出現する巻と本文(新日本古典文学大系 源氏物語;岩波書店) |
「葵」 P299-01 扇のつまをおりて、 はかなしや人のかざせるあふひゆへ神のゆるしのけふを待ちける しめのうちには。 とある手をおぼし出づれば、かの内侍のすけなりけり。あさましう古りがたくもいまめくかな、とにくさに、はしたなう、 かざしける心ぞあだに思ほゆる八十氏人になべてあふひを 女はつらしと思きこえけり。 「須磨」 P18-08 賀茂の下の御社をかれと見はたすほど、ふと思ひ出でられて、下りて御馬の口を取る。 ひき連れて葵かざししそのかみを思へばつらし賀茂の瑞垣 と言ふを、げにいかに思ふらむ、人よりけにはなやかなりしものを、とおぼすも心ぐるし。 「藤袴」 P105-15 宮の御返りをぞ、いかゞおぼすらむ、たゞいさゝかにて、 心もて光にむかふあふひだに朝をく霜をおのれやは消つ 「若菜下」 P369-15 童べの持たる葵を見たまひて、 くやしくぞつみをかしけるあふひ草神のゆるせるかざしならぬに 「幻」 P198-15 裳、唐衣も脱ぎすべしたりけるを、とかく引きかけなどするに、葵をかたはらにをきたりけるを、よりて取り給て、「いかにとかや、この名こそ忘れにけれ」との給へば、さもこそはよるべの水に水草ゐめけふのかざしよ名さへ忘るるとはぢらひて聞こゆ。げに、といとおしくて、 大方は思ひすててし世なれどもあふひは猶やつみおかすべき |