53巻 てならひ

畳語、繰り返し文字は文字になおしてあります。


1989-01 そのころよかはになにかしそうつとかいひていとたうとき人すみけりやそちあまり
1989-02 のはは五十はかりのいもうとありけりふるきくわんありてはつせにまうて
1989-03 たりけりむつましうやむことなくおもふてしのあさりをそへて仏經くやうする
1989-04 ことをこなひけりことともおほくしてかへるみちにならさかといふ山こえける
1989-05 程よりこのははのあま君心ちあしうしけれはかくてはいかてかのこりのみちを
1989-06 もおはしつかむともてさはきてうちのわたりにしりたりける人のいゑありける
1989-07 にととめてけふはかりやすめたてまつるになをいたうわつらへはよかはにせうそこし
1989-08 たり山こもりのほいふかくことしはいてしと思けれとかきりのさまなる
1989-09 おやのみちのそらにてなくやならむとおとろきていそき物し給へりおしむへく
1989-10 もあらぬ人さまを身つからもてしのなかにもけむあるしてかちしさはくをいゑあるし
1989-11 ききてみたけさうししけるをいたうおい給へる人のをもくなやみ給ふは
1989-12 いかかとうしろめたけに思いていひけれはさもいふへきことそいとおしう思て
1989-13 いとせはくむつかしうもあれはやうやういてたてまつるへきになかかみふたかり
1989-14 てれいすみ給方はいむへかりけれは故朱雀院の御兩にてうちの院といひし所
1990-01 このわたりならむと思いてて院もりそうつしり給へりけれは一二日やとらんと
1990-02 いひにやり給へりけれははつせになんきのふみなまいりにけるとていとあやしき
1990-03 やともりのおきなをよひてゐてきたりおはしまさははやいたつらなる院のしむ殿
1990-04 にこそ侍めれ物まうての人はつねにそやとり給といへはいとよかなりおほやけ所
1990-05 なれと人もなく心やすきをとてみせにやり給このおきな例もかくやとる
1990-06 人をみならひたりけれはおろそかなるしつらいなとしてきたりまつそうつわたり
1990-07 給いといたくあれておそろしけなる所かなとみ給大とこたち經よめなとの給
1990-08 このはつせにそひたりしあさりとおなしやうなるなにことのあるにかつきつきしき
1990-09 ほとのけらうほうしにひともさせて人もよらぬうしろのかたにいきたりもり
1990-10 かとみゆる木の下をうとましけのわたりやとみいれたるにしろき物のひろこり
1990-11 たるそみゆるかれはなにそと立とまりてひをあかくなしてみれはもののゐたる
1990-12 すかたなりきつねのへんくゑしたるにくしみあらはさむとてひとりは今すこし
1990-13 あゆみよるいまひとりはあなようなよからぬものならむといひてさやうの物
1990-14 しそくへきいんをつくりつつさすかに猶まもるかしらのかみあらはふとりぬ
1991-01 へき心ちするに此ひともしたる大とこははかりもなくあふなきさまにてちかく
1991-02 よりてそのさまをみれはかみはなかくつやつやとしておほきなる木のいとあらあらしき
1991-03 によりゐていみしうなくめつらしきことにも侍かなそうつの御坊に御らむせ
1991-04 させたてまつらはやといへはけにあやしきことなりとて一人はまうてて
1991-05 かかる事なむと申すきつねの人にへんけすとはむかしよりきけとまたみぬ
1991-06 もの也とてわさとおりておはすかのわたり給はんとする事によりてけすともみな
1991-07 はかはかしきはみつし所なとあるへかしきことともをかかるわたりにはいそく
1991-08 物なりけれはゐしつまりなとしたるにたた四五人してここなる物をみるにかはる
1991-09 こともなしあやしうて時のうつるまてみるとく夜もあけはてなん人かなに
1991-10 そとみあらはさむと心にさるへきしんこむをよみいんをつくりて心みるにしるく
1991-11 や思らんこれは人なりさらにひさうのけしからぬ物にあらすよりてとへなくなり
1991-12 たる人にはあらぬにこそあめれもししにたりける人をすてたりけるかよみかへり
1991-13 たるかといふなにのさる人をかこの院のうちにすて侍らむたとひまこと
1991-14 人なりともきつねこたまやうの物のあさむきてとりもてきたるにこそ侍らめ
1992-01 とふひんにも侍けるかなけからひあるへき所にこそ侍へめれといひてありつる
1992-02 やともりのをのこをよふ山ひこのこたふるもいとおそろしあやしのさまにひたい
1992-03 おしあけていてきたりここにはわかき女なとやすみ給かかることなんあると
1992-04 てみすれはきつねのつかうまつるなりこの木のもとになん時々あやしきわさなむ
1992-05 し侍をととしの秋もここに侍人のこの二はかりにはへしをとりてまうてきたり
1992-06 しかとみをとろかすはへりきさて其ちこはしにやしにしといへはいきて侍り
1992-07 きつねはさこそは人をひやかせとことにもあらぬやつといふさまいとなれたり
1992-08 かのよふかきまいりものの所に心をよせたるなるへしそうつさらはさやうの
1992-09 物のしたるわさか猶よくみよとて此ものをちせぬ法しをよせたれはおにか神か
1992-10 きつねかこたまかかはかりのあめのしたのけんさのおはしますにはえかくれたてまつら
1992-11 しなのり給へなのり給へときぬをとりてひけはかほをひきいれていよいよなく
1992-12 いてあなさかなのこたまのおにやまさにかくれなんやといひつつかほをみん
1992-13 とするに昔ありけむめもはなもなかりけるめおににやあらんとむくつけきをたのもしう
1992-14 いかきさまを人にみせむと思てきぬをひきぬかせんとすれはうつふし
1993-01 てこゑたつはかりなくなににまれかくあやしきことなへて世にあらしとてみはて
1993-02 んと思に雨いたくふりぬへしかくてをいたらはしにはて侍ぬへしかきのもと
1993-03 にこそいたさめといふそうつまことの人のかたちなりその命たえぬをみるみる
1993-04 すてんこといといみしきことなり池にをよくいを山になくしかをたに人にとらへ
1993-05 られてしなむとするをみてたすけさらむはいとかなしかるへし人の命ひさしかる
1993-06 ましき物なれとのこりの命一二日をもおしますはあるへからすおににもかみ
1993-07 にもりようせられ人にをはれ人にはかりこたれてもこれよこさまのしにをす
1993-08 へき物にこそあんめれ仏のかならすすくひ給へききはなりなを心みにしはしゆ
1993-09 をのませなとしてたすけ心みむつゐにしなはいふかきりにあらすとの給てこの
1993-10 大とこしていたきいれさせ給ふをてしともたいたいしきわさかないたうわつらひ
1993-11 給人の御あたりによからぬ物をとりいれてけからひかならすいてきなんとす
1993-12 ともとくもあり又物のへんくゑにもあれめにみすみすいける人をかかるあめに
1993-13 うちうしなはせんはいみしきことなれはなと心心にいふ下すなとはいとさはかしく
1993-14 物をうたていひなす物なれは人さはかしからぬかくれのかたになんふせ
1994-01 たりける御車よせており給程いたうくるしかり給とてののしるすこししつまり
1994-02 てそうつありつる人いかかなりぬるととひ給なよなよとして物いはすいきもし
1994-03 侍らすなにか物にけとられにける人にこそといふをいもうとのあま君きき給て
1994-04 何事そととふしかしかのことなむ六十にあまるとしめつらかなる物をみたまふる
1994-05 との給うちきくままにをのかてらにてみし夢ありきいかやうなる人そまつその
1994-06 さまみんとなきての給たたこのひむかしのやりとになん侍はや御覽せよといへ
1994-07 はいそきゆきてみるに人もよりつかてそすておきたりけるいとわかううつくしけなる
1994-08 女のしろきあやのきぬひとかさねくれなひのはかまそきたるかはいみしう
1994-09 かうはしくてあてなるけはひかきりなしたた我戀かなしむむすめのかへりおはし
1994-10 たるなめりとてなくなくこたちをいたしていたきいれさすいかなりつらむ
1994-11 と(-ナシ)ありさまみぬ人はおそろしからていたきいれついけるやうにもあらてさすかに
1994-12 めをほのかにみあけたるに物のたまへやいかなる人かかくては物し給へ
1994-13 るといへとものおほえぬさま也ゆとりててつからすくひいれなとするにたたよはり
1994-14 にたえいるやうなりけれは中中いみしきわさかなとてこの人なくなりぬ
1995-01 へしかちし給へとけんさのあさりにいふされはこそあやしき御ものあつかひと
1995-02 はいへとかみなとのために經よみつついのるそうつもさしのそきていかにそなに
1995-03 のしわさそとよくてうしてとへとの給へといとよはけにきえもていくやうなれ
1995-04 はえいき侍らしすそろなるけからひにこもりてわつらふへきことさすかにいと
