出現する巻と本文(新日本古典文学大系 源氏物語;岩波書店) |
「若紫 」 P168-11 見給て、僧都、聖徳太子の百済より得たまへりける金剛子の数珠の玉の装束したる、やがてその国より入れたる箱の唐めいたるを、透きたる袋に入れて、五えうの枝につけて、紺瑠璃の壷どもに御薬ども入れて、藤、桜などにつけて、所につけたる御をくりものども捧げたてまつり給ふ。 「若紫」 P174-09 嵐吹おのへの桜散らぬ間を心とめけるほどのはかなさ 「花宴 」 P281-12 花盛りは過ぎにたるを、「ほかの散りなむ」とや教へられたりけむ、をくれて咲く桜二木ぞいとおもしろき。 「須磨」 P019-12 いつかまた春のみやこの花を見ん時うしなへる山がつにして桜の散りすきたる枝につけ給へり。「かくなむ」と御覧ぜさすれば、おさなき御心ちにも、まめだちておはします。 「須磨」 P041-02 須磨には、年かへりて日長くつれづれなるに、植へし若木の桜ほのかに咲きそめて、空のけしきうららかなるに、よろづの事おぼし出でられて、うち泣き給ふおり多かり。 「須磨」 P041-08 いつとなく大宮人の恋しきに桜かざししけふを来にけり 「薄曇」 P232-08 二条院の御前の桜を御覧じても、花の宴のおりなどおぼし出づ。 「少女」 P317-13 花盛りはまだしき程なれど、やよひは故宮の御忌月なり、とくひらけたる桜の色もいとおもしろければ、院にも御用意ことにつくろひみがかせ給ひ、行幸に仕うまつり給上達部、親王たちよりはじめ、心づかひし給へり。 「少女」 P323-06 南の東は、山高く、春の花の木、数を尽くして植へ、池のさまおもしろくすぐれて、御前近き前栽、五えう、紅梅、桜、藤、山吹、岩躑躅などやうの春のもてあそびをわざとは植へで、秋の前栽をばむらむらほのかにまぜたり。 「胡蝶」 P401-08 ほかには盛り過ぎたる桜も、いま盛りにほお笑み、廊をめぐれる藤の色もこまやかにひらけゆきにけり。 「胡蝶」 P404-15 鳥、蝶に装束き分けたる童べ八人、かたちなどことにとゝのへさせ給ひて、鳥には、銀の花瓶に桜をさし、蝶は、黄金の瓶に山吹を、おなじき花の房いかめしう、世になきにほひを尽くさせ給へり。 「胡蝶」 P405-03 南の御前の山際より漕ぎ出でて、を前に出づるほど、風吹きて、瓶の桜すこしうち散りまがふ。 「野分」 P051-13 かの見つるさきざきの桜、山吹と言はば、これは藤の花とや言ふべからむ、木高き木より咲きかゝりて、風になびきたるにほひは、かくぞあるかし、と思ひよそへらる。 「若菜 上」 P246-03 「花と言はば、かくこそ匂はまほしけれな。桜に移しては、又塵ばかりも心分くる方なくやあらまし」などの給。 「若菜 上」 P295-05 御階の間に当たれる桜の陰によりて、人人、花の上も忘れて心に入れたるを、おとゞも、宮も、隅の高欄に出でて御覧ず。 「若菜 上」 P295-14 督の君つゞきて、「花乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」などの給つゝ、宮の御前の方をしり目に見れば、例の、ことにおさまらぬけはひどもして、色色こぼれ出でたる御簾のつま、透影など、春の手向けの幣袋にやとおぼゆ。 「若菜 上」 P300-11 「いかなれば花に木伝ふ鶯の桜をわきてねぐらとはせぬ春の鳥の、桜ひとつにとまらぬ心よ。あやしとおぼゆる事ぞかし」と、口ずさびに言へば、いで、あなあぢきなの物あつかひや、さればよ、と思ふ。 