植物 出現する巻と本文(新日本古典文学大系 源氏物語;岩波書店)


「つき草に衣摺(す)らむ、朝露にぬれて
後は変(うつろ)ひぬとも」(万葉集) 
昔はこの花で布に下絵を描く染料とし
ていました。色をつけるのでツキクサ。 
変じてツユクサと呼ばれるようになりま 
した。心変わりの象徴とされました。 
   < つきくさ  >

「総角」  P437-10
姫宮は、まして、なををとに聞く月草の色なる御心なりけり、ほのかに人の言ふを聞けば、おとこといふものは、そら言をこそいとよくすなれ、思はぬ人を思ふ顔にとりなす言の葉多かるものと、....


10月ごろ実がオレンジ色に色づきます。
この実を黄色の染料とします。      
   < くちなし >

「賢木」  P380-15
さま変れる御すまゐに、御簾の端、御き帳も青鈍にて、隙隙よりほの見えたる薄鈍、梔子の袖口など中中なまめかしう奥ゆかしう思ひやれ給。

「玉鬘」  P380-15
空蝉の尼君に、青鈍のをりもの、いと心ばせあるを見つけ給て、御料にある梔子の御衣、聴し色なる添へ給て、同じ日着給べき御消息聞こえめぐらし給ふ。


秋に白色又は赤紫色の花をつけます。
   < はぎ >

「帚木」   P52−15
御心のまゝに折らば落ちぬべきの露、拾はば消えなんと見る玉笹の上のあられなどの、艶にあえかなるすきずきしさのみこそをかしくおぼさるらめ、

「若菜」  P259-10
水鳥の青葉は色もかはらぬをの下こそけしきことなれ

「御法」   P170-12
をくと見る程ぞはかなきともすれば風に乱るるの上露

「匂宮」   P219-13
小牡鹿の妻にすめるの露にもをさをさ御心移し給はず、老を忘るゝ菊に、おとろへ行藤袴、物げなきわれもかうなどは、いとすさまじき霜枯れのころをひまでおぼし捨てず、

「東屋」   P169-03
兵部卿宮ののなをことにおもしろくもあるかな。いかでさる種ありけん。

"参考"
<はぎのえん>
「横笛」   P064-11
かの衛門督は、童よりいとことなる音を吹き出でしに感じて、かの宮のの宴せられける日、をくり物にとらせたまへるなり。

<こはぎ>
「桐壺」   P012-11
宮城野の露吹き結ぶ風の音に小萩が本を思ひこそやれ

「桐壺」   P016-03
荒き風ふせぎし陰の枯しより小萩がうへぞ静心なき

「野分」   P037-03
南のおとゞにも、前栽つくろはせ給ひけるおりにしも、かく吹き出でて、もとあらの小萩はしたなく待ち得たる風のけしきなり。

「椎本」   P357-08
牡鹿なく秋の山ざといかならむ小萩が露のかかる夕ぐれ

「東屋」   P169-10
しめ結ひし小萩がうへもまよはぬにいかなる露にうつる下葉ぞ

「東屋」   P169-12
宮城野の小萩がもとと知らませば露も心をわかずぞあらましいかでみづから聞こえさせあきらめむ


マメ科の群生つる草です。
   < くず >

「若菜下」   P323−10
十月中の十日なれば、神の斎垣に這ふも色変はりて、松の下紅葉など、をとにのみも秋を聞かぬ顔なり。

「総角」   P436-15
見し人もなき山里の岩垣に心ながくも這へる


一年生つる草のカナムグラのこととされます。
繁殖力が旺盛で、手入れをしない庭や、門
を数週間で覆いつくしてしまうことから、荒れ
た邸宅の象徴とされました。         
   < むぐら >

「須磨」  P029-08
げによりほかの後見もなきさまにておはすらんとおぼしやりて、長雨に築地所所崩れてなむと聞き給へば、京の家司のもとに仰せつかはして、近き国国の御荘の者などもよをさせて仕うまつるべきよしのたまはす。

「蓬生」   P135-07
は西東の御門を閉ぢこめたるぞ頼もしけれど、崩れがちなるめぐりの垣を馬牛などの踏みならしたる道にて、春夏になれば、放ち飼う総角の心さへぞめざましき。
「蓬生」   P145-07
霜月ばかりなれば、雪霰がちにて、ほかには消ゆる間もあるを、朝日夕日をふせぐ蓬の陰に深う積もりて、越の白山思ひやらるる雪のうちに、出で入る下人だになくて、つれづれとながめ給ふ。

「松風」   P195-15
さらにみやこに帰りて、古受領の沈めるたぐひにて、貧しき家の蓬、もとのありさまあらたむることもなきものから、公私におこがましき名を弘めて、親の御亡き影をはづかしめむ事のいみじさになむ、やがて世を捨てつる門出なりけり

「椎本」   P364-10
好ましく艶におぼさるべかめるも、かういと埋もれたるの下より、さし出でたらむ手つきも、いかにうゐうゐしく古めきたらむ、など思屈し給へり。

「東屋」   P177-06
さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそぎかな

「浮舟」   P253-04
まいりて、かくなんと聞こゆれば、語らひたまふべきやうだになければ、山がつの垣根のおどろの陰に、障泥といふ物を敷きて下ろしたてまつる。

「手習」   P350-09
秋の野の露わけきたる狩衣むぐらしげれる宿にかこつな

"参考"
<むぐらのかど>
「帚木」   P037−08
さて、世にありと人に知られず、さびしくあはれたらむの門に、思ひのほかにらうたげならん人の閉ぢられたらんこそ限りなくめづらしくはおぼえめ。

「末摘花」   P226-07
いとあはれにさびしく荒れまどへるに、松の雪のみあたたかげに降りつめる、山里の心ちしてものあはれなるを、かの人人の言ひしの門は、かうやうなる所なりけむかし、

「竹河」   P288-05
かくいと草深くなりゆくの門を避をよき給はぬ御心ばえにも、先昔の御こと思出られてなん

<むぐらのやど>
「横笛」   P057-03
霧しげき葎の宿にいにしへの秋にかはらぬ虫の声かな

<やえむぐら>
「桐壷」   P011-03
草も高く成、暴風にいとど荒れたる心ちして、月影ばかりぞ八重葎にも障らずさし入りたる。



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