1995-05 やむことなき人にこそ侍めれしにはつともたたにやはすてさせ給はんみくるしき
1995-06 わさかなといひあへりあなかま人にきかすなわつらはしきこともそあるなと
1995-07 くちかためつつあま君はおやのわつらひ給よりも此人をいけはててみまほしう
1995-08 おしみてうちつけにそひゐたりしらぬ人なれとみめのこよなうおかしけなれ
1995-09 はいたつらになさしとみるかきりあつかひさはきけりさすかに時々めみあけなと
1995-10 しつつ涙のつきせすなかるるをあな心うやいみしくかなしと思ふ人のかはり
1995-11 にほとけのみちひき給へると思ひきこゆるをかひなくなり給はは中中なること
1995-12 をや思はんさるへき契にてこそかくみたてまつらめ猶いささか物の給へといひつつくれ
1995-13 とからうしていきいてたりともあやしきふようの人なり人にみせて
1995-14 よるこのかはにおとしいれ給てよといきのしたにいふまれまれ物の給をうれし
1996-01 とおもふにあないみしやいかなれはかくはの給そいかにしてさるところにはおはし
1996-02 つるそととへとも物もいはすなりぬ身にもしきすなとやあらんとてみれと
1996-03 ここはとみゆる所なくうつくしけれはあさましくかなしくまことに人の心まとはさ
1996-04 むとていてきたるかりの物にやとうたかふ二日はかりこもりゐてふたりの
1996-05 人をいのりかちするこゑたえすあやしきことを思さはくそのわたりのけすなと
1996-06 のそうつにつかまつりけるかくておはしますなりとてとふらひいてくるも物語
1996-07 なとしていふをきけは古八の宮の御むすめ右大將とののかよひ給しことになやみ
1996-08 給こともなくてにはかにかくれ給へりとてさはき侍その御さうそうのさうしとも
1996-09 つかうまつり侍りとて昨日はえまいり侍らさりしといふさやうの人の玉しゐ
1996-10 をおにのとりもてきたるにやと思にもかつみるみるある物ともおほえすあやうく
1996-11 おそろしとおほす人々よへみやられしひはしかことことしきけしきもみえ
1996-12 さりしをといふことさら事そきていかめしうも侍らさりしといふけからひたる
1996-13 ひととてたちなからをいかへしつ大將殿は宮の御むすめもち給へりしはうせ給
1996-14 てとしころになりぬる物をたれをいふにかあらんひめ宮ををきたてまつり給て
1997-01 よにこと心おはせしなといふあま君よろしくなり給ぬかたもあきぬれはかくうたて
1997-02 ある所にひさしうおはせんもひんなしとてかへる此人は猶いとよはけなり
1997-03 みちの程もいかか物し給はんと心くるしきことといひあへり車ふたつしておい人
1997-04 のり給へるにはつかうまつるあまふたりつきのにはこの人をふせてかたはら
1997-05 に今ひとりのりそひてみちすから行もやらすくるまとめてゆまいりなとし給ひえ
1997-06 さかもとにをのといふ所にそすみ給けるそこにおはしつくほといととをし中やとり
1997-07 をまうくへかりけるなといひて夜ふけておはしつきぬそうつはおやをあつかひ
1997-08 むすめのあま君はこのしらぬ人をはくくみてみないたきおろしつつやすむ
1997-09 老のやまいのいつともなきかくるしと思給へしとを道のなこりこそしはしわつらひ
1997-10 給けれやうやうよろしうなり給にけれはそうつはのほり給ぬかかる人なん
1997-11 ゐてきたるなとほうしのあたりにはよからぬことなれはみさりし人にはまねは
1997-12 すあま君もみなくちかためさせつつもしたつねくる人もやあると思もしつ心なし
1997-13 いかてさるゐなか人のすむあたりにかかる人おちあふれけん物まうてなと
1997-14 したりけ人の心ちなとわつらひけんをままははなとやうの人のたはかりておか
1998-01 せたるにやとそ思よりける河になかしてよといひしひとことよりほかに物
1998-02 もさらにの給はねはいとおほつかなく思ていつしか人にもなしてみんと思につくつくと
1998-03 しておきあかるよもなくいとあやしうのみ物し給へはつゐにいくましき
1998-04 人にやと思なからうちすてむもいとおしういみし夢かたりもしいててはしめ
1998-05 よりいのらせしあさりにもしのひやかにけしやくことせさせ給うちはへかくあつかふ
1998-06 ほとに四五月もすきぬいとわひしうかひなきことを思わひてそうつの御もと
1998-07 に猶おり給へこの人たすけ給へさすかにけふまてもあるはしぬましかりける
1998-08 人をつきしみ兩したる物のさらぬにこそあめれあか仏京にいて給ははこそは
1998-09 あらめここまてはあへなんなといみしきことをかきつつけてたてまつ給へれ
1998-10 はいとあやしきことかなかくまてもありける人の命をやかてとりすててましか
1998-11 はさるへき契ありてこそはわれしもみつけけめ心みにたすけはてむかしそれに
1998-12 ととまらすはこうつきにけりと思はんとており給けりよろこひおかみて月比の
1998-13 有さまをかたるかく久しうわつらふ人はむつかしきことをのつからあるへきを
1998-14 いささかおとろへすいときよけにねちけたる所なくのみ物し給てかきりとみえ
1999-01 なからもかくていきたるわさなりけりなとおほなおほななくなくの給へはみつけ
1999-02 しよりめつらかなる人のみありさまかないてとてさしのそきてみ給てけにいと
1999-03 きやうさくなりける人の御よめいかなくとくのむくひにこそかかるかたちに
1999-04 もおひいて給けめいかなるたかひめにてそこなはれ給けんもしさにやとききあ-ナシ)
1999-05 らるる事もなしやととひ給ふさらにきこえくることもなしなにかはつせのくわんをむ
1999-06 の給へる人なりとの給へはなにかそれえんにしたかひてこそみちひき
1999-07 給はめたねなきことはいかてかなとのたまひあやしかり給てすほうはしめたりおほやけ
1999-08 のめしにたにしたかはす-ナシ)ふかくこもりたる山をいて給てすそろにかかる
1999-09 人のためになむをこなひさはき給と物のきこえあらんいとききにくかるへしと
1999-10 おほし弟子とももいひて人にきかせしとかくすそうついてあなかま大とこたち
1999-11 われむさんのほうしにていむことの中にやふるかいはおほからめと女のすちに
1999-12 つけてまたそしりとらすあやまつことなし六十にあまりて今さらに人のもとき
1999-13 おはむはさるへきにこそはあらめとの給へはよからぬ人の物をひんなくいひなし
1999-14 侍時には仏ほうのきすとなり侍こと也と心よからす思ていふこのすほうのほと
2000-01 にしるしみえすはといみしきことともをちかひ給てよひとよかちし給へるあかつき
2000-02 に人にかりうつしてなにやうのものかくひとをまとはしたるそと有さま
2000-03 はかりいはせまほしうて弟子のあさりとりとり-ナシ)かちし給月比いささかもあらはれ
2000-04 さりつる物のけてうせられてをのれはここまてまうてきてかくてうせられ
2000-05 たてまつるへき身にもあらすむかしはをこなひせし法しのいささかなる世にうらみ
2000-06 をととめてたたよひありきしほとによき女のあまたすみ給し所にすみつき
2000-07 てかたへはうしなひてしにこの人は心と世を恨給てわれいかてしなんといふこと
2000-08 をよるひるの給しにたよりをえていとくらき夜ひとり物し給しをとりてしなり
2000-09 されとくわんおんとさまかうさまにはくくみ給けれは此そうつにまけたてまつり
2000-10 ぬ今はまかりなんとののしるかくいふはなにそととへはつきたる人物はかなき
2000-11 けにやはかはかしうもいはすさうしみの心ちはさはやかにいささかものおほえ
2000-12 てみまはしたれはひとりみし人のかほはなくてみなおいほうしゆかみおとろへ
2000-13 たる物のみおほかれはしらぬくににきにける心ちしていとかなしありしよ
2000-14 のこと思いつれとすみけむ所たれといひし人とたにたしかにはかはかしうもおほえ
2001-01 すたたわれはかきりとて身をなけし人そかしいつくにきにたるにかとせめて
2001-02 思いつれはいといみしとものを思なけきてみな人のねたりしにつまとをはなち
2001-03 ていてたりしに風ははけしう河浪もあらふきこえしをひとり物おそろしかり
2001-04 しかはきしかたゆくさきもおほえてすのこのはしにあしをさしおろしなから行
2001-05 へきかたもまとはれてかへりいらむもなかそらにて心つよく此世にうせなんと
2001-06 思たちしをおこかましうて人にみつけられむよりはおにもなにもくいうしなへ
2001-07 といひつつつくつくとゐたりしをいときよけなるおとこのよりきていさ給へをのか
2001-08 もとへといひていたく心ちのせしを宮ときこえし人のしたまふとおほえし
