりたちなとし給はぬほとにてはつかしう心ゆるひなきものにみな思たり
1977-06 れいのふたところまいり給ておまへにおはするほとにかのししうはものより
1977-07 のそきたてまつるにいつかたにもいつかたにもよりてめてたき御すくせみえたるさまに
1977-08 てよにそおはせましかしあさましくはかなく心うかりける御心かななと人には
1977-09 そのわたりの事かけてしりかほにもいはぬことなれは心ひとつにあかすむねいたく
1977-10 思宮（は）うちの御物かたりなとこまやかにきこえさせ給へはいまひとところ
1977-11 はたちいて給みつけられたてまつらししはし御はてをもすくさす心あさしとみえ
1977-12 たてまつらしとおもへはかくれぬひんかしのわたとのにあきあひたるとくち
1977-13 に人々あまたゐてものかたりなとする所におはしてなにかしをそ女はうはむつまし
1977-14 とおほすへきや女たにかく心やすくはよもあらしかしさすかにさるへからん
1978-01 ことをしへきこえぬへくもありやうやうみしり給へかめれはいとなんうれしき
1978-02 との給へはいといらへにくくのみおもふなかに弁のをもととてなれたるおとな
1978-03 そもむつましく思きこゆへきゆへなき人のはちきこえ侍らぬにやものはさこそ
1978-04 はなかなか侍めれかならすそのゆへたつねてうちとけ御らんせらるるにしも侍ら
1978-05 ねとかはかりおもなくつくりそめてけるみにおはささらんもかたはらいたく
1978-06 てなむときこゆれははつへきゆへあらしと思さため給てけるこそくちおしけれ
1978-07 なとの給つつみれはからきぬはぬきすへしをしやりうちとけて手習しけるなる
1978-08 へしすすりのふたにすへて心もとなきはなのすゑ（た）おりてもちあそひけるとみゆ
1978-09 かたへはき丁のあるにすへりかくれあるはうちそむきおしあけたるとのかた
1978-10 にまきらはしつつゐたるかしらつきとももおかしとみわたし給（て）すすりひきよせ
1978-11 て
1978-12 女郎花みたるる野邊にましるとも露のあたなをわれにかけめや心やすくは
1978-13 おほさてとたたこのさうしにうしろしたる人にみせ給へはうちみし（ろき）なとも
1978-14 せすのとやかにいととく
1979-01 花といへはなこそあたなれをみなへしなへての露にみたれやはするとかき
1979-02 たるてたたかたそはなれとよしつきておほかためやすけなれはたれならむとみ給
1979-03 いままうのほりけるみちにふたけられてととこほりいたるなるへしとみゆ弁のをもと
1979-04 はいとけさやかなるおきなことにくく侍りとて
1979-05 旅ねして猶心みよをみなへしさかりの色にうつりうつらすさてのちさため
1979-06 きこえさせんといへは
1979-07 宿かさはひとよはねなん大方の花にうつらぬこころなりともとあれはなにか
1979-08 はつかしめさせ給おほかたののへのさかしらをこそきこえさすれといふはかなき
1979-09 ことをたたすこしのたまふも人はのこりきかまほしくのみ思きこえたり心なし
1979-10 みちあけはへりなんよわきてもかの御ものはちのゆへかならすありぬへき
1979-11 おりにそあめるとてたちいて給へはをしなへてかくのこりなからむと思ひやり
1979-12 給こそ心うけれとおもへる人もありひんかしのかうらむにおしかかりてゆふかけ
1979-13 になるままに花のひもとくおまへのくさむらをみわたし給もののみあはれなる
1979-14 になかについてはらわたたゆるは秋の天といふ事をいとしのひやかにすんし
1980-01 つつゐ給へりありつるきぬのをとなひしるきけはひしてもやの御さうしよりとほり
1980-02 てあなたにいるなり宮のあゆみをはしてこれよりあなたにまいりつるはた
1980-03 そととひ給へはかの御かたの中將の君ときこゆなりなをあやしのわさやたれに
1980-04 かとかりそめにもうち思ふ人にやかてかくゆかしけなくきこゆるなさしよといとおしく
1980-05 この宮にはみなめなれてのみおほえたてまつるへかめるもくちおしおりたち
1980-06 てあなかちなる御もてなしに女はさもこそまけたてまつらめわかさもくくちおしう
1980-07 この御ゆかりにはねたく心うくのみあるかないかてこのわたりにもめつらしから
1980-08 む人のれいの心いれてさはき給はんをかたらひとりてわか思ひしやうに
1980-09 やすからすとたにも思はせたてまつらんまことに心はせあらむ人はわかかた
1980-10 にそよるへきやされとかたは物かな人の心はと思ふにつけてたいの御かた
1980-11 のかの御ありさまをはふさはしからぬものに思きこえていとひんなきむつひに
1980-12 なりゆくかおほかたのおほえをはくるしと思なから猶さしはなちかたきものに
