54巻 夢のうきはし

畳語、繰り返し文字は文字になおしてあります。


2055-01 やまにおはしてれいせさせ給やうに經佛なとくやうせさせ給又の日はよかはに
2055-02 おはしたれはそうつおとろきかしこまりきこえ給としころ御いのりなとつけかたらひ
2055-03 たまひけれとことにいとしたしきことはなかりけるをこのたひ一品の宮
2055-04 の御心ちのほとにさふらひ給へるにすくれたまへるけん物し給けりとみたまひ
2055-05 てよりこよなうたうとひたまひていますこしふかきちきりくはへ給てけれはおもおもしく
2055-06 おはするとののかくわさとおはしましたることともてさはききこえ
2055-07 給御物かたりなとこまやかにしておはすれは御ゆつけなとまいり給すこし人人
2055-08 しつまりぬるにをののわたりにしり給へるやとりや侍ととひ給へはしか侍
2055-09 いとことやうなるところになんなにかしかははなるくちあまの侍を京にはかはかしから
2055-10 ぬすみかもはへらぬうちにかくてこもり侍あひたは夜中あか月にも
2055-11 あひとふらはんとおもひたまへをきて侍なと申給そのわたりにはたたちかきころをひ
2055-12 まて人おほうすみ侍けるをいまはいとかすかにこそなりゆくめれなとの給
2055-13 ていますこしちかうゐよりてしのひやかにいとうきたる心ちもしはへる又たつね
2055-14 きこえんにつけてはいかなりけることにかと心えすおほされぬへきにかたかた
2056-01 ははかられ侍れとかの山さとにしるへき人のかくろへて侍るやうにきき侍
2056-02 しをたしかにこそはいかなるさまにてなとももらしきこえめなとおもひたまふる
2056-03 ほとに御てしになりていむことなとさつけ給てけりときき侍はまことかまた
2056-04 としもわかくおやなともありし人なれはここにうしなひたるやうにかことかくる
2056-05 人なん侍をなとの給そうつされはよたた人とみえさりし人のさまそかしかく
2056-06 まての給はかろかろしくはおほされさりける人にこそあめれとおもふにほうし
2056-07 といひなから心もなくたちまちにかたちをやつしてけることとむねつふれて
2056-08 いらへきこえんやうおもひまはさるたしかにきき給へるにこそあめれかはかり
2056-09 心え給てうかかひたつねたまはんにかくれあるへきことにもあらす中中あらかひかくさ
2056-10 んにあいなかるへしなととはかり思えていかなることにか侍けんこの
2056-11 月ころうちうちにあやしみおもふたまふる人の御ことにやとてかしこに侍あまとも
2056-12 のはつせにくわん侍てまうててかへりけるみちにうちの院といふ所にととまり
2056-13 て侍けるにははのあまのらうけにわかにおこりていたくなんわつらふと
2056-14 つけに人のまうてきたりしかはまかりむかひたりしにもまつあやしきことなん
2057-01 とささめきておやのしにかへるをはさしをきてもてあつかひなけきてなん侍り
2057-02 しこの人もなくなりたまへるさまなからさすかにいきかよひておはしけれはむかし物かたり
2057-03 にたまとのにをきたりけん人のたとひをおもひいててさやうなる
2057-04 ことにやとめつらしかり侍て弟子はらの中にけんある物ともをよひよせつつかはりかはりに
2057-05 かちせさせなとなんし侍けるなにかしはおしむへきよはひならねと
2057-06 ははのたひのそらにてやまひをもきをたすけて念佛をも心みたれせさせんと
2057-07 ほとけをねんしたてまつりおもふ給へしほとにその人のありさまくはしくもみ
2057-08 たまへすなん侍しことの心をしはかり思たまふるにてんくこたまなとやうの物
2057-09 のあさむきいてたてまつりたりけるにやとなんうけたまはりしたすけて京にゐてたてまつり
2057-10 てのちも三月はかりはなき人にてなんものしたまひけるをなにかし
2057-11 かいもうとこゑもんのかみのきたのかたにて侍しかあまになりて侍なんひとり
2057-12 もちて侍し女こをうしなひてのち月日はおほくへたて侍しかとかなしひたえ
2057-13 すなけきおもひ給へ侍におなしとしのほととみゆる人のかくかたちいとうるわしく
2057-14 きよらなるをみいてたてまつりてくわんをんのたまへるとよろこひおもひ
2058-01 てこの人いたつらになしたてまつらしとまとひいられてなくなくいみしきこととも
2058-02 を申されしかはのちになんかのさかもとに身つからおり侍りてこしむなと