2001-09 程より心ちまとひにけるなめりしらぬ所にすゑをきて此男はきえうせぬとみし
2001-10 をつゐにかくほいのこともせすなりぬ-ナシ)と思つついみしうなくと思しほとにその
2001-11 後のことはたえていかにもいかにもおほえす人のいふをきけはおほくの日比もへ
2001-12 にけりいかにうきさまをしらぬ人にあつかはれみえつらんとはつかしうつゐに
2001-13 かくていきかへりぬるかと思ふもくちおしけれはいみしうおほえて中中しつみ
2001-14 給ひつる日比はうつし心もなきさまにて物いささかまいることもありつるを
2002-01 露許のゆをたにまいらすいかなれはかくたのもしけなくのみはおはするそうちはへ
2002-02 ぬるみなとし給へることはさめ給てさはやかにみえ給へはうれしう思きこゆる
2002-03 をとなくなくたゆむおりなくそひゐてあつかひきこえ給ある人々もあたらしき
2002-04 御さまかたちをみれは心をつくしてそおしみまもりける心には猶いかてしな
2002-05 んとそ思わたり給へとさはかりにていきとまりたる人の命なれはいとしうねく
2002-06 てやうやうかしらもたけ給へは物まいりなとし給にそ中中おもやせもていく
2002-07 いつしかとうれしう思きこゆるにあまになし給てよさてのみなんいくやうも
2002-08 あるへきとのたまへはいとおしけなる御さまをいかてかさはなしたてまつらむ
2002-09 とてたたいたたき許をそき五かいはかりをうけさせたてまつる心もとなけれと
2002-10 もとよりおれおれしき人の心にてえさかしくしゐてもの給はすそうつは今はかはかり
2002-11 にていたはりやめたてまつり給へといひをきてのほり給ぬ夢のやうなる
2002-12 人をみたてまつる哉とあま君はよろこひてせめておこしすゑつつ御くしてつから
2002-13 けつり給さはかりあさましうひきゆひてうちやりたりつれといたうもみたれ
2002-14 すときはてたれはつやつやとけうらなり一とせたらぬつくもかみおほかる所に
2003-01 てめもあやにいみしき天人のあまくたれるをみたらむやうに思ふもあやうき心ちすれ
2003-02 となとかいと心うくかはかりいみしく思きこゆるに御心をたててはみえ
2003-03 給いつくにたれときこえし人のさる所にはいかておはせしそとせめてとふをいと
2003-04 はつかしと思てあやしかりしほとにみなわすれたるにやあらむありけんさま
2003-05 なともさらにおほえ侍すたたほのかに思いつることとてはたたいかてこの世に
2003-06 あらしと思つつ夕暮ことにはしちかく-ナシ)なかめし程にまへちかくおほきなる木
2003-07 のありししたより人のいてきてゐていく心ちなむせしそれより外のことはわれ
2003-08 なからたれともえ思いてられ侍すといとらうたけにいひなして世中になをあり
2003-09 けりといかて人にしられしききつくる人もあらはいといみしくこそとてない給
2003-10 あまりとふをはくるしとおほしたれはえとはすかくやひめをみつけたりけんたけとりのおきな
2003-11 よりもめつらしき心ちするにいかなる物のひまにきえうせんと
2003-12 すらむとしつ心なくそおほしける此あるしもあてなる人なりけりむすめのあま君
2003-13 はかむたちめの北のかたにてありけるかその人なく成給て後むすめたたひとり
2003-14 をいみしくかしつきてよききむたちをむこにして思あつかひけるをそのむすめの君
2004-01 のなくなりにけれは心うしいみしと思いりてかたちをもかへかかる山さと
2004-02 にはすみはしめたりける也夜とともにこひわたる人のかたみにも思よそへつ
2004-03 へからむ人をたにみいててしかなつれつれも心ほそきままに思なけきけるをかく
2004-04 おほえぬ人のかたちけはひもまさりさまなるをえたれはうつつのことともおほえ
2004-05 すあやしき心ちしなからうれしと思ねひにたれといときよけによしありて
2004-06 有さまもあてはかなりむかしの山さとよりは水のをともなこやかなりつくりさま
2004-07 ゆへある所こたちおもしろくせむさいもおかしくゆへをつくしたり秋になり行
2004-08 は空のけしきもあはれなり門田のいねかるとて所につけたる物まねひしつつ
2004-09 わかき女ともはうたうたひけうしあへりひたひきならすをともおかしくみしあつまち
2004-10 のことなとも思ひいてられてかの夕きりの宮す所のおはせし山さとより-ナシ)
2004-11 今すこしいりて山にかたかけたる家なれはまつかせしけく風の音もいと心ほそき
2004-12 につれつれをこなひをのみしつついつとなくしめやかなりあま君そつきなと
2004-13 あかきよはきむなとひき給少將のあま君なといふ人はひはひきなとしつつあそふ
2004-14 かかるわさはし給やつれつれなるになといふむかしもあやしかりける身に
2005-01 て心のとかにさやうの事すへき程もなかりしかはいささかおかしきさまならす
2005-02 もおひいてにける哉とかくさたすきにける人の心をやるめるおりおりにつけて
2005-03 は思ひいつるをあさましく物はかなかりけるとわれなからくちおしけれはてならひ
2005-04 に
2005-05 身をなけし涙の河のはやき瀬をしからみかけてたれかととめし思の外に心うけれ
2005-06 は行すゑもうしろめたくうとましきまて思やらる月のあかき夜な夜なおい人とも
2005-07 はえむに哥よみいにしゑ思いてつつさまさま物かたりなとするにいらふ
2005-08 へきかたもなけれはつくつくと打なかめて
2005-09 われかくてうき世の中にめくるともたれかはしらむ月の都に今はかきりと
2005-10 思し程は戀しき人おほかりしかとこと人々はさしもおもひいてられすたたおや
2005-11 いかにまとひ給けんめのとよろつにいかて人なみなみになさむと思いられしを
2005-12 いかにあえなき心ちしけんいつくにあらむわれよにある物とはいかてかしらむ
2005-13 おなし心なる人もなかりしままによろつへたつることなくかたらひみなれたり
2005-14 し右近なともおりおりは思いてらるわかき人のかかる山里に今はと思たえこもる
2006-01 はかたきわさなりけれはたたいたく年へにけるあま七八人そつねの人にては
2006-02 ありけるそれらかむすめむまこやうの物とも京に宮つかへするもことさまにて
2006-03 あるも時時そきかよひけるかやうの人につけてみしわたりにいきかよひをのつから
2006-04 よにありけりとたれにもたれにもきかれたてまつらむこといみしくはつかしかる
2006-05 へしいかなるさまにてさすらへけんなと思やりよつかすあやしかるへきを
2006-06 思へはかかる人々にかけてもみえすたたししうこもきとてあま君のわか人にし
2006-07 たりけるふたりをのみそ此御かたにいひわけたりけるみめも心さまもむかしみ
2006-08 し宮ことりににたるはなしなにことにつけても世中にあらぬ所はこれにやとそ
2006-09 かつは思なされけるかくのみ人にしられしとしのひ給へはまことにわつらはしかる
2006-10 へきゆへある人にも物し給らんとてくはしきことある人々にも-ナシ)しらせすあま君
2006-11 のむかしのむこの君今は中將にて物し給けるおとうとのせんしの君そうつ
2006-12 の御もとに物し給ける山こもりしたるをとふらひにはらからのきみたちつねに
2006-13 のほりけりよ川にかよふみちのたよりによせて中將ここにおはしたりさきうちをひ
2006-14 てあてやかなるおとこのいりくるをみいたしてしのひやかにおはせし人の
2007-01 御さまけはひそさやかに思いてらるるこれもいと心ほそきすまゐのつれつれなれ
2007-02 とすみつきたる人々は物きよけにおかしうしなしてかきほにうへたるなてしこ
2007-03 もおもしろくをみなへしき經なとさきはしめたるに色々のかりきぬすかたの
2007-04 をのことものわかきあまたして君もおなしさうそくにてみなみをもてによひすへ
2007-05 たれはうちなかめてゐたりとし廿七八の程にてねひととのひ心ちなからぬさま
2007-06 もてつけたりあま君さうしくちにき丁たててたいめんし給まつうちなきて年ころ
2007-07 のつもるにはすきにし方いととけとをくのみ-ナシ)なん侍へるを山さとのひかり
2007-08 に猶まちきこえさすることのうちわすれすやみ侍らぬをかつはあやしく思給ふる
2007-09 との給へは心のうちあはれにすきにし方のこととも思給へられぬおりなきを
2007-10 あなかちにすみはなれかほなる御ありさまにをこたりつつなん山こもりもうら山しう
2007-11 つねにいてたち侍をおなしくはなとしたひまとはさるる人々にさまたけ
2007-12 らるるやうに侍てなんけふはみなはふきすてて物し給へるとの給山こもりの御うらやみ
2007-13 は中中いまやうたちたる御物まねひになむむかしをおほしわすれぬ
2007-14 御心はへもよになひかせ給はさりけるとをろかならす思給へらるるおりおほく
