いと忍びて見そめたりし人の
馴れ行くままに…たえだれ忘れ
ぬものに思う給へしを
久しきとだえをも…ただ朝夕に
もてつけたらむ有様に見えて…
親もなく、いと心細げにて…ら
うたげなりき
幼き者などもありしに
この見給ふるわたりより…うた
てある事をなむ、さる便ありて、
かすめいはせたりける
瞿麦の花を折りて……
…あはれはかけよなでしこの露
…なほ常夏にしくものぞなき
…あらし吹きそふ秋も来にけり
心安くて、またとだえ置き侍り
し程に、あともなくこそかき消
ちて失せにしか
瞿麦のらうたく侍りしかば、い
かで尋ねむと
これこそのたまへるはかなき例
なめれ
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頭の中将なむ、まだ少将
にものし給ひし時、見そ
め奉らせ給ひて
三年ばかりは志ある様に
通ひ給ひしを
親達は早う亡せ給ひにき
一昨年の春ぞものし給へ
りし。女にて
去年の秋頃、…いと恐し
き事の聞え参で来しに
はひ隠れ給へりし
幼き人惑したりと、中将
の憂へしは、さる人や
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顔こそいとよく侍り
しか
物思へるけはひして
ある人々も忍びてう
ち泣く様など
五月の頃ほひよりも
のし給ふ人なむある
べけれど
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揚名の介なる人の
家
男は田舎に罷りて、
妻なむ若く事好み
て、兄弟など宮仕
人にて…さらばそ
の宮仕人ななり
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