2058-03 つかまつりしに(やうやういきいてて人となりたまへりけれと-ナシ)猶このらうしたり
2058-04 ける物の身にはなれぬ心ちなんするこのあしきものさまたけをのかれてのちのよ
2058-05 をおもはんなとかなしけにのたまふこととものはへしかはほうしにてはすすめ
2058-06 -ナシ申つへきことにこそはとてまことにすけせしめたてまつりてしに侍さらに
2058-07 しろしめすへきこととはいかてかはそらにさとり侍らむめつらしきことのさま
2058-08 にもあるをよかたりにもし侍ぬへかりしかときこえありてわつらはしかるへき
2058-09 ことにもこそとこのおい人とものとかく申てこの月ころをとなく-ナシ)侍つるになと
2058-10 申たまへはさてこそあなれとほのききてかくまてもとひいてたまへることなれ
2058-11 とむけになき人とおもひはてにし人をさはまことにあるにこそはとおほすほと
2058-12 ゆめの心ちしてあさましけれはつつみもあへすなみたくまれ給ひぬるをそうつ
2058-13 のはつかしけなるにかくまてみゆへきことかはとおもひかへしてつれなくもてなし
2058-14 たまへとかくおほしけることをこの世にはなき人とおなしやうになしたる
2059-01 こととあやまちしたる心ちしてつみふかけれはあしきものにらうせられ給けん
2059-02 もさるへきさきのよのちきりなりおもふにたかきいゑのこにこそものし給けめ
2059-03 いかなるあやまりにてかくまてはふれ給けんにかととひ申給へはなまわかむとほり
2059-04 なといふへきすちにやありけんここにももとよりわさとおもひしことに
2059-05 も侍らす物はかなくてみつけそめて侍しかと又いとかくまておちあふるへききは
2059-06 とは思たまへさりしをめつらかにあともなくきえうせにしかは身をなけたる
2059-07 にやなとさまさまにうたかひおほくてたしかなることはえきき侍らさりつるに
2059-08 なんつみかろめて物すなれはいとよしと心やすくなん身つからはおもひ給へなり
2059-09 ぬるをははなる人なんいみしくこひかなしふなるをかくなんききいてたると
2059-10 つけしらせまほしくはへれと月ころかくさせ給けるほいたかふやうにものさはかしく
2059-11 や侍らむおやこの中のおもひたえすかなしひにたへてとふらひものしなと
2059-12 し侍なんかしなとのたまひてさていとひんなきしるへとはおほすともかのさかもと
2059-13 におりたまへかはかりききてなのめにおもひすくすへくは思ひ侍らさり
2059-14 し人なるをゆめのやうなることとももいまたにかたりあはせんとなんおもふ給ふ
2060-01 なとの給けしきいとあはれと思たまへれはかたちをかへよをそむきにきと
2060-02 おほえたれとかみひけをそりたるほうしたにあやしき心はうせぬもあなりまして
2060-03 女の御身はいかかあらんいとおしくつみえぬへきわさにもあるへきかなとあちきなく
2060-04 心みたれぬまかりおりむことけふあすはさはり侍月たちてのほとに御せうそこ
2060-05 を申させ侍らんと申給いと心もとなけれとなをとうちつけにいられん
2060-06 もさまあしけれはさらはとてかへり給かの御せうとのわらは御ともにゐておはし
2060-07 たりけりことはらからともよりはかたちもきよけなるをよひいて給てこれなんその
2060-08 人のちかきゆかりなるをこれをかつかつ物せん御ふみひとくたり給へその人と
2060-09 はなくてたたたつねきこゆるひとなんあるとはかりの心をしらせ給へとのたまへ
2060-10 はなにかしこのしるへにてかならすつみえ侍なんことのありさまくはしく
2060-11 とり申ついまは御身つからたちよらせ給てあるへからむことはものせさせ給は
2060-12 んになにのとかか侍らむと申給へはうちわらひてつみえぬへきしるへとおもひなし
2060-13 給らんこそはつかしけれここにはそくのかたちにていままてすくすなん
2060-14 いとあやしきいはけなかりしよりおもふ心さしふかく侍を三条の宮の心ほそけに
2061-01 てたのもしけなき身ひとつをよすかにおほしたるかさりかたきほたしにおほえ
2061-02 はへりてかかつらひ侍つるほとにをのつからくらひなといふ事もたかくなり
2061-03 身のをきても心にかなひかたくなとしておもひなからすき侍には又えさらぬこと
2061-04 もかすのみそひつつすくせとおほやけわたくしにのかれかたきことにつけて
2061-05 こそさも侍さらめさらてはほとけのせいし給かたのことをわつかにもききをよは