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2008-02 たれはなれにしあたりにてさやうのこともつつみなき心ちしてむら雨のふりいつる
2008-03 にとめられて物かたりしめやかにし給いふかひなく成にし人よりも此君の
2008-04 御心はへなとのいと思やうなりしをよその物に思なしたるなんいとかなしきなと
2008-05 忘かたみをたにととめ給はすなりにけんと戀しのふ心なりけれはたまさかに
2008-06 かく物し給へるにつけてもめつらしくあはれにおほゆへかめるとはすかたりも
2008-07 しいてつへしひめ君はわれは我と思いつる方おほくてなかめいたし給へるさま
2008-08 いとうつくししろきひとへのいとなさけなくあさやきたるにはかまもひはた色
2008-09 にならひたるにやひかりもみえすくろきをきせたてまつりたれはかかることとも
2008-10 もみしにはかはりてあやしうもあるかなと思つつこはこはしういららきたる
2008-11 物ともき給へるしもいとおかしきすかたなり御まへなる人々こひめ君のおはし
2008-12 たる心ちのみし侍つるに中將殿をさへみたてまつれはいとあはれにこそおなしくは
2008-13 昔のさまにておはしまさせはやいとよき御あはひならむかしといひあへる
2008-14 をあないみしや世にありていかにもいかにも人にみえんこそそれにつけてそむかし
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2009-02 給へるまにまらうとあめのけしきをみわつらひて少將といひし人のこゑをききしり
2009-03 てよひよせ給へり昔みし人々はみなここに物せらるらんやと思ひなからも
2009-04 かうまいりくることもかたくなりにたるを心あさきにやたれもたれもみなし給
2009-05 らんなとの給つかうまつりなれにし人にてあはれなりし昔のことともも思いて
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2009-08 よをそむき給へるあたりにたれそとなんみおとろかれつるとの給姫君のたちいて
2009-09 給へりつるうしろてをみ給へりけるなめりとおもひいててましてこまかにみせたら
2009-10 は心とまり給なんかしむかし人はいとこよなうをとり給へりしをたにまた忘かたく
2009-11 し給めるをと心ひとつに思てすきにし御ことをわすれかたくなくさめかね
2009-12 給めりし程におほえぬ人をえたてまつり給てあけ暮のみ物に思きこえ給める
2009-13 をうちとけ給へる御有さまをいかて御らんしつらんといふかかることこそはあり
2009-14 けれとおかしくてなに人ならむけにいとおかしかりつとほのかなりつるを中中
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2010-02 いへはうちつけにとひ尋むもさまあしき心ちして雨もやみぬ日も暮ぬへしと
2010-03 いふにそそのかされて出給まへちかきをみなへしをおりてなににほふらんとくちすさひ
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2010-08 とこそいふなれとあま君もの給て心うく物をのみおほしへた-ナシ)たるなむいとつらき
2010-09 今は猶さるへきなめりとおほしなしてはれはれしくもてなし給へこの五とせむとせ
2010-10 時のまもわすられす戀しくかなしと思つる人のうへもかくみたてまつりて後
2010-11 よりはこよなくおもひわすれにて侍思きこえ給へき人々世におはすとも今は世に-ナシ)なき
2010-12 物にこそやうやうおほしなりぬらめよろつのことさしあたりたるやうにはえしも
2010-13 あらぬわさになむといふにつけてもいとと涙くみてへたてきこゆる心は侍ら
2010-14 ねとあやしくていき返ける程によろつのこと夢の世にたとられてあらぬ世に
2011-01 生れたらん人はかかる心ちやすらんとおほえ侍れは今は知へき人よにあらんとも
2011-02 思ひ出すひたみちにこそむつましく思きこゆれとの給さまもけになに心なく
2011-03 うつくしくうちゑみてそまもりゐ給へる中將は山におはしつきて僧都もめつらしかり
2011-04 て世中の物語し給ふその夜はとまりてこゑたうとき人に經なとよませて
2011-05 夜ひとよあそひ給せむしの君こまかなる物かたりなとするつゐてにをのに立より
2011-06 て物あはれにも有しかな世をすてたれと猶さはかりの心はせある人はかたう
2011-07 こそなとあるつゐてに風の吹あけたりつるひまよりかみいとなかくおかしけなる
2011-08 人こそみえつれあらはなりとや思つらんたちてあなたにいりつるうしろてなへて
2011-09 の人とはみえさりつさやうの所によき女はをきたるましき物にこそあめれ
2011-10 あけ暮みる物はほうしなりをのつからめなれておほゆらんふひんなることそかし
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2012-03 たるさまに物し給らんはたれにかととひ給わつらはしけれとほのかにもみつけ
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2013-03 うつしうへて思みたれぬをみなへしうき世をそむく草の庵にとありこたみ
2013-04 はさもありぬへしと思ゆるしてかへりぬふみなとわさとやらんはさすかにうひうひしう
2013-05 ほのかにみしさまは忘す物思ふらんすちなにこととしらねとあはれなれ
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2019-03 とありめつらしからぬもみ所なき心ちしてうちをかれけんおきのはにをとらぬ
2019-04 ほとほとにをとつれわたるいとむつかしうもあるかな人の心はあなかちなる物
2019-05 なりけりとみしりにしおりおりもやうやう思いつるままに猶かかるすちのこと
2019-06 ひとにも思はなたすへきさまにとくなし給てよとて經ならいてよみ給心のうち
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2019-10 給おりはめつらしくめてたき物に思へり九月になりて此あま君はつせにまうつ
2019-11 としころいと心ほそき身にこひしき人のうへも思やまれさりしをかくあらぬ人
2019-12 ともおほえ給はぬなくさめをえたれはくわんをんの御しるしうれしとてかへり申たち
2019-13 てまうて給なりけりいさ給へひとやはしらするおなし仏なれとさやう
2019-14 の所にをこなひたるなむしるしありてよきためしおほかるといひてそそのかし立れ
2020-01 とむかしはは君めのとなとのかやうにいひしらせつつたひたひまうてさせ
2020-02 しをかひなきにこそあめれ命さへ心にかなはすたくひなきいみしきめをみる
2020-03 はといと心うきうちにもしらぬ人にくしてさるみちのありきをしたらんよと空おそろしく
2020-04 おほゆ心こはきさまにはいひもなさて心ちのいとあしうのみ侍れは
2020-05 さやうならんみちの程にもいかかなとつつましうなむとの給ふ物おちはさもし
2020-06 給へき人そかしと思てしゐてもいさなはす
2020-07 はかなくて世にふる河のうきせには尋もゆかし二もとの杉とてならひにましり
2020-08 たるをあま君みつけてふたもとはまたもあひきこえんと思給人あるへしと
2020-09 たはふれことをいひあてたるにむねつふれておもてあかめたまへるもいとあい行つき
2020-10 うつくしけなり
2020-11 ふる河の杉の本たちしらねとも過にし人によそへてそみることなることなき
2020-12 いらへをくちとくいふしのひてといへとみな人したひつつここには人すくなに
2020-13 ておはせんを心くるしかりて心はせある少將のあま左衞門とてあるおとなしき
2020-14 人わらははかりそととめたりけるみないてたちけるをなかめいててあさましき
2021-01 ことを思なからも今はいかかせむとたのもし人に思ふ人ひとり物し給はぬは
2021-02 心ほそくもあるかなといとつれつれなるに中將の御ふみあり御らんせよといへ
2021-03 とききもいれ給はすいとと人もみえすつれつれときしかた行さきを思くむし給ふ
2021-04 くるしきまてもなかめさせ給かな御うたせ給へといふいとあやしうこそ
2021-05 はありしかとはの給へとうたむとおほしたれははむとりにやりてわれはと思て
2021-06 せんせさせたてまつりたるにいとこよなけれは又てなをしてうつあまうへとう
2021-07 かへらせ給はなん此御五みせたてまつらむかの御五そいとつよかりしそうつの君
2021-08 はやうよりいみしうこのませ給てけしうはあらすとおほしたりしをいときせい大とこ
