源氏物語解体新書
〜視覚と嗅覚の深淵な世界から〜
上田 裕一・上田 英代
1 はじめに |
光源氏は持てる男の典型例として、プレイボーイとして、世にもてはやされている。しかし光源氏自身が絶世の美男子と自己認識するのは難しいことを、白雪姫の物語を考察しながら論証する。
光源氏はライバルの頭中将を見るにつけ、本当に彼より美男子なのであろうか?といぶかしみ、周りの女房たちの絶賛が過ぎれば過ぎるほど、この評価は自らの出自、身分、位などから来るお世辞や、称賛交じりの評価ではないのか?と疑い、ほめられればほめられるほど心の中の僅かな影は広がっていく。そのような心の影を持った絶世の美男子が関係をもった女性たちはいかなる女性たちだったのであろうか?紫式部は主人公にどんな女性をあてがったのであろうか。帚木、空蝉、夕顔については前著「パトグラフィー紫式部」で明らかにした。
源氏物語の根幹である光源氏と藤壺との二人の関係、亡き母親と似ていると言われてたが故の、決して口外できない不適切な関係、光源氏の物語に深く関与しその文学性に大いに寄与しているテーマ。このテーマに合わせて紫式部の原文(本文)が1000年に渡って読まれ、解釈されて来たが故の既成概念化された不倫関係。父帝の寵愛する藤壺を犯す?物語がその当初から平安貴族に受け入れられたのであろうか?藤壺との関係は当初、亡き母桐壺の更衣に似ているといわれての出会いであろう。何時から不倫関係になったのであろう。
前著「パトグラフィー紫式部」であきらかにしたように、紫式部は読者の反応を見ながら物語を展開していく。しかも後期挿入という方法で両者の関係を変化させていく。現在の巻順での物語の展開では第一巻目で、光源氏が女性との性関係を結んでいないとすると、その好色性もさることながら第二巻目で人妻をまず落とすことになる。そんな物語が平安時代には好まれたとは推測できない。桐壺の巻で藤壺に会ったのは桐壺帝に纏わってであって成人の光源氏ではない。元服をした後と考えても二人の関係はまったく述べられていない。通常幼少児時期から側に居て育てられると其の異性とは恋愛関係にはなかなか発展することは少ない。光源氏はそればかりか母親と似ていると言われているのであるから恋人関係や性的関係に進むことはまれのまれである。その点でも性関係を持つとすれば著者らの論による『聞き置き給える』むすめの方がより妥当性がある。
出来上がってしまった物語を解体するのは困難が伴う。その逆は例が沢山ある。物語が出来上がっていく過程、そしてその修正方法、さらには強いイメージが形成された後はいくら書かれていても無意識的に読み飛ばしてしまって記載されている内容による変更が行われない。例として、美を主題としている身近に周知である『白雪姫』の検討から始める。
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