2061-06 んことはいかてあやまたしとつつしみて心のうちはひしりにおとり侍らぬ物を
2061-07 ましていとはかなきことにつけてしもをもきつみうへきことはなにとてかおもひ
2061-08 たまへんさらにあるましき事に侍りうたかひおほすましたたいとおしきおや
2061-09 の思ひなとをききあきらめはへらむはかりなんうれしう心やすかるへきなと
2061-10 むかしよりふかかりしかたの心はえをかたり給そうつもけにとうなつきていとと
2061-11 たうときことなときこえ給ほとにひもくれぬれは中やとりもいとよかりぬへけれ
2061-12 とうはのそらにてものしたらむこそなをひなかるへけれとおもひわつらひ
2061-13 てかへりたまふにこのせうとのわらはをそうつめとめてほめたまふこれにつけ
2061-14 てまつほのめかし給へときこえ給へはふみかきてとらせ給時時は山におはし
2062-01 てあそひ給へよとすすろなるやうにはおほすましきゆへもありけりとうちかたらひ
2062-02 給このこは心もえねとふみとりて御ともにいつさかもとになれは御せんの
2062-03 人人すこしたちあかれてしのひやかにをとの給をのにはいとふかくしけりたる
2062-04 あをはのやまにむかひてまきるることなくやりみつのほたるはかりをむかし
2062-05 おほゆるなくさめにてなかめゐ給へるにれいのはるかにみやらるるたにののきは
2062-06 よりさき心ことにをひていとおほくともしたる火ののとかならぬひかりをみる
2062-07 とてあまきみたちもはしにいてゐたりたかおはするにかあらん御せんなといと
2062-08 おほくこそみゆれひるあなたにひきほしたてまつれたりつるかへり事に大將殿
2062-09 おはしましておほんあるしのことにはかにするをいとよきおりとこそありつれ
2062-10 大將殿とはこの女二の宮の御をとこにやおはしつらむなといふもいとこのよ
2062-11 とほくゐなかひたりやまことにさにやあらん時時かかる山ちわけおはせしとき
2062-12 いとしるかりしすいしんのこゑもうちつけにましりてきこゆる月日のすきゆく
2062-13 ままにむかしのことのかくおもひわすれぬもいまはなににすへきことそと心うけれ
2062-14 はあみたほとけにおもひまきらはしていととものもいはてゐたりよかは
2063-01 にかよふ人のみなんこのわたりにはちかきたよりなりけるかの殿はこのこをやかて
2063-02 やらむとおほしけれと人めおほくてひんなけれは殿にかへり給て又のひことさらに
2063-03 そいたしたて給むつましくおほす人のことことしからぬ二三人をくり
2063-04 にてむかしもつねにつかはししすいしんそへたまへり人きかぬまによひよせ給
2063-05 てあこかうせにしいもうとのかほはおほゆやいまはよになき人とおもひはてに
2063-06 しをいとたしかにこそものし給なれうとき人にはきかせしとおもふをいきてたつねよ
2063-07 ははにいまたしきにいふな中中おとろきさはかんほとにしるましき人
2063-08 もしりなんそのおやのみ思のいとおしさにこそかくもたつぬれとまたきにいと
2063-09 くちかため給をおさなき心ちにもはらからはおほかれとこのきみのかたちをは
2063-10 にるものなしとおもひしみたりしにうせ給にけりとききていとかなしとおもひわたる
2063-11 にかくのたまへはうれしきにもなみたのおつるをはつかしとおもひてをを
2063-12 とあららかにきこえゐたりかしこにはまたつとめてそうつの御もとより夜部
2063-13 大將とのの御つかひにてこきみやまうて給へりしことの心うけたまはりしにあちきなく
2063-14 かへりておくし侍てなとひめ君にきこえ給へみつからきこえさすへき
2064-01 こともおほかれとけふあすすくしてさふらふへしとかき給へりこれはなに事そ
2064-02 とあま君おとろきてこなたへもてわたりてみせたてまつり給へはおもてうち-ナシ)あかみ
2064-03 て物のきこえのあるにやとくるしう物かくししけるとうらみられんをおもひつつくる
2064-04 にいらへんかたなくてゐたまへるに猶のたまはせよ心うくおほしへたつる
2064-05 事といみしくうらみてことの心をしらねはあわたたしきまておもひたるほと
2064-06 にやまよりそうつの御せうそこにてまいりたる人なんあるといひいれたりあやしけれ
2064-07 とこれこそはさはたしかなる御せうそこならめとてこなたにといはせ
2064-08 たれはいときよけにしなやかなるわらはのえならすさうそきたるそあゆみきたる