2021-09 になりてさしいててこそうたさらめ御五にはまけしかしときこえ給し
2021-10 につゐにそうつなんふたつまけ給しきせいか五にはまさらせ給へきなめりあな
2021-11 いみしとけうすれはさたすきたるあまひたいのみつかぬに物このみするにむつかしき
2021-12 こともしそめてける哉と思て心ちあしとてふし給ぬ時時はれはれしう
2021-13 もてなしておはしませあたら御身をいみしうしつみてもてなさせ給こそくちおしう
2021-14 玉にきすあらん心ちし侍れといふ夕暮の風の音もあはれなるに思いつること
2022-01 もおほくて
2022-02 心には秋の夕をわかねともなかむる袖に露そみたるる月さしいてておかしき
2022-03 程にひるふみありつる中將おはしたりあなうたてこはなにそとおほえ給へは
2022-04 おくふかく入給をさもあまりにもおはします物かな御心さしのほともあはれまさる
2022-05 おりにこそ侍めれほのかにもきこえ給はんこともきかせ給へしみつかんこと
2022-06 のやうにおほしめしたるこそなといふにいとはしたなくおほゆおはせぬよし
2022-07 をいへとひるのつかひのひと所なととひききたるなるへしいとことおほくうらみ
2022-08 て御こゑもきき侍らしたたけちかくてきこえんことをききにくしともいかにとも-ナシ)
2022-09 おほしことはれとよろつにいひわひていと心うく所につけてこそ物のあはれ
2022-10 もまされあまりかかるはなとあはめつつ
2022-11 山里の秋の夜ふかきあはれをももの思ふ人は思こそしれをのつから御心も
2022-12 かよひぬへきをなとあれはあま君おはせてまきらはしきこゆへき人も侍らすいと
2022-13 よつかぬやうならむとせむれは
2022-14 憂物と思もしらてすくす身を物おもふ人とひとはしりけりわさといらへとも
2023-01 なきをききてつたへきこゆれはいとあはれと思て猶たたいささかいて給へと
2023-02 きこえうこかせとこの人々をわりなきまてうらみ給あやしきまてつれなくそみえ
2023-03 給やとていりてみれは例はかりそめにもさしのそき給はぬ老人の御かたにいり
2023-04 給にけりあさましう思てかくなんときこゆれはかかる所になかめ給らん心のうち
2023-05 のあはれにおほかたのありさまなともなさけなかるましき人のいとあまり
2023-06 思しらぬ人よりもけにもてなし給めるこそそれ物こりし給へるか猶いかなるさま
2023-07 に世をうらみていつまておはすへき人そなとありさまとひていとゆかしけに
2023-08 のみおほいたれとこまかなることはいかてかはいひきかせんたたしりきこえ給
2023-09 へき人のとし比はうとうとしきやうにてすくし給しを初せにまうてあひ給て尋
2023-10 きこえ給るとそいふひめ君はいとむつかしとのみきくおい人のあたりにうつふしふし
2023-11 ていもねられすよひまとひはえもいはすおとろおとろしきいひきしつつ
2023-12 まへにもうちすかひたるあまともふたりふしてをとらしといひきあはせたりいと
2023-13 おそろしうこよひこの人々にやくはれなんとおもふもおしからぬ身なれとれいの
2023-14 心よはさはひとつはしあやうかりてかへりきたりけん物のやうにわひしく
2024-01 おほゆこもきともにゐておはしつれと色めきてこのめつらしきおとこのえんたちゐ
2024-02 たるかたにかへりゐにけりいまやくるいまやくると待ゐたまへれといとはかなき
2024-03 たのもし人なりや中將いひわつらひてかへりにけれはいとなさけなくむもれて
2024-04 もおはしますかなあたら御かたちをなとそしりてみなひと所にねぬ夜なかはかり
2024-05 にやなりぬらんと思ほとにあま君しはふきおほほれておきにたりほかけにかしらつき
2024-06 はいとしろきにくろき物をかつきてこのきみのふし給へるあやしかり
2024-07 ていたちとかいふなる物かさるわさするひたひにてをあててあやしこれはたれ
2024-08 そとしふねけなるこゑにてみおこせたるさらにたたいまくひてむとするとそおほゆる
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2024-12 しなましかはこれよりもおそろしけなる物の中にこそはあらましかと思やらる
2024-13 昔よりのことをまとろまれぬままにつねよりも思つつくるにいと心うおやと
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2025-02 をもおもはすにてたえすきさるかたに思さため給し人につけてやうやう身のうさ
2025-03 をもなくさめつへききはめにあさましうもてそこなひたる身を思もてゆけは
2025-04 宮をすこしもあはれとおもひきこえけん心そいとけしからぬたたこの人の御ゆかり
2025-05 にさすらへぬるそとおもへはこしまの色をためしに契給しをなとておかし
2025-06 と思きこえけんとこよなくあきにたる心ちすはしめよりうすきなからものとやかに
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2025-12 いとあしともにてわたるへき人もとみにこねは猶ふし給つるにいひきの人はいと
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2026-05 よへ夜ふけてなんのほりおはしましてきさいの宮の御文なと侍けれはおり
2026-06 させ給なりなといとはなやかにいひなすはつかしうともあひてあまになし給
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2026-09 きこえ給へとかたらひ給へはほけほけしう打うなつく例のかたにおはし
2026-10 てかみはあま君のみけつり給を-ナシ)と人にてふれさせんもうたておほゆるにてつから
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2026-12 のさまをみえすなりなむこそ人やりならすいとかなしけれいたうわつらひしけ
2026-13 にやかみもすこしおちほそりたる心ちすれとなにはかりもおとろへすいとおほく
2026-14 て六尺はかりなるすゑなとそいとうつくしかりけるすちなともいとこまかに
2027-01 うつくしけなりかかれとてしもとひとりこちゐ給へりくれかたにそうつものし
2027-02 給へりみなみおもてはらひしつらひてまろなるかしらつきゆきちかひさはきたる
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2027-04 はなといふひんかしの御方は物まうてし給にきとかこのおはせし人はなをものし
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2027-06 うけたてまつらんとの給るとかたるたちてこなたにいましてここにやおはします
2027-07 とてき丁のもとについゐ給へはつつましけれとゐさりよりていらへし給ふいに
2027-08 てみたてまつりそめてしもさるへき昔の契ありけるにこそと思給へて御いのり
2027-09 なともねんころにつかうまつりしをほうしはその事となくて御ふみきこえ
2027-10 うけ給はらむもひんなけれはしねんになんをろかなるやうになり侍ぬるいとあやしき
2027-11 さまによをそむき給へる人の御あたりいかておはしますらんとの給世中
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2027-13 よろつにせさせ給ける御心はえをなむいふかひなき心ちにも思給へしらるる
2027-14 を猶よつかすのみつゐにえとまるましく思給へらるるをあまになさせ給てよ世中
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2028-02 とをけなる御程にいかてかひたみちにしかはおほしたたむかへりてつみある
2028-03 事也思立て心をおこし給ほとはつよくおほせと年月ふれは女の御身といふ物
2028-04 いとたいたいしき物になんとのたまへはをさなく侍しほとより物をのみ思へき
2028-05 有さまにておやなともあまになしてやみましなとなむ思の給しましてすこしもの
2028-06 思しりて後は例の人さまならてのちの世をたにと思心ふかかりしをなくなる
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2028-09 給けん物のけもさこそいふなりしかと思あはするにさるやうこそはあら
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2029-03 侍れはをもくならはいむことかひなくや侍らん猶けふはうれしきおりとこそおもふ