1980-13 おほししりたるそありかたくあはれなりけるさやうなる心はせある人ここらの
1980-14 中にあらむやいりたちてふかくみねはしらぬそかしねさめかちにつれつれなる
1981-01 をすこしはすきもならははやなと思ふにいまはなをつきなしれいのにしのわたとの
1981-02 をありしにならひてわさとおはしたるもあやしひめ宮よるはあなたにわたら
1981-03 せ給けれは人々月みるとてこのわた殿にうちとけてものかたりするほとなり
1981-04 けりさうのこといとなつかしうひきすさむつまをとおかしうきこゆおもひかけ
1981-05 ぬによりおはしてなと（かく）ねたましかほにかきならし給との給にみなおとろか
1981-06 るへけれとすこしあけたるすたれうちおろしなともせすおきあかりてにるへき
1981-07 このかみや（は）侍へきといらふるこゑ中將のおもととかいひつるなりけりまろこそ
1981-08 御ははかたのおちなれとはかなきことをの給てれいのあなたにおはしますへか
1981-09 めりななにわさをかこの御さとすみの程にせさせ給なとあちきなくとひ給いつく
1981-10 にてもなにことをかはたたかやうにてこそはすくさせ給めれといふにおかし
1981-11 の御身の程やと思ふにすすろなるなけきのうちわすれてしつるもあやしと思よる
1981-12 人もこそとまきらはしにさしいてたるわこんをたたさなからかきならし給
1981-13 りちのしらへはあやしくおりにあふときくこゑなれはききにくくもあらねとひきはて
1981-14 給はぬをなかなかなりと心いれたる人はきえかへり思ふわかはは宮もおとり
1982-01 給へき人かはきさいはらときこゆるはかりのへたてこそあれみかとみかとのおほしかしつき
1982-02 たるさまことことならさりけるを猶この御あたりはいとことなり
1982-03 けるこそあやしけれあかしのうらは心にくかりける所かななとおもひつつくる
1982-04 事ともにわかすくせはいとやむことなしかしましてならへてもちたてまつらは
1982-05 と思ふそいとかたきや（宮の君は）この西のたいにそ御かたしたりけるわかき人々
1982-06 のけはひあまたして月めてあへりいてあはれこれもまたおなし人そかしと思いて
1982-07 きこえてみこのむかし心よせたまひしものをといひなしてそなたへおはしぬ
1982-08 わらはのおかしきとのゐすかたにて二三人いててありきなとしけりみつけている
1982-09 さまとももかかやかしこれそよのつねと思みなみおもてのすみのまによりてうちこわつくり
1982-10 給へはすこしをとなひたる人いてきたり人しれぬ心よせなときこえさせ
1982-11 侍れは中中みな人きこえさせふるしつらむことをうひうひしきさまに
1982-12 てまねふやうになり侍りまめやかになむことよりほかをもとめられ侍との給へ
1982-13 は君にもいひつたへすさかしたちていとおもほしかけさりし御ありさまにつけ
1982-14 てもこ宮の思きこえさせ給へりしことなと思給へいてられてなむかくのみおりおり
1983-01 きこえさせ給なり御しりうことをもよろこひきこえ給めるといふなみなみ
1983-02 の人めきて心ちなのさまやとものうけれはもとよりおほしすつましきすちより
1983-03 もいまはましてさるへきことにつけてもおもほしたつねんなんうれしかるへき
1983-04 うとうとしう人つてなとにてもてなさせ給ははえこそとの給にけにと思さはき
1983-05 て君をひきゆるかすめれはまつもむかしのとのみなかめらるるにももとよりなと
1983-06 の給すちはまめやかにたのもしうこそはと人つてともなくいひなし給へるこゑ
1983-07 いとわかやかにあい行つきやさしき所そひたりたたなへてのかかるすみかの
1983-08 人とおもははいとおかしかるへきをたたいまはいかてかはかりも人にこゑきかす
1983-09 へきものとならひ給けんとなまうしろめたしかたちもいとなまめかしからむ
1983-10 かしとみまほしきけはひのしたるをこの人そまたれいのかの御心みたるへきつま
1983-11 なめるとおかしうもありかたの世中とも思ひゐ給へりこれこそはかきりなき人
1983-12 のかしつきおほしたて給へるひめ君又かはかりそおほくはあるへきあやしかり
1983-13 けることはさるひしりの御あたりに山のふところよりいてきたる人々のかたほなる
1983-14 はなかりけるこそそこのはかなしやかろかろしやなと思なす人もかやうのうちみる
1984-01 けしきはいみしうこそおかしかりしかとなにことにつけてもたたかのひとつゆかり
1984-02 をそ思ひいて給けるあやしうつらかりけるちきりともをつくつくと
1984-03 思つつけなかめ給ゆふくれかけろふのものはかなけにとひちかふを
1984-04 ありとみて手にはとられすみれは又ゆくゑもしらすきえしかけろふあるかなきか
1984-05 のとれいのひとりこち給（とかや）