「若菜 下」 P339-09 紫の上は、葡萄染にやあらむ、色濃き小袿、薄すわうの細長に御髪のたまれるほど、こちたくゆるらかに、大きさなどよきほどに様体あらまほしく、あたりににほひみちたる心ちして、花と言はば桜にたとへても、なをものよりすぐれたるけはひことに物し給。 「若菜 下」 P373-08 又、「かく足らひぬる人は、かならずえ長からぬ事なり。「何を桜に」といふ古事もあるは。かゝる人のいとゞ世にながらへて、世の楽しびを尽くさば、かたはらの人苦しからむ。いまこそ、二品宮は、もとの御おぼえあらはれ給はめ。いとおしげにおされたりつる御おぼえを」など、うちさゝめきけり。 「柏木」 P036-12 御前近き桜のいとおもしろきを、ことしばかりはとうちおぼゆるも、いまいましき筋なりければ、「あひ見むことは」口ずさびて、 時しあればかはらぬ色ににほひけりかたへ枯れにし宿の桜もわざとならず誦じなして立ち給に、 「御法」 P169-05 「大人になり給ひなば、ここに住み給て、この対の前なる紅梅と桜とは花のおりおりに心とどめてもて遊び給へ。さるべからむおりは仏にもたてまつり給へ」と聞こえ給へば、うちうなづきて、御顔をまもりて、涙の落つべかめれば、立ちておはしぬ。 「幻」 P192-04 若宮、「まろが桜は咲きにけり。いかで久しく散らさじ。木のめぐりに帳を立てて、帷子を上げずは、風もえ吹寄らじ」と、かしこう思ひ得たりと思ひてのたまふ顔のいとうつくしきにも、うち笑まれ給ぬ。 「竹河」 P262-12 やよひになりて、咲く桜あれば、散りかひ曇り、大方の盛りなるころ、のどやかにおはする所は、紛るることなく、端近なる罪もあるまじかめり。 「竹河」 P265-04 御前の花の木どもの中にも、にほひまさりておかしき桜をおらせて、「ほかのには似ずこそ」などもて遊び給を、「おさなくおはしましし時、この花はわがぞわがぞ、と争ひ給しを、故殿は、姫君の御花ぞと定め給、 「竹河」 P265-08 「この桜の老木になりにけるにつけても、過ぎにける齢を思たまへ出づれば、あまたの人にをくれ侍にける身の愁へもとめがたうこそ」など、泣きみ笑ひみ聞こえ給て、例よりはのどやかにおはす。 「竹河」 P266-10 中将など立ちたまひてのち、君たちは、うちさしたまへる五打ち給。むかしより争ひ給桜を賭物にて、「三番に数一勝ちたまはむ方には、猶花を寄せてん」とたはぶれかはし聞こえ給。 「竹河」 P267-13 桜ゆへ風に心のさはぐかな思ひぐまなき花と見る見る 「竹河」 P285-07 我をむかしより、故おとどはとりわきておぼしかしづき、かんの君は、若君を、桜の争ひ、はかなきおりにも心寄せ給しなごりに、おぼし落としけるよ、とうらめしう思きこえ給けり。 「椎本」 P342-08 はるばると霞みわたれる空に、散る桜あれば今ひらけそむるなど、色々見わたさるるに、川ぞひ柳の起き臥しなびく水影など、おろかならずおかしきを、見ならひ給はぬ人は、いとめづらしく見捨てがたしとおぼさる。 「椎本」 P372-15 つてに見し宿の桜をこの春はかすみへだてずおりてかざさむ 「椎本」 P373-03 いづことかたづねておらむ墨染にかすみこめたる宿の桜を 「総角」 P436-11 桜こそ思しらすれ咲きにほふ花も紅葉もつねならぬ世を 「早蕨」 P019-08 花盛りの程、二条の院の桜を見やり給に、主なき宿のまづ思やられ給へば、「心やすくや」などひとりごちあまりて、宮の御もとにまいり給へり。 「浮舟」 P239-12 「けさ、かの宇治に、出雲の権の守時方の朝臣のもとに侍るおとこの、紫の薄榛にて桜につけたる文を、西の妻戸に寄りて女房にとらせ侍りつる、 |