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2029-10 けにいみしかりし人の御有さまなれはうつし人にてはよにおはせんもうたて
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2029-13 けるかかるほと少將のあまはせうとのあさりのきたるにあひてしも
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2030-01 てはみなとりとりに心よせの人々めつらしうていてきたるにはかなき事しける
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2031-03 心やすくうれし世にふへき物とは思かけすなりぬるこそはいとめてたきことなれ
2031-04 とむねのあきたる心ちそし給けるつとめてはさすかに人のゆるさぬことなれ
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2032-03 わさかないとおかしくみえしかみのほとをたしかにみせよとひと夜もかたらひ
2032-04 しかはさるへからむおりにといひしものをといとくちおしうて立かへり
2032-05 きこえんかたなきは
2032-06 きし遠く漕はなるらむあま舟に乘をくれしといそかるるかな例ならすとり
2032-07 てみ給物のあはれなるおりにいまはと思もあはれなる物からいかかおほさるらん
2032-08 いとはかなきもののはしに
2032-09 心こそうき世の岸をはなるれと行ゑもしらぬあまのうき木をとれいのてならひ
2032-10 にし給へるをつつみてたてまつるかきうつしてたにこそとの給へと中中
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2032-12 ける物まうての人かへり給て思さはき給ことかきりなしかかる身にてはすすめ
2032-13 きこえんこそはと思なし侍れとのこりおほかる御身をいかてへたまはむとす
2032-14 らむをのれは世に侍らんことけふあすともしりかたきにいかてうしろやすくみ
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2033-02 いみしけに思給へるにまことのおやのやかてからもなき物と思まとひ給けん
2033-03 ほとおしはからるるそまついとかなしかりける例のいらへもせてそむきゐ給へ
2033-04 るさまいとわかくうつくしけなれはいと物はかなくそおはしける御心なれとなくなく
2033-05 御そのことなといそき給にひ色はてなれにしことなれはこうちきけさなと
2033-06 したりある人々もかかる色をぬいきせたてまつる-ナシ)つけてもいとおほえすうれしき
2033-07 山里のひかりとあけくれみたてまつりつる物を口おしきわさかなとあたらしかり
2033-08 つつ僧都をうらみそしりけり一品宮の御なやみけにかの弟子のいひし
2033-09 もしるくいちしる-ナシ)きことともありてをこたらせ給にけれはいよいよいとたうとき
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2033-11 てさふらひ給に雨なとふりてしめやかなる夜めしてよゐにさふらはせ
2033-12 給日ころいたうさふらひこうしたる人はみなやすみなとしておまへに人すくなに
2033-13 てちかくおきたる人すくなきおりにおなし御丁におはしまして昔よりたのま
2033-14 せ給中にも此たひなんいよいよ後の世もかくこそはとたのもしきことまさりぬる
2034-01 なとの給はす世の中に久しうはへるましきさまに仏なともをしへ給へることとも
2034-02 侍るうちにことしらい年すくしかたきやうになむ侍れは佛をまきれなくねんし
2034-03 つとめ侍らんとてふかくこもり侍をかかるおほせことにてまかりいて侍に
2034-04 しなとけいし給御もののけのしふねきことをさまさまになのるかおそろしきこと
2034-05 なとの給つゐてにいとあやしうけうのことをなんみ給へしこの三月に年老て
2034-06 侍ははの願有てはつせにまうてて侍しかへさの中やとりにうちの院といひ侍所
2034-07 にまかりやとりしをかくのこと人すまて年へぬるおほきなる所はよからぬ物かならす
2034-08 かよひすみておもきひやうさのためあしきこととももやと思給へしもしるくと
2034-09 てかのみつけたりしことともをかたりきこえ給けにいとめつらかなることかな
2034-10 とてちかくさふらふ人々みなねいりたるをおそろしくおほされておとろかさせ
2034-11 給大將のかたらひ給さい將の君しもこのことをききけりおとろかさせ給人々は
2034-12 なにともきかす僧都おちさせ給へる御けしきを心もなきことけいしてけりと思
2034-13 てくはしくもその程のことをはいひさしつその女人このたひまかりいて侍つる
2034-14 たよりにをのに侍つるあまともあいとふらひ侍らんとてまかりよりたりしになくなく
2035-01 出家の心さしふかきよしねん比にかたらひ侍しかはかしらおろし侍にきなにかし
2035-02 かいもうと故ゑもんのかみのめに侍しあまなんうせにし女このかはりに
2035-03 と思よろこひ侍てすいふんにいたはりかしつき侍けるをかくなりたれはうらみ
2035-04 侍なりけにそかたちはいとうるはしくけうらにてをこなひやつれ-ナシ)もいとおしけに
2035-05 なむ侍しなに人にか侍けんとものよくいふそうつにてかたりつつけ申給へ
2035-06 はいかてさる所によき人をしもとりもていきけんさりとも今はしられぬらむなと
2035-07 このさい相の君そとふしらすさもやかたらひ給らんまことにやむことなき人
2035-08 ならはなにかかくれも侍らしをやゐ中人のむすめもさるさましたるこそは侍ら
2035-09 めりうの中より仏むまれ給はすはこそ侍らめたた人にてはいとつみかろきさま
2035-10 の人になん侍けるなときこえ給そのころかのわたりにきえうせにけ人をおほしいつ
2035-11 このおまへなる人もあねの君のつたへにあやしくてうせたる人とはききをき
2035-12 たれはそれにやあらんとは思けれとさためなきこと也そうつもかかる人世
2035-13 にある物ともしられしとよくもあらぬかたきたちたる人もあるやうにおもむけ
2035-14 てかく-ナシ)しのひ侍をことのさまのあやしけれはけいし侍なりとなまかくすけしき
2036-01 なれは人にもかたらす宮はそれにもこそあれ大將にきか-ナシ)はやと此人にその給は
2036-02 すれといつかたにもかくすへきことをさためてさならむともしらすなから
2036-03 はつかしけなる人にうちいての給はせむもつつましくおほしてやみにけりひめ宮
2036-04 をこたりはてさせ給てそうつものほりぬかしこにより給へれはいみしううらみ
2036-05 て中中かかる御ありさまにてつみもえぬへきことをの給もあはせすなりに
2036-06 けることをなむいとあやしきなとの給へとかひもなし今はたた御をこなひをし
2036-07 給へおいたるわかきさためなきよなりはかなき物におほしとりたるもことはりなる
2036-08 御身をやとの給にもいとはつかしうなむおほえける御ほうふくあたらしく
2036-09 し給へとてあやう物きぬなといふ物たてまつりをき給なにかしか侍らんかきり
2036-10 はつかうまつりなんなにかおほしわつらふへきつねの世においいててせけん
2036-11 のゑいくわにねかひまつはるるかきりなん所せくすてかたくわれも人もおほす
2036-12 へかめることなめるかかる林の中にをこなひつとめ給はん身はなにことかはうらめしく
2036-13 もはつかしくもおほすへきこのあらん命は葉のうすきかことしといひしらせ
2036-14 て松門に曉いたりて月徘徊すとほうしなれといとよしよししくはつかしけなる
2037-01 さまにての給ことともを思やうにもいひきかせ給かなとききゐたりけふ
2037-02 はひねもすにふく風の音もいと心ほそきにおはしたる人もあはれ山ふしはかかる
2037-03 日にそねはなかるなるかしといふをききて我も今は山ふしそかしことはりに
2037-04 とまらぬ涙なりけりと思つつはしのかたに立いててみれははるかなる軒はより
2037-05 かりきぬすかた色々に立ましりてみゆ山へのほる人なりとてもこなたのみちに
2037-06 はかよふ人もいとたまさかなりくろたにとかいふ方よりありくほうしのあとのみ
2037-07 まれまれはみゆるを例のすかたみつけたるはあひなくめつらしきにこのうらみわひ
2037-08 し中將なりけりかひなきこともいはむとて物したりけるを紅葉のいとおもしろく
2037-09 ほかのくれなゐにそめましたる色々なれはいりくるよりそ物あはれなり
2037-10 けるここにいと心ちよけなる人をみつけたらはあやしくそおほゆへきなと思
2037-11 ていとまありてつれつれなる心ちし侍にもみちもいかにと思給へてなむ猶立かへり