2064-09 わらうたさしいてたれはすたれのもとについゐてかやうにてはさふらふましく
2064-10 こそはそうつはの給しかといへはあまきみそいらへなとし給ふみとりいれて
2064-11 みれはにうたうのひめきみの御かたにやまよりとてなかき給へりあらしなとあらかふ
2064-12 へきやうもなしいとはしたなくおほえていよいよ-ナシ)ひきいられて人にかほ
2064-13 もみあはせすつねにほこりかならす物したまふ人からなれといとうたて-ナシ)心うし
2064-14 なといひてそうつの御文みれはけさここに大將殿のものし給ておほんありさま
2065-01 たつねとひ給はしめよりありしやうくはしくきこえ侍ぬおほん心さしふかかり
2065-02 ける御中をそむきてあやしき山かつの中に出家し給へることかへりては佛のせめ
2065-03 そふへきことなるをなんうけ給はりおとろき侍いかかはせんもとの御ちきり
2065-04 あやまちたまはてあいしふのつみをはるかしきこえ給て一日のすけのくとくは
2065-05 はかりなき物なれは猶たのませたまへとなんことことには身つからさふらひて
2065-06 申侍らんかつかつこのこきみきこえ給てんとかきたりまかうへうもあらすかきあきらめ
2065-07 給へれとこと人は心もえすこのきみはたれにかおはすらんなをいと心うし
2065-08 いまさへかくあなかちにへたてさせ給とせめられてすこしとさまにむきて
2065-09 みたまへはこのこはいまはとよをおもひなりしゆふくれにいまこひしとおもひ
2065-10 し人なりけりおなし所にてみしほとはいとさかなくあやにくにおこりてにくかり
2065-11 しかとははのいとかなしくして宇治にも時時ゐておはせしかはすこしおよすけ
2065-12 しままにかたみにおもへりしわらは心をおもひいつるにゆめのやうなりまつ
2065-13 ははのありさまいととはまほしくこと人人のうへはをのつからきけとおや
2065-14 のおはすらんやうはほのかにもえきかすかしと中中これをみるにいとかなしく
2066-01 てほろほろとなかれぬいとおかしけにてすこしうちおほえたまへる心ちもすれ
2066-02 はおほんはらからにこそおはすめれきこえまほしくおほす事もあらんうちに
2066-03 いれたてまつらんといふをなにかいまは世にある物ともおもはさらんにあやしき
2066-04 さまにおもかはりしてふとみえんもはつかしとおもへはとはかりためらひて
2066-05 けにへたてありとおほしなすらむかくるしさに物もいはれてなんあさましかり
2066-06 けんありさまはめつらかなることとみ給てけんをさてうつし心もうせたましひ
2066-07 なといふらん物もあらぬさまになりにけるにやあらんいかにもいかにもすきにしかた
2066-08 のことを我なからさらにえおもひいてぬにきのかみとかありし人の世の物かたり
2066-09 すめりし中になんみしあたりのことにやとほのかにおもひいてらるること
2066-10 ある心ちせしそののちとさまかうさまにおもひつつくれとさらにはかはかしく
2066-11 もおほえぬにたたひとりものしたまへし人のいかてとをろかならすおもひためり
2066-12 しをまたやよにおはすらむとそれはかりなん心にはなれすかなしきおりおり
2066-13 侍にけふみれはこのわらはのかほはちゐさくてみし心ちするにもいとしのひかたけれ
2066-14 といまさらにかかる人にもありとはしられてやみなんとなん思侍かの人
2067-01 もしよにものしたまははそれひとりになんたいめんせまほしくおもひ侍このそうつ
2067-02 のの給へる人なとにはさらにしられたてまつらしとこそおもひはへれかまへて
2067-03 ひかことなりけりときこえなしてもてかくし給へとのたまへはいとかたき
2067-04 ことかなそうつの御心はひしりといふなかにもあまりくまなくものしたまへは
2067-05 いまさらにのこいてはきこえたまひてんやのちにかくれあらしなのめにかろかろしき
2067-06 御ほとにもおはしまさすなといひさはきてよにしらす心つよくおはします
2067-07 こそなとみないひあはせてもやのきはにき丁たてていれたりこのこもさはきき
2067-08 つれとおさなけれはふといひよらんもつつましけれと又侍御文いかてたてまつら
2067-09 んそうつの御しるへはたしかなるをかくおほつかなく侍こそとふしめにて
2067-10 いへはそそやあなうつくしなといひて御文御らんすへき人はたたにものせさせ
