出現する巻と本文(新日本古典文学大系 源氏物語;岩波書店) |
「蓬生」 p135-02 ただ御せうとの禅師の君ばかりぞ、まれにも京に出でたまふ時はさしのぞき給へど、それも世になき古めき人にて、おなじきほうしといふなかにも、たづきなくこの世を離れたる聖にものし給て、しげき草蓬をだに掻き払はむものとも思ひより給はず。 「蓬生」 p145-06 霜月ばかりなれば、雪霰がちにて、ほかには消ゆる間もあるを、朝日夕日をふせぐ蓬葎の陰に深う積もりて、越の白山思ひやらるる雪のうちに、出で入る下人だになくて、つれづれとながめ給ふ。 「蓬生」 p148-08 むかしのあとも見えぬ蓬のしげさかな」との給へば、「しかしかなむたどり寄りてはべりつる。侍従がをばの少将とゐひはべりし老い人なん、変はらぬ声にてはべりつる」とありさま聞こゆ。 「蓬生」 p149-02 さらにえ分けさせ給ふまじき蓬の露けさになむはべる。 「蓬生」 p149-05 たづねともわれこそとはめ道もなく深き蓬のもとの心を 「蓬生」 p152-09 中にも、この宮にはこまやかにおぼしよりて、むつましき人々に仰せ事給ひ、下部どもなど遣はして、蓬払はせ、めぐりの見ぐるしきに板垣といふものいち堅めつくろはせ給ふ。 「蓬生」 p152-14 人々の上までおぼしやりつつ、とぶらひきこえ給へば、かくあやしき蓬のもとにはをきどころなきまで、女ばらも空を仰ぎてなむ、そなたに向きてよろこびきこえける。 「松風」 p195-15 ............さらにみやこに帰りて、古受領の沈めるたぐひにて、貧しき家の蓬葎、もとのありさまあらたむることもなきものから、............ 「朝顔」 p262-02 いつのまによもぎがもととむすぼほれ雪ふる里と荒れし垣根ぞ 「柏木」 p039-09 庭もやうやう青み出づる若草見えわたり、ここかしこの砂子薄きものの隠れの方に蓬も所ゑ顔なり。前栽に心入れてつくろひ給しも、心にまかせて茂りあひ、一むら薄も頼もしげに広ごりて、虫の音添はん秋思ひやらるるより、いとものあはれに露けくて分け入り給。 「東屋」 p178-04 かやうの朝ぼらけに見れば、物いただきたる者の鬼のやうなるぞかしと聞き給ふも、かかる蓬のまろ寝にならひ給はぬ心ちもおかしくもありけり。宿直人も門あけて出るをとする、をのをの入りて臥しなどするを聞給て、人召して、車、妻戸に寄せさせ給ふ。 |