2037-12 てたひねもしつへきこのもとにこそとてみいたし給へりあま君例の涙もろに
2037-13 て
2037-14 木枯の吹にし山のふもとには立かくすへきかけたにそなきとの給へは
2038-01 待人もあらしとおもふ山里の梢をみつつ猶そ過うきいふかひなき人の御こと
2038-02 をなをつきせすの給てさまかはり給へらんさまをいささかみせよと少將のあま
2038-03 にの給それをたにちきりししるしにせよとせめ給へはいりてみるにことさら
2038-04 人にもみせまほしきさまてそおはするうすきにひ色のあやなかにはくわんさう
2038-05 なとすみたるいろをきていとささやかにやうたひおかしくいまめきたるかたち
2038-06 にかみはいつへのあふきをひろけたるやうにこちたきすゑつき也こまかにうつくしき
2038-07 おもやうのけさうをいみしくしたらむやうにあかくにほひたりをこなひ
2038-08 なとをしたまふも猶すすはちかききちやうにうちかけて經に心をいれてよみ
2038-09 給へるさまゑにもかかまほしうちみることに涙のとめかたき心ちするをまいて
2038-10 心かけ給はんおとこはいかにみたてまつり給はんと思てさるへきおりにや有けむ
2038-11 さうしのかけかねのもとにあきたるあなををしへてまきるへき木丁なとおしやり
2038-12 たりいとかくは思はすこそ有しかいみしく思さまなりける人をと我したら
2038-13 むあやまちのやうにおしくくやしうかなしけれはつつみもあへす物くるはしき
2038-14 まてけはひもきこえぬへけれはのきぬかはかりのさましたる人をうしなひてたつね
2039-01 ぬ人ありけんや又その人かの人のむすめなん行ゑもしらすかくれにたるもしは
2039-02 物えんしして世をそむきにけるなとをのつからかくれなかるへきをなとあやしう
2039-03 返々思あまなりともかかるさましたらむ人はうたてもおほえしなと中中
2039-04 み所まさりて心くるしかるへきをしのひたるさまに猶かたらひとりてんと
2039-05 思へはまめやかにかたらふよのつねのさまにはおほしははかることも有けんを
2039-06 かかるさまになり給にたるなん心やすうきこえつへく侍さやうにをしへきこえ
2039-07 給へきし方のわすれかたくてかやうにまいりくるに又今ひとつ心さしをそへて
2039-08 こそなとの給いと行すゑこころほそくうしろめたき有さまに侍にまめやかなる
2039-09 さまにおほし忘れすとはせ給はんいとうれしうこそ思給へをかめ侍らさらむ後
2039-10 なんあはれに思給へらるへきとてなき給にこのあま君もはなれぬ人なるへしたれ
2039-11 ならむと心えかたし行すゑの御うしろみはいのちもしりかたくたのもしけなき
2039-12 身なれとさきこえそめ侍なれはさらにかはり侍へらし尋きこえ給へき人はまことに
2039-13 ものし給はぬかさやうのことのおほつかなきになんははかるへきことに
2039-14 は侍らねとなをへたてある心ちし侍へきとの給へは人にしらるへきさまにて世
2040-01 にへたまははさもや尋いつる人も侍らん今はかかるかたたに思きりつる有さまになん
2040-02 心のおもむけもさのみみえ侍つるをなとかたらひ給こなたにもせうそこし給へ
2040-03 り
2040-04 大かたの世をそむきける君なれといとふによせて身こそつらけれねん比に
2040-05 ふかくきこえ給ことなとおほくいひつたふはらからとおほしなせはかなき世の物かたり
2040-06 なともきこえてなくさめむなといひつつく心ふかからむ御物かたりなとききわく
2040-07 へくもあらぬこそ口おしけれといらへてこのいとふにつけたるいらへはし
2040-08 給はす思よらすあさましきこともありし身なれはいとうとましすへてくちきなと
2040-09 のやうにて人にみすてられてやみなむともてなし給されは月ころたゆみなく
2040-10 むすほほれ物をのみおほしたりしもこのほいの事し給てよりのちすこしはれはれしう
2040-11 なりてあま君とはかなくたはふれもしかはし五うちなとしてそあかしくらし
2040-12 給をこなひもいとよくして法華經はさら也ことほうもんなともいとおほく
2040-13 よみ給雪深くふりつみ人めたえたる比そけに思やるかたなかりける年もかへり
2040-14 ぬ春のしるしもみえすこほりわたれる水の音せぬさへ心ほそくて君にそまとふ
2041-01 との給し人はこころうしと思はてにたれと猶そのおりなとのことはわすれす
2041-02 かきくらす野山の雪をなかめてもふりにしことそけふもかなしきなと例の
2041-03 なくさめの手習ををこなひのひまにはし給われ世になくて年へたたりぬるを思いつる
2041-04 人もあらむかしなと思出る時もおほかりわかなをおろそかなるこにいれ
2041-05 て人のもてきたりけるをあま君みて
2041-06 山里の雪まのわかなつみはやし猶おいさきのたのまるるかなとてこなたに
2041-07 たてまつれ給へりけれは
2041-08 雪ふかき野へのわかなも今よりは君かためにそ年もつむへきとあるをさそ
2041-09 おほすらんとあはれなるにもみるかひ有へき御さまと思はましかはとまめやかに
2041-10 うちない給ねやのつま近きこうはいの色も香もみしよかはらぬを春や昔のとこと花
2041-11 よりもこれに心よせのあるはあかさりしにほひのしみにけるにやこやにあかたてまつら
2041-12 せ給けらうのあまのすこしわかきかあるめしいてて花おらすれはかことかましく
2041-13 ちるにいととにほひくれは
2041-14 袖ふれし人こそみえね花の香のそれかとにほふ春の明ほのおほあま君のむまこ
2042-01 のきのかみなりけるこの比のほりてきたり卅はかりにてかたちきよけにほこりかなる
2042-02 さましたりなにことかこそおととしなと問にほけほけしきさまなれ
2042-03 はこなたにきていとこよなくこそひかみ給にけれあはれにもはへるかなのこりなき
2042-04 御さまをみたてまつることかたくてとをき程に年月をすくし侍よおやたち
2042-05 物し給はて後はひと所をこそ御かはりに思きこえ侍つれひたちの北の方はをとつれ
2042-06 きこえ給やといふはいもうとなるへし年月にそへてはつれつれにあはれなる
2042-07 ことのみまさりてなむひたちはひさしうをとつれきこえ給はさめりえ待つけ
2042-08 給ましきさまになむみえ給との給にわかおやの名とあひなくみみとまれるに又
2042-09 いふやうまかりのほりて日比になり侍ぬるをおほやけことのいとしけくむつかしう
2042-10 のみ侍るににかかつらひてなんきのふもさふらはんと思給へしを右大將殿の宇治
2042-11 におはせし御ともにつかうまつりて故八の宮のすみ給し所におはして日くらし
2042-12 給しこみやの御むすめにかよひ給しをまつひと所は一とせうせ給にきその御おとうと
2042-13 又忍てすへたてまつり給へりけるをこその春又うせ給にけれはその御はてのわさ
2042-14 せさせ給はんことかの寺のりしになんさるへきことの給はせてなにかし
2043-01 もかの女のさうそく一くたりてうし侍へきをせさせ給てんやをらすへき物
2043-02 はいそきせさせなんといふを聞にいかてかあはれならさらむ人やあやしとみ
2043-03 むとつつましうておくにむかひ-ナシ)ゐ給へりあま君かの聖のみこの御むすめはふたり
2043-04 とききしを兵部卿宮の北の方はいつれそとの給へはこの大將殿の御のちの
2043-05 はおとりはらなるへしことことしうももてなし給はさりけるをいみしうかなしひ
2043-06 給ふなりはしめのはたいみしかりきほとほと出家もし給つへかりきかしなと
2043-07 かたるかのわたりのしたしき人なりけりとみるにもさすかおそろしあやしくやうの物
2043-08 とかしこにてしもうせ給けることきのふもいとふひんに侍しかな河ちかき
2043-09 所にてみつのそき給ていみしうなき給きうへにのほり給てはしらにかきつけ
2043-10 給し
2043-11 みし人はかけしとまらぬ水の上に落そふ涙いととせきあへすとなむ侍しことにあらはし
2043-12 ての給ことはすくなけれとたた氣色にはいとあはれなる御さまになん
2043-13 みえ給し女はいみしくめてたてまつりぬへくなんはかく侍し時よりいうにおはします
2043-14 とみたてまつりしみにしかは世中の一の所もなにとも思侍らすたたこの
2044-01 殿をたのみきこえてなんすくし侍ぬるとかたるにことにふかき心もなけなる
2044-02 かやうの人たに御有さまはみしりにけりと思あま君ひかる君ときこえけん故院
2044-03 の御有さまにはならひ給はしとおほゆるをたた今の世にこの御そうそめてられ
2044-04 給なる右の大殿ととの給へはそれはかたちもいとうるはしうけうらにすうとく
2044-05 にてきはことなるさまそし給へる兵部卿宮そいといみしうおはするや女にてなれつかうまつら