2067-11 給めりけさうの人なんいかなることにかと心えかたく侍を猶のたまはせよおさなき
2067-12 御ほとなれとかかる御しるへにたのみきこえ給やうもあらんなといへはおほしへたて
2067-13 ておほおほしくもてなさせ給にはなにことをかきこえ侍らむうとく
2067-14 おほしなりにけれはきこゆへきことも侍らすたたこの御文を人つてならてたてまつれ
2068-01 とて侍つるいかてたてまつらんといへはいとことはりなり猶いとかくうたて
2068-02 おはせそさすかにむくつけき御心にこそときこえうこかしてき丁のもとに
2068-03 をしよせたてまつりたれはあれにもあらてゐたまへるけはひこと人にはにぬ心ちすれ
2068-04 はそこもとによりてたてまつりつ御返とく給てまいりなんとかくうとうとしき
2068-05 を心うしと思ていそくあま君御ふみひきときてみせたてまつるありしなから
2068-06 の御てにてかみのかなとれいのよつかぬまてしみたりほのかにみてれいの
2068-07 物めてのさしすき人いとありかたくおかしとおもふへしさらにきこえんかた
2068-08 なくさまさまにつみをもき御心をはそうつにおもひゆるしきこえていまはいかてか
2068-09 あさましかりしよの夢かたりをたにといそかるる心のわれなからもとかしき
2068-10 になんましてひとめはいかにとかきもやり給はす
2068-11 のりのしとたつぬるみちをしるへにておもはぬやまにふみまとふかなこの
2068-12 人はみやわすれたまひぬらむここにはゆくゑなき御かたみにみる物にてなんなと
2068-13 いとこまやかなりかくつふつふとかきたまへるさまのまきらはさんかたなき
2068-14 にさりとてそのひとにもあらぬさまをおもひのほかにみつけられきこえたらむ
2069-01 ほとのはしたなさなとをおもひみたれていととはれはれしからぬ心はいひやる
2069-02 へきかたもなしさすかにうちなきてひれふしたまへれはいとよつかぬ御ありさま
2069-03 かなとみわつらひぬいかかきこえんなとせめられて心ちのかきみたるやうに
2069-04 し侍ほとためらひていまきこえんむかしのことおもひいつれとさらにおほゆる
2069-05 こともなくあやしくいかなりけるゆめにかとのみ心もえすなんすこししつまり
2069-06 てやこの御ふみなともみしらるる事もあらむけふはなをもてまいりたまひねところたかへ
2069-07 にもあらむにいとかたはらいたかるへしとてひろけなからあまきみ
2069-08 にさしやりたまへれはいとみくるしき御事かなあまりけしからぬはみたてまつる
2069-09 人もつみさりところなかるへしなといひさはくもうたてききにくくおほゆれ
2069-10 はかほもひきいれてふしたまへりあるしそのこきみに物かたりすこしきこえて
2069-11 もののけにやおはすらんれいのさまにみえ給おりなくなやみわたり給て御かたち
2069-12 もことになり給へるをたつねきこえ給人あらはいとわつらはしかるへきこと
2069-13 とみたてまつりなけき侍しもしるくかくいとあはれに心くるしき御ことともの
2069-14 侍けるをいまなんいとかたしけなく思ひ侍ひころもうちはへなやませ給めるを
2070-01 いととかかることともにおほしみたるるにやつねよりも物おほえさせ給はぬさま
2070-02 にてなんときこゆところにつけておかしきあるしなとしたれとおさなき心ち
2070-03 はそこはかとなくあはてたる心ちしてわさとたてまつれさせ給へるしるしになにこと
2070-04 をかはきこえさせんとすらむたたひとことをのたまはせよかしなといへ
2070-05 はけになといひてかくなむとうつしかたれともものもの給はねはかひなくてたた
2070-06 かくおほつかなき御ありさまをきこえさせ給へきなめりくものはるかにへたたら
2070-07 ぬほとにも侍めるをやまかせふくとも又もかならすたちよらせ給なんかし
2070-08 といへはすすろにゐくらさむもあやしかるへけれはかへりなんとす人しれすゆかしき
2070-09 御ありさまをもえみすなりぬるをおほつかなくくちをしくて心ゆかすなから
2070-10 まいりぬいつしかとまちおはするにかくたとたとしくてかへりきたれはすさましく
2070-11 中中なりとおほすことさまさまにて人のかくしすへたるにやあらん
2070-12 と我御心のおもひよらぬくまなくおとしをきたまへりしならひにとそ


前田侯爵家蔵 傳津守國冬・慈寛各筆 目次へ戻る

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