2044-06 はやとなんおほえ侍なとをしへたらんやうにいひつつくあはれに
2044-07 もおかしくも聞に身の上もこの世のことともおほえすととこほることなくかたりをき
2044-08 て出ぬ忘給はぬにこそはとあはれに思にもいととはは君の御心のうち
2044-09 をしはからるれと中中いふかひなきさまをみえきこえたてまつらむは猶つつましく
2044-10 そ有けるかの人のいひつけし事ともをそめいそくをみるにつけてもあやしう
2044-11 めつらかなる心ちすれとかけてもいひいてられすたちぬいなとするをこれ
2044-12 御らんしいれよ物をいとうつくしうひねらせ給へはとてこうちきのひとへたてまつる
2044-13 をうたておほゆれは心ちあしとて手もふれすふし給へりあまきみいそく
2044-14 ことをうちすてていかかおほさるるなと思みたれ給紅に櫻のをり物のうちきかさね
2045-01 ておまへにはかかるをこそたてまつらすへけれあさましきすみそめなりや
2045-02 といふ人あり
2045-03 あま衣かはれる身にやありしよのかたみに袖をかけてしのはんとかきていとおしく
2045-04 なくもなりなん後に物のかくれなき世なりけれはききあはせなとして
2045-05 うとましきまてにかくしけるなとや思はんなとさまさま思つつ過にし方のこと
2045-06 はたえて忘れ侍にしをかやうなることをおほしいそくにつけてこそほのかにあはれなれ
2045-07 とおほとかにの給さりともおほしいつることはおほからんをつきせす
2045-08 へたて給こそ心うけれ身にはかかるよのつねの色あひなとひさしく忘れにけれ
2045-09 はなをなをしく侍につけても昔の人あらましかはなと思出侍るしかあつかひきこえ
2045-10 給けん人よにおはすらんやかてなくなしてみ侍したに猶いつこにあらむそこ
2045-11 とたに尋きかまほしくおほえ侍を行ゑしらて思ひきこえ給人々侍らむかしと
2045-12 の給へはみし程まてはひとりは物し給きこの月比うせやし給ぬらんとて涙のおつる
2045-13 をまきらはして中中思出るにつけてうたて侍れはこそえきこえ出ねへたて
2045-14 はなにことにかのこし侍らむとことすくなにの給なしつ大將はこのはてのわさ
2046-01 なとせさせ給てはかなくてやみぬるかなとあはれにおほすかのひたちのことも
2046-02 はかうふりしたりしはくら人になしてわか御つかさのそうになしなといたはり
2046-03 給けりわらはなるか中にきよけなるをはちかくつかひならさむとそおほしたり
2046-04 ける雨なとふりてしめやかなる夜きさひの宮にまいり給へり御まへのとやかなる
2046-05 日にて御物かたりなときこえ給つゐてにあやしき山里に年ころまかりかよひ
2046-06 み給へしを人のそしり侍しもさるへきにこそはあらめたれも心のよる方のこと
2046-07 はさなむあると思給へなしつつ猶時々みたまへしを所のさかにやと心うく思
2046-08 給へなりにし後は道もはるけき心ちし侍てひさしう物し侍らぬをさいつ-ナシ物のたより
2046-09 にまかりてはかなきよの有さまとり重て思給へしにことさら道心おこす
2046-10 へくつくりをきたりける聖の栖となんおほえ侍しとけいし給にかのことおほしいて
2046-11 ていといとおしけれはそこにはおそろしき物やすむらんいかようにてか彼
2046-12 人はなくなりにしととはせ給ふをなをつつきをおほしよる方と思てさも侍らん
2046-13 さやうの人はなれたる所はよからぬ物なんかならすすみつき侍をうせ侍にしさま
2046-14 もなん-ナシ)いとあやしく侍るとてくはしくはきこえ給はす猶かくしのふるすちを
2047-01 ききあらはしけりと思給はんかいとおしくおほされ宮の物をのみおほしてその比
2047-02 はやまゐになり給しをおほしあはするにもさすかに心くるしうてかたかたに
2047-03 くちいれにくき人のうへとおほしととめつこさいしやうに忍ひて大將かの人の
2047-04 ことをいとあはれと思ての給しにいとおしうてうちいてつへかりしかとそれに
2047-05 もあらさらむ物ゆへとつつましうてなん君そことことききあはせけるかたはなら
2047-06 むことはとりかくしてさることなんありけると大方の物語のついてにそうつ
2047-07 のいひしことをかたれとの給はすおまへにたにつつませ給はむことをましてこと人
2047-08 はいかてかときこえさすれとさまさまなることにこそ又まろはいとおしき
2047-09 ことそあるやとのたまはするも心えておかしとみたてまつる立よりてものかたり
2047-10 なとし給ふつゐてにいひいてたりめつらかにあやしといかてかおとろかれ給は
2047-11 さらむ宮のとはせ給いしもかかることをほのおほしよりてなりけりなとかのたまはせはつ
2047-12 ましきとつらけれとわれも又はしめよりありしさまのこときこえそめ
2047-13 さりしかはききて後も猶おこかましき心ちして人にすへてもらさぬを中中
2047-14 外にはきこゆるかたもあらむかしうつつの人々の中に忍ることたにかくれ
2048-01 あるよの中かはなと思いりて此人にもさなむありしなとあかし給はんことは猶
2048-02 くちをもき心ちして猶あやしと思し人のことににても有ける人のありさまかな
2048-03 さて其人は猶あらんやとの給へはかのそうつの山よりいてし日なむあまになし
2048-04 つるいみしうわつらいし程にもみる人おしみてせさせさりしをさうしみのほい
2048-05 ふかきよしをいひてなりぬるとこそ侍なりしかといふ所もかはらすそのころの
2048-06 有さまと思あはするにたかふふしなけれはまことにそれとたつねいてたらんいとあさましき
2048-07 心ちもすへきかないかてかはたしかにきくへきおりたちて尋ありかん
2048-08 もかたくなしなとや人いひなさん又彼宮もききつけ給へらんにはかならすおほしいて
2048-09 て思いりにけん道もさまたけ給てんかしさてさなの給いそなときこえをき
2048-10 給れは-ナシ)われにはさることなんききしとさるめつらしきことをきこしめし
2048-11 なからの給はせぬにやありけん宮もかかつらひ給ふにてはいみしうあはれと思
2048-12 なからもさらにやかてうせにし物と思なしてをやみなんうつし人になりて末の世
2048-13 にはきなるいつみのほとりはかりををのつからかたらひよる風のまきれもあり
2048-14 なん我ものにとり返しみんの心又つかはしなと思みたれて猶のたまはすや
2049-01 あらんとおほゆれと御けしきのゆかしけれは大宮にさるへきつゐてつくりいたし
2049-02 てそけいし給あさましうてうしなひ侍ぬと思給へし人よにおちあふれてある
2049-03 やうに人のまねひ侍しかないかてかさることは侍らんとおもひ給へれと心とおとろおとろしう
2049-04 もてはなるることは侍らすやと思わたり侍人のありさまにはへれは
2049-05 人のかたり侍へしやうにてはさるやうもや侍らむとにつかはしく思給へらるる
2049-06 とて今すこしきこえいて給宮の御ことをいとはつかしけにさすかにうらみたる
2049-07 さまにはいひなし給はてかのことまたさなんとききつけ給へらはかたくなにすきすきしう
2049-08 もおほされぬへし更にさてありけりともしらすかほにてすくし侍なん
2049-09 とけいし給へはそうつのかたりしにいとおそろしかり-ナシ)よのことにて耳
2049-10 もととめさりしことにこそ宮はいかてかきき給はむきこえん方なかりける御心
2049-11 のほとかなときけはましてききつけ給はんこそいとくるしかるへけれかかるすち
2049-12 につけていとかろくうき物にのみ世にしられ給ぬめれは心うくなとの給はす
2049-13 いとをもき御心なれはかならすしもうちとけよかたりにても人の忍てけいしけん
2049-14 ことをもらさせ給はしなとおほすすむらん山里はいつこにかはあらむいかにして
2050-01 さまあしからす尋よらむ僧都にあひてこそはたしかなる有さまもききあはせ
2050-02 なとしてともかくもとふへかめれなとたた此事をおきふしおほす月ことの八日
2050-03 はかならすたうときわさせさせ給へはやくし仏によせたてまつるにもてなし
2050-04 給つるたよりに中たうに時時まいり給けりそれよりやかて横川におはせんと
2050-05 おほしてかのせうとのわらはなるゐておはすその人々にはとみにしらせし有さま
2050-06 にそしたかはんとおほせとうちみむ夢の心ちにもあはれをもくはへむとにや
2050-07 ありけんさすかにその人とはみつけなからあやしきさまにかたちことなる人の
2050-08 なかにてうきことをききつけたらんこそいしかるへけれとよろつにみちすから
2050-09 おほしみたれけるにや


前田侯爵家蔵 傳津守國冬・慈寛各筆 目次